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3話前半 アリシアさんはスライムが苦手?

「ユート君、ウインナーってなんで赤いんだろうね」


 冒険者ギルドに並べられた長机にて。アリシアさんはギルド内のバーで購入したプレートの上のウインナーを見て言う。


食糧事情(しょくりょうじじょう)が厳しかった時代に、それを改善するために発色をよくしたらしいですよ。赤いほうが美味しそうに見えますから」


「へ~」


 アリシアさんはフォークでウインナーを突き刺し、そのまま口に入れる。パリッ、という皮の音が聞こえてくる。とてもおいしそうだ。


「本題ですけど、今日も作戦考えてきましたよ」


「お~! 作戦ナンバー2だね!」


「ええ。しかしその前に……アリシアさん。あなたは本当に()()()()()嫌いなんですか?」


「えっ?」


 アリシアさんはキョトンとする。それもそのはず、彼女はこれまで自分がスライム嫌いであると考えてきたからだ。


「当たり前だよー! 見たでしょ、私がスライムを前に腰を抜かしてるの」


「違います。もしかしたらアリシアさんは、()()()()()()()()()嫌いなんじゃないですか?」


「……あ!」


 アリシアさんが声を上げる。そう、よく考えると、アリシアさんがスライムだけが嫌いであると決め打つには早すぎたのだ。


 もし他のドロドロしたものにも恐怖心を感じるのだとしたら、『スライム克服』ではなく『ドロドロ克服』の方法を考える必要がある。


 そして、『アリシアさんはスライムが苦手』なのではなく、『アリシアさんはドロドロが苦手』であれば、わざわざ森に行く必要はなくなるのだ。この前みたいにスライムまみれになる必要もない。


「それは考えてなかったよ! さっすがユート君!」


「ありがとうございます! じゃあ早速やりましょうか!」


「うん! でもどうやって?」


「準備はできています」


 僕はそう言って指を三本立てた。


「これから三つのガラスの小瓶(こびん)を机の上に置きます。一つは昨日僕が採取したスライムのドロドロ。一つはメロン味のゼリー。そして一つは緑色に着色されたローションが中に入っています」


「ローションなんてよく用意したね」


「昨日ドラッグストアで買ってきました」


 昨日解散した後、ドラッグストアのマルキヨで購入してきたのだ。ピンで買うのが恥ずかしかったので、無意味に雑誌を購入してしまったのは内緒。


「今から三つの小瓶を、一つずつランダムで出します。その中でどれがスライム入りの小瓶なのかを当ててください!」


「なるほど! それで私がスライム以外のものを選択したら、スライム以外のドロドロでも嫌いなのかもしれない! というわけだね!」


「そういうことです!」


 アリシアさんもルールを理解してきたところで、作戦ナンバー2『ドロドロまぜまぜ大作戦』を実行することに。


「まずはこれです」


 緑色のドロドロが入った小瓶を一つ、机の上に置いた。


「なるほど……思ったよりおぞましいね」


 小瓶に入った、エメラルドグリーン色のドロドロ。スライムの体と同じエメラルドグリーン色だ。ヘドロのようなドロドロ具合で、こうして見ると気持ち悪い。アリシアさんはいつもこんなのにまみれているのかと思うと尊敬の念が湧いてくる。


「でも、これは違うと思う!」


「……ファイナルアンサー?」


「……ファイナルアンサー!」


 アリシアさん、正解。これは僕が昨日買ったローションだ。今のところは正解。


「では、次はこれです!」


 二つ目の小瓶を机の上に置く。さっきのローションの小瓶と遜色(そんしょく)ない、緑色のドロドロ入りだ。


「見た感じはさっきのと変わりないけど……」


「さあ、どうですか?」


「三つ目の小瓶を見せて! それと比べて判断する!」


 なるほど、確実に正解を当てに行くスタイルか……。


 ちなみに二つ目の小瓶はメロン味のゼリー。つまり最後の三つ目の小瓶がスライムの粘液だ。


 もしこの二択でアリシアさんが三つ目の小瓶がスライムだと正解すれば、アリシアさんは真のスライム嫌いということになるはず。


「いいでしょう。最後の小瓶がこれです!」


 三つ目の正解の小瓶をバッグから取り出し、机の上に並べると。


「あああああああ!! それええええええええ!!」


 その瞬間、アリシアさんが立ちあがり、三つ目の小瓶を指さしたッ!


「即答……だと?」


「うん!! 絶対それだよ!」


 自信たっぷりに言うアリシアさん。これはマグレではない!


「何故そう思うんです?」


「なんていうか、それ見てるとぞわぞわってするの! この気持ち悪さは間違いなくスライムだよ!」


 そんなざっくりとした理由でだと……? しかし、実際に彼女はスライム入りの小瓶を当てている。


「だったら……これでどうですか!?」


 僕は三つの小瓶に紙コップをかぶせ、そのままシャッフルする。


「あっ!? スライム入りの小瓶がどこにあるかわからなくなっちゃった!?」


 三つの紙コップはグルグルと位置を交換し、どこに何があったかわからなくする。ある程度順番を組み替えると、紙コップを外し、三つの小瓶を見えるようにした。


「さあ! どれがスライムの小瓶でしょうか!? ちなみに答えは僕にもわかりません!」


「これだ!!」


 これにはアリシアさんも少し迷うだ……速っ!? 僕の想定の五倍くらいの速さで、アリシアさんは一番右の小瓶を指さした。


「か、完敗だ……」


 今回の実験でわかったこと。アリシアさんは間違いなく、スライムが苦手だ。


 アリシアさんは見事(?)スライム入りの小瓶を見つけることができた。彼女のスライム嫌いは本物だ。スライムのようなドロドロ全般が苦手なわけではなく、スライムだけが嫌いなのだ。


「やっぱりスライム自体を克服していくしかないかあ……今日の作戦も失敗でしたね」


「そんなに気を落とさないで! まだ始まったばかりだから!」


 アリシアさんは両方の拳を胸の前でグッと握り、僕を励ます。


「今回の作戦だって失敗じゃないよ! 次の成功の確率を上げただけって考えよう!」


「確かに、その調子で成功するまで繰り返していればいずれ成功しますもんね」


 よーし、なんだかやる気が出てきた。こうなれば今すぐにでも新しい作戦を……


「……待てよ?」


「どうしたの?」


「スライムを構成する要素って、ドロドロだけじゃないですよね?」


 僕はどうやら重大な勘違いをしていたらしい。

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