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25話後半 夏はバカンスが最高!

「は? この状況から勝つ? 冗談だろ!」


 ハッハッハ、と高笑いするダース。そりゃそうだ。状況は圧倒的に僕たちのチームが不利。笑いたくなる気持ちもわかる。


 でも、なんかあいつのマヌケな笑い顔を見ていたら無性に腹が立ってきてしまった。こうなったら絶対に勝ってやる。


「アリシアさん、作戦があるんですが……」


 そうと決まれば善は急げ。僕はアリシアさんの方へ近づき、彼女に耳打ちをする。今とっさに思いついた作戦なので上手くいく可能性は低いと思われるが、もはややるしかない。


「……おいお前ら、警戒しろよ。あいつ何してくるかわからないぞ」


「何よキモ男? そんなにビビっちゃって。あの二人組なんて私にかかれば楽勝よ。アンタらは休んでてもいいわよ」


「いや、一人じゃバレーできねえから! 俺が言いたいのは、『スイッチが入った』ユートはやべえってことだよ!」


 ダースが慌て始める。あいつはなんだかんだ僕との付き合いが長いから、警戒しているんだろう。僕とアリシアさんはそんなダースたちの方を向く。


「行こう! 二人とも(・・・・)!」


「はっ! なんだか知らねえが、サーブ権は俺たちにあるんだよ! おらっ! これでチェックメイトだ!」


 ダースはボールを投げ上げると、手のひらでサーブする。ボールが弧を描いてネットを超えようとしたその時。


 ボールはピタリと空中で動きを止め、逆走してダースの顔面にめり込んでいった。


「ぶべらっ!」


 顔面に突っ込んでいったボールは、ダースの顔面をぐりぐりと攻撃し、満足したように数秒して地面にポトリと落ちる。


「今のはサーブミスだな! 僕たちの得点だ!」


「いや絶対おかしいわ!」


 ハイタッチをする僕とアリシアさんに、リサが猛烈に抗議の声を上げる。


「キモ! アンタはボールと間違えてブーメランでも投げたの!? 馬鹿なんじゃないの!?」


「魚のキャラクターみたいに呼ぶんじゃねえ! 俺だってわかんねえよ! 自分で投げたボールが顔面に戻って来たんだぞ!? しかもなんかグリグリされたし! あきらかに自然法則を無視してるわ!」


「喧嘩しないでください! ボクたちが揉めても解決になりませんよ!」


 揉めるリサとダース。それをなんとかなだめようとするロゼさん。それもそのはずだ。いきなり目の前で不可解なことが起こったらパニックにもなるだろう。


「さて、次のサーブ権は僕たちだね。揉めてるところ悪いけど、そろそろ行くよ」


「くそっ、ロゼの言う通りだ。ロリっ子、ここは協力して次のあいつらの攻撃をしのぐぞ!」


「不服だけど仕方ないわ。なんとしてもあのボールをレシーブする!」


 いがみ合っていた二人だが、試合に臨む目的は同じ。ネットの方に向き直ると、体勢を低くした。


 僕はボールを投げ上げ、軽く手のひらでそれを押してやった。サーブはゆるやかな弧を描き、ノロノロと相手陣地へ進む。


「ハッ、なんだよ。ちょっとビビったが、ユートのサーブは雑魚そのものじゃねえか。あれなら簡単にレシーブできるぜ」


 ダースはほっと胸をなでおろし、僕が放ったサーブを見る。しかし、ボールがネットを超えた瞬間。


 弧を描いていたはずのボールがズドン、と直角に落下し、地面にめり込んだ。もちろん、そんな動きを想定していなかったダースたち三人は、目を丸くしてボールをまじまじと見つめた。


