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24話後半 アルコールは人間を変える!

「二人とも! なんでウイスキーボンボンを食べてるの!? っていうかいつの間に!?」


「え、これウイスキーボンボンなの? ユートが置きっぱなしにしたからつまみ食いしちゃったぞ」


 リサは悪びれる様子もなく言う。こいつ、置いてあるものは何でも食うタイプだな!


「あ、本当だ! これボクがさっき買ったチョコレートじゃない! ユートさんのウイスキーボンボンだ!」


 ロゼさんはロゼさんで、平常運転でドジかましてるし!


 チョコを食べた二人の顔がみるみるうちに赤くなっていく。アルコールが回ってきたのだろう。


 これは厄介だ。普段から厄介な三人が酔ったらより厄介になるに違いない。厄介ケルベロスだ。どうなるか予想が付かないので、僕のキャパシティを余裕でオーバーするんじゃないだろうか。


「大変なことになってるようね」


「マツリさん!」


 その時、僕の隣で声がした。ロゼさんの上司、マツリさんだ。いつもの白衣姿で僕の横に立ち、酔った三人の様子を見てため息をつく。まだ眠る時間ではないようで、目は比較的ぱっちりと開いている。


「マツリさん、実は今大変なことになっていて……」


「ええ。なんとなく状況は理解できたわ。私はロゼが忘れ物をしたから届けに来たんだけど、これはなかなか面倒な状況になったわね」


 マツリさんは困った顔でやれやれと呟くと、懐に手をやって。


「奇跡的に、アルコールを分解する薬が二つだけあるわ。これを飲ませれば酔いを醒ますことができるわ」


 マツリさんが取り出したのは、赤い液体が入った小瓶。おお、なんという準備の良さ。しかし、問題はそれが二つしかないということだ。三人全員にあげられない以上、厄介度が高い順に薬を投与したほうがいいだろう。


 僕はまずアリシアさんに目を向けた。酔っぱらっている彼女は今どんな感じかというと。


「うわーーーん! 連れって連れてって! ラーメン披露に行きたいーー!!」


 机に倒れかかり、拳で机の表面をポコポコと叩いて泣き喚いている。前回同様、酔って泣き出すタイプだ。


「マツリさん、これはどうですか?」


「スタンダードなタイプの泣き上戸(じょうご)ね。ただ、これはラーメン披露に連れていけば大人しくなるから厄介度は低めのFとしましょう」


「そのランク付けはなんなんですか?」


「私の今の厄介度をGとして、S〜Gの順に厄介度をランク付けするわ。誰に薬を飲ませるか決めやすくなるはずよ」


 マツリさんは冷静に分析を始める。僕はノートに『マツリさん G』、『アリシアさん F』と書いておいた。


 次に僕たちはリサの観察に入った。


「やだやだやだ! やだやだやだ!」


 リサはもはや机に座ることすらせず、床に寝っ転がって暴れている。スーパーでお菓子を買ってもらえない子供がやってるやつだ。体を捩るから、接地しているマントが雑巾になってしまっている。


「リサ、恥ずかしいからやめてよ」


「やだやだやだ! 駄菓子買って来い!! じゃなきゃやだ!!」


 信じられないくらい声がでかい。リサはしきりに『やだやだ』を連呼している。


「マツリさん、これはどういう状況なんでしょうか?」


「幼児退行ね。2歳前後の子供によくある『イヤイヤ期』に酷似しているわ」


 リサは子供っぽいと思っていたけど、酔うととうとう2歳児まで退行してしまうのか。あまりにもじゃないだろうか。僕が困惑するなか、マツリさんは淡々と続ける。


「一見すると駄菓子屋に連れていけば解決しそうだけど、イヤイヤ期の子供はしつけ方を間違えると赤ちゃん返りする可能性があるわ。こういう時は素直に受け止めてあげましょう」


