表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
64/133

30話後半 リサは過去と向き合いたい!

「ふー、なかなか骨が折れたな」


 私とギルバートは、街の消火を終えてベンチに座っていた。


 あのフランツとか言うピエロが思ったよりギルバートのことを暴れさせていたらしく、消火活動は1時間ほどかかってしまった。火が大きいところはギルバートにやらせたとはいえ、さすがの私ももうクタクタ。


 火事の規模は思ったより大きく、今日の花火大会は中止になってしまうかもしれない。少し楽しみだっただけに残念だ。浴衣、着たかったなあ。


 ……とはいえ、必死の消火活動のおかげで怪我人はほとんど出なかったので、私としてはこれでよかったのかな、とも思う。


「なーに浮かない顔してんだよ、ほれ飲め」


 ギルバートは私の顔にペットボトルを当ててくる。結露しているから冷たい。思わずビクッとする。


「キモッ。マジでキモイわ。セクハラだわ。訴えるわ」


 私はギルバートからアポカリを受け取って、ごくりと飲む。


 そういえば、ギルバートとの200回目の戦いの後もこんな感じだったような。このあとギルバートになんで弟子になりたいかを聞かれたんだっけ。


「……リサ、悪かったな」


 独り言のような声量で、ギルバートがボソリと言った。


「なによ、らしくもない。ひょっとして傀儡化したのを気にしてるの? ダサッ」


「ちげえよ! ……お前のことを信じてやれなくて、悪かったって言いてえんだよ。ほら、俺のことを撃ち殺せって言っただろ? まさかお前がフランツを倒せるなんて思わなくてな……」


 なにこいつ。もしかして反省してんの?


「……私だって、倒せるなんて思ってなかったわよ。実際、何回アンタを見捨てて大勢の命を救おうと思ったかはわからないわ。逃げようとも思ったし」


 そういえば、あの日もそうだった。


「アンタと喧嘩した時もそうよ。200回も戦いを挑んで、それでも勝ち目が少しもなくて。私は戦うことから逃げるために、アンタの言葉に反抗したのよ。もうみじめな思いをしなくていいように」


 ギルバートに弟子入りして最強になりたかったのに、ギルドで一番の男と今の自分との間にはこんなにも実力差があるのかと毎日痛感した。


 寝る間も惜しんで魔法の勉強をして、24時間、戦っているとき以外も魔法のことに時間を注いだ。それでも勝てなくて、嫌になっていた。


 そんな時、ギルバートはが『全部を救うことができる人間はいない』なんて言い出すもんだから、私はきっと好機と思ったのね。反発して、ギルバートが嫌いな風に装って、向き合うことから逃げた。


 今になって痛いほどわかる。私はこれまで向き合うことから逃げてきたのが。


「……そうか。そういうことだったんだな」


 ギルバートはポツリとそう言うと、私の頭にポンと手のひらを置いた。まるで撫でるように。


「なによ」


「リサ。逃げたっていいんだ。世の中にはできることがあれば、できないことも山ほどある。だから逃げることは全然カッコ悪いことじゃない。そして今回……逃げずに立ち向かったお前は凄いよ」


 ギルバートが私のことを褒めるのは何げに初めてかもしれない。


 いつも私がギルバートに憎まれ口をたたいて、ギルバートがそれを聞いて困ったように笑う。私たちはずっとそんな関係だった。


 でも、今日ギルバートが死ぬかもしれないと思った時、なんだか心が痛くなるのを感じた。近づくと離れるけど、離れるとなんだか寂しくなる。そんな不思議な気持ちになった。


 ――だから、今日は正直に言おう。


「バアアアアアカ!! 何カッコつけてんだよ!! イタいぞおっさん!」


 私はあかんべをする。


「な、お前! 人がせっかくいいこと言ってるのに! ちょっと真面目な雰囲気だっただろうが!!」


「しけたこと言ってるんじゃないわよ! 天才の私はこれからもパパっと事件を解決するんだから、逃げるわけないでしょうが! 馬の耳に念仏、猫に小判なのよ!」


「いや、それ馬鹿なやつに何やっても無駄っていう意味だし……」


 あーもう、うっさいなあ!


「いい!? ギルバート。答えは一つじゃないの。私は信念を貫くし、ヒーローにもなる。アンタの意見なんて聞いてないのよ!」


 私は私なりの道を進む。


「だから、せいぜい私に置いて行かれないようにすることね! これからも私の後を着いてくることくらいは許してやるわ!」


 やっぱり、私とギルバートの関係はこんな感じでいいと思う。


「……ったく、しょうがねえなあ。お前の言ってることを理解できたことは一回もないけど、俺もそれに乗ってやる。カッカッカ、せいぜい楽しませろよ?」


 いつもの独特の笑い方をするギルバート。私もそれを見て微笑む。素直じゃないけど、これが私たち。


「さて、そろそろ日が暮れるし、花火でもやるか!」


「何言ってんのよ。こんだけ街が大騒ぎで、花火大会なんてやるわけないでしょうが」


「いいや。俺を誰だと思ってるんだ? 俺の副業は花火師だぜ?」


 力こぶをつくり、任せろ、と言わんばかりのギルバート。


 いや、アンタが打ち上げるんかい!!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