番外編:ダースとロゼは夏祭りを楽しみたい!
「ダースさーん! こっちですー!」
花火大会会場の河原を練り歩く人々。カップル。親子。みんな楽しそうな顔をしてやがる。そんな雑踏をかき分けて、俺は目的地に進む。すると、一人の少女――いや、少年がこちらに手を振り、俺の名を呼ぶ。
「悪い、遅くなっちまったな」
「いえ、ボクも今来たところですから大丈夫ですよ!」
緑髪を揺らし、気丈に笑う。こいつはロゼ。『今来た』なんて言ってるが、俺はこいつが30分前からスタンバっているタイプなのを知っている。
「その、ダースさん……」
「ん?」
出会って早々、ロゼはなんだかモジモジし始めた。どうした、トイレか?
「今日の浴衣……どうでしょうか?」
浴衣? そういえば、今日のロゼはいつもの白衣ではなく浴衣姿だ。ロゼが着ている紺色の浴衣にはヒマワリが描かれている。
「お前それレディースじゃないのか?」
「えっ、そうなんですか!? 店員さんに勧められたんですが……」
なるほど、お前の容姿で店員に浴衣を選んでもらったらそうなるよな。だって女の子にしか見えないもん。
「そんな……結構高かったのに……」
ロゼはしょんぼりとして俯く。こいつはとにかくミスが多い。普通レディースの浴衣なんか買わないだろ。それでも、俺と一緒に花火を見るのが楽しみだったんだろう。
「……まあ、似合ってると思うぞ」
だから、少しだけ褒めておく。
「本当ですか?」
「本当だ。男の娘ってのは要素みたいなものだからな。逆にここでメンズの浴衣なんか着てたらわかってないぜ?」
慰めになっているのかはわからないが、その言葉を聞いたロゼは表情をパッと明るくして。
「ダースさんに褒めてもらえるなら、これでよかったです! ダースさんもとってもカッコいいですよ!」
……本当にさあ。なんでこいつ男なんだろうな。この街にいる恐ろしい女どもよりもよっぽど可愛い。俺に褒められて元気になる様子に庇護欲を刺激されるっつーか……でも男なんだよなあ。
「ダースさん! さっそく屋台を回りませんか!?」
「おう。……と、言いたいところなんだが、実は今財布がすっからかんでな……」
というのも、数分前になけなしの小遣いをロリっ子に奪われちまった。俺はロゼと楽しく屋台を回りたかっただけなのに、途中で会ったロリっ子に、りんご飴だけじゃなくお好み焼きや牛串など合計3000ギル分もおごらされてしまった。おかげで俺の所持金はほぼゼロ。
今度は俺が肩を落としながらロゼに事情を話した。俺のグチも、ロゼは時々うんうんと頷いて傾聴してくれた。
「ええっ!? そんなことがあったんですか!?」
「そうなんだ……チンピラに金を奪われちまったからお前に何か買ってやることができない、どころか自分でも何も買えないんだ……」
「ダースさんも苦労してるんですね……でも、大丈夫です!」
ロゼは一通り話を聞いて、懐からがま口の財布を取り出すと。
「こういう時のためにバイト代をコツコツ貯めておいたんです! たくさんではありませんが、何か美味しいものでも食べて元気出しましょう!」
「……結婚しよう」
「はい! って、ええ!?」
おっと、思わずプロポーズしちまった。ロゼ、なんていいやつなんだ……俺はもう泣きそうだぞ。本当になんでお前は男なの……。
「えーゴホン。さて、さっそくだが屋台を回ろうか。ロゼはどこに行きたいんだ?」
「ボクはダースさんが行きたいところならどこでもいいですよ!」
「俺がおごってもらう立場なのに、いいのか?」
「はい! ボクはダースさんの行きたい場所に行きたいです!」
嫌々ではない。満面の笑みで俺の話を聞いてくれる。なんでこんなに俺に優しくしてくれるんだろ。申し訳なくなってくる。
ロゼがいいと言うなら行きたい屋台は決まっている。
「ロゼ! わたあめ食べようぜ!」
「わたあめですか! いいですね!」
俺がチョイスしたのは雲のような見た目でおなじみの『わたあめ』。見ると、屋台の店主のおっちゃんが機械に割りばしを突っ込んでわたあめを量産している。
「ダースさん、どうしてわたあめにしたんですか?」
「なんでって、そりゃあカロリー高そうだろ? なんたってザラメだし。しばらくはロクなものが食えなくなりそうだから、できるだけカロリーが高いものをだな……」
「切実すぎですよ! このあと一緒にから揚げでも食べましょう!」
いいのか……? わたあめだけじゃなくから揚げまで? 天使か?
「すみませーん! わたあめ二つください!」
ロゼは店主のおっちゃんに小銭を払う。おっちゃんはそれを受け取ると、わたあめを作る準備を始める。
「なあロゼ。わたあめってなんで出来るんだろうな。あんなよくわからない機械にザラメをぶち込むだけなのに」
「あ、それはこの前マツリさんに教わりましたよ! だからボクが解説しますね!」
えっへん、と自慢げに言うロゼ。マツリさんはなんでロゼにそんなことを教えたんだろうな。すげえ気になる。
「まず、機械の真ん中にザラメを入れると、高熱で溶かされるんです」
おっちゃんはザラメをじゃらじゃらと機械の中心部分に流し込む。なるほど、あの筒みたいな部位で熱されていたのか。
「すると、筒に開けられた小さな穴から遠心力で溶けたザラメが飛び出します」
「遠心力って聞いたことあるぞ! バケツを回しても中の水が落ちないってやつだろ?」
前に雑巾掛けの時にやって、失敗してユートにバケツの水をぶっかけたっけな。2週間口を聞いてもらえなかったのを覚えている。
「正解です! そして、ザラメは飛び出した後急速に冷えることで、糸のように細くなるんです」
なるほど、わたあめが蜘蛛の糸みたいになっているのはそういうからくりだったのか。
感心していると、おっちゃんがいじっている機械にもわたあめが発生し始める。ドーナツのような受け皿は少しずつわたあめでいっぱいになっていく。おっちゃんは割りばしを使って器用にわたあめをすくいあげていく。
「そこまではわかったけどよ。だとしたらなんでわたあめはフワフワになるんだ?」
「穴から飛び出したザラメが冷えて固まるまでに、空気を含むからです!」
それにもちゃんと理由があるのか。科学の力ってすげーんだな。
「わたあめ二つ、お待ちどう!」
おっちゃんが完成したわたあめを差し出す。まるで雲の一部を切り取ったかのようなフワフワのわたあめ。
「ありがとうございます!」
ロゼはおっちゃんから二人分のわたあめを受け取ってくれた。
「おい少年! 彼女のことはちゃんと大切にしろよ!」
「か、彼女ですか!?」
屋台のおっちゃんの発言に、ロゼはポッと顔を赤らめる。そしてチラチラとこちらを見てくるので。
「……結婚しちゃおうか」
「だ、ダースさん!? 駄目ですよ! ボクたち男同士ですから!」
慌てて否定するが、実はまんざらでもなさそうなロゼ。俺は冗談で言っているつもりなんだが、真に受けているのはどっちかというとこいつの方だ。
ああ、ロゼは本当に可愛いな。ロゼが女だったら間違いなく結婚するんだけどなあ。せめて悪いやつにだけは騙されないように守ってやりたい。
なんて思いながら、頬を朱に染めるロゼと並んで歩き、俺はわたあめの甘みをを口の中で味わうのだった。