 よし、受け止めればいいのか。僕はリサに近づくと。


「リサ、そうだね。駄菓子屋行きたいよね。また今度行こうね」


「憐れんでるんじゃねーよ! ぶっとばすぞ! もうヤダ! 私絶対ここから動かない!」


 そう言ってまた手足をばたつかせて背泳を始めてしまった。全然言うこと聞いてくれないんですけど。ドン引きしているとマツリさんが僕の肩をポンと叩いた。


「仕方ないわ。あなたが悪いわけじゃないもの。しばらく放置していればやめる可能性があるから放っておきましょう。厄介度はBね」


「Bですか。なかなか高ランクですね」


 リサを止めることはできないので、僕は諦めてノートに『リサ B』とだけ書き残しておいた。


 さて、次はロゼさんだ。普段から大人しいロゼさんは酔っぱらっても大人しそうだし、ささっとアリシアさんとリサに薬を投与して終わりかもな。視線をロゼさんの方に向けると。


「てめえどこ見て歩いてんだこの野郎!」


 ロゼさんは顔を真っ赤にしながら、他の冒険者の胸ぐらを掴みかかっている。突然のことに僕は驚愕した。


「ロゼさん! 何やってるんですか!? 駄目ですよ!」


「ああ!? てめえ何様だよ! 表出ろよ!」


 ロゼさんは普段の大人しい様子とは一変してチンピラみたいな口調で僕に近づいてくる。男の娘の男の部分が出てきちゃってるじゃん!


「マツリさん! ヤバいです! ロゼさんが不良になっちゃいました!」


「これは面白いデータね。普段あんなに真面目なロゼが酔うと人格が豹変(ひょうへん)するとはね」


「面白がってないで助けてくださーい!」


 ロゼさんは僕の胸ぐらを掴んでくる。この人よく考えたら普通に男なんだよな。どうりで力もそこそこ強い気がする。


「せいっ」


 次の瞬間、マツリさんはロゼさんの背後に立ち、首に手刀を入れる。ロゼさんはそのまま白目を剥いて倒れてしまった。


「力がそんなに強くないとはいえ、他人に危害を加えるのは考え物ね。厄介度Aといった感じかしら」


「マツリさん、ロゼさんのこと倒しちゃってよかったんですか? 気を失ってるみたいですよ?」


 ロゼさんは床に倒れたままピクリとも動かない。マツリさんはそんな彼の手首を掴むと。


「ええ。あなたが囮になってくれたから手刀が入れやすかったわ」


「そういう話じゃないです」


 ロゼさんが大丈夫なのかって話なんだけどな。しかし、彼が気絶したことで薬はアリシアさんとリサにいきわたる。


「迷惑をかけたわね。二人に薬を投与してあげて」


 マツリさんはズルズルとロゼさんを引きずって歩いていった。あの運び方は大丈夫なんだろうかと言う感じだが、ひとまず彼女には助けられた。


 こうして僕はアリシアさんとリサに薬を投与し、事なきを得たのだった。



「この前はまた酔っちゃってごめんねユート君」


 後日。ギルドのいつもの席に座っていると、アリシアさんが僕に謝った。


「いえ、克服作戦のためですから。この前の結果をまとめておきましたよ」


 そう言って僕はアリシアさんに克服作戦ノートを差し出した。


「おー、助かるよ!」


 アリシアさんは僕のノートを開き、パラパラとページをめくる。するとあるところで彼女の動きがピタリと止まった。


「……ねえユート君。これってどういうこと?」


 彼女が見せてきたのは、酔った三人の厄介度が書かれたページだ。


 マツリさん G

 アリシアさん F

 リサ B

 ロゼさん A


 と書かれている。


「ああ、それはこの前酔った時に……」


 言いかけて、アリシアさんの言葉の意味を理解する。待てよ。アリシアさんFリサB……これってもしかして……。


「違いますから! そういう意味じゃないですから!」


「ユート君……話はじっくり聞こうじゃないか!」


 酔っているわけではないのに真っ赤な顔をしたアリシアさん。このあと必死に弁解をし、マツリさんの証言で僕は事なきを得たのだった。

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