「よし、ダースたちの陣地で落ちたから僕たちの得点だ!」


「待てやオイイイイイイ!!」


 僕とアリシアさんが喜んでいると、ダースがネットを潜り抜けて僕の肩を掴んだ。目がギンギンに開いていて、凄く圧を感じる。


「お前、何やった? 絶対不正してるだろ」


「してないよ。何の話だよ」


「とぼけるんじゃねえ! 俺が打ったサーブがブーメランみたいに戻ってきたり、ボールがネットを超えた瞬間急に落下したり、お前のチームに都合がいいことが起きすぎなんだよ! なにが起こってるって言うんだよ!?」


 ダースは僕の肩をユサユサと揺らしてくる。顔が近くて唾が飛ぶからやめてほしい。


 確かにちょっと露骨すぎたかもなあ……。でも、僕とアリシアさん以外にこのイカサマを暴ける人はいないし、大丈夫か。


「アリシアさん!? 何かやってるんでしょ!? 正直に言ってください!」


「ワタシ、ナニモ、シラナイヨ」


「これは絶対なんか知ってますわ! なんか急に片言になったもん!」


 アリシアさんはステレオタイプな外国人みたいな言葉づかいで答える。この人嘘をつくのが下手すぎるだろ。


「なんか風でも吹いたんじゃない? そんなことよりゲームを続けようよ」


「ソウダヨ、ユートクンノ、イウトオリダヨ」


「くそっ、この二人! しかたねえ、何としても勝ってやるからな!」


 ダースもだいぶヒートアップしてきたようで、そそくさと自分の陣地へ戻る。


「キモ太郎、私に作戦があるわ」


「おおロリっ子! 作戦ってなんだ!? あとハムスターのキャラクターみたいに呼ぶのはやめろ!」


「これはやりたくなかったけど……ユートがサーブをした瞬間に、ボールに重力魔法をかけるの。そうすればボールはユートたちの陣地で落ちるわ」


「なるほど魔法か! ハッキリ言ってズル以外の何でもないが、この際なんでもやっちまえ!」


 リサの提案にダースはウキウキだ。いつもの僕ならそんな不正は認めないが、今回はいいだろう。


「じゃ、いくよー」


 僕はさっきと同じようにボールを投げ上げ、サーブをする。


「<ハイパーグラビティ>!」


 それと同時にリサが重力魔法を発動する。ボールを対象としているので、普通ならボールは地面に吸い寄せられるはずだ。


「はーっはっはっは! これで私たちの勝――ぶべらっ!」


 しかし、ボールはそのまま真っすぐにリサの顔面に突っ込んでいき、激しくめり込んだ後に地面にポトリと落ちた。


「なんで……なんで魔法も効かないの……」


 地面に仰向けで倒れ、涙目になるリサ。かわいそうだが、ズルをしようとしてたし妥当だろう。


 そのあとも順調に、僕とアリシアさんチームは不思議な力で加点を続け、見事に試合に勝利したのだった。



「いやー、まさかあそこから勝てるとは思わなかったよ!」


 試合後。アリシアさんは上機嫌に僕に言った。


「咄嗟に思いついた作戦でしたけど、うまくいってよかったですよ。カスミもお疲れさま」


 僕がそう言った途端、僕の体から魂が抜け出て。


「もー、カスミは便利アイテムじゃないんですよ。お兄とお姉はズルです」


 ぷっくりと頬を膨らませるカスミ。そう、今回の作戦は、カスミにボールをポルターガイストしてもらったのだ。


 ポルターガイストとは、幽霊が何かしらの力を使って、物を動かすこと。ビニール製のボールを動かすことなんて造作もないことだ。しかも、カスミを見ることはできるのは僕とアリシアさんだけ。絶対にバレないイカサマだ。


 カスミがボールを抱えて浮遊していたので、自由自在にボールを動かすことができた、というわけだ。我ながら完璧な作戦。


「それにしても、試合に勝ったらなんか元気出てきましたよ!」


「本当? 克服作戦やる気になった?」


「ええ。っていうか今、面白いネタを思いつきましたよ!」


 海でしかできないスライム克服作戦を思いついたのだ。せっかくだし、今日やっちゃおう!

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