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22話後半 アリシアさんはアルコールが苦手!?

「やっぱり締めは濃厚こってりのとんこつラーメンだよね~」


 酔ったアリシアさんと、街のラーメン屋へ行く。彼女はまだ酔いが覚めていないらしく、フラフラと千鳥足で僕の隣を歩く。


 ウイスキーボンボンで酔って、その締めにラーメンってどうなの。前代未聞だと思うけどなあ。そんな僕の心配も知らず、アリシアさんはニコニコと笑顔で。


「ユート君は替え玉出来るタイプのラーメン屋さんの麺はバリ固派?」


「バリ固の下のグレードの『固』派ですね。バリ固はやりすぎですよ」


「えー、普通~! 普通過ぎるぞユート・カインディア!」


 こうしてアリシアさんと普通に会話をしているが、僕の頭の中は別のことで頭がいっぱいだった。


 アリシアさんが、一瞬だけスライムを克服したことだ。


 これまで色々な作戦を試したのに全く効果がなかったアリシアさんが、偶然にもスライムを克服したのだ。一体何がその要因だったのか、僕はギルドに出てからもずっと考えていた。


「ユートくーん? なにかんがえてるのー? もっと人生明るくいこうよー!」


「アリシアさんはいつも本当に楽しそうですよね……羨ましいですよ」


「えっへん。なぜなら私はアリシアさんだからね! スーパーポジティブで今日も元気なのだ! 凄いでしょ!」


 褒めてないんだよなあ。アリシアさんは酔っているから上機嫌だ。まったく僕の気も知らないで……。


「あ! ついたよラーメン屋さん!」


 アリシアさんの介護をしていると、いつの間にやらラーメン屋さんにたどり着いたようで、目当ての建物が見えてくる。


 豆腐のような白い建物。看板には『ラーメン披露』の文字。いわゆる披露系ラーメンの専門店だ。


 お店のドアをスライドすると、途端に鼻腔に漂ってくる濃厚なとんこつの香り。ワクワク感と一緒に、空腹感を包まれる。


「へいらっしゃい!」


 店内にはカウンターが設置されており、客はカウンター席で座ってラーメンを食べる。その向こうからバンダナをした店主の男性が歓迎の挨拶をした。


「うんうん。食欲をそそられるニンニクの匂い。ラーメン披露といえばこの匂いだよね~!」


 アリシアさんと僕はカウンターの席に座る。僕たち以外にも客がまばらにいて、みんなラーメンを美味しそうにすすっている。


「なににしましょう?」


「僕は『小』でお願いします」


 ラーメン披露。その名に恥じない、周りの人に披露したくなるようなサイズのラーメンが売りの店だ。ドンブリの中には麺と、こってりとした豚骨醤油のスープ。その上からたっぷりとシャキシャキ系の野菜やチャーシューが乗せられ、相当なボリュームとなっている。一番小さい『小』でもお腹いっぱいになるほどの量が売りだ。


「私は『大』でお願いします!」


 アリシアさんは何のためらいもなく大きいサイズを注文する。初見ではわからないのだが、ラーメン披露の大はとてつもなく量が多い。想像の倍の量はあるだろう。と言っても僕は彼女の大食いな様子を普段から見ているし、アルコールで食欲も湧いているだろうからあまり心配していないけど。


「おいおい嬢ちゃん、大なんて頼んじゃって大丈夫なのかよ?」


 その時、隣に座ってラーメンをすすっている男性がアリシアさんに声を掛けた。


 銀色の髪をオールバックにしたおじさんだ。筋骨隆々な見た目で、灰色のシャツの上に黒いマントを羽織っている。マントの内側にはよく日に焼けた太い腕をのぞかせている。ダンディな感じのおじさんが、アリシアさんを面白がるような目で見ているのだ。


「失礼な! 私だってそれくらい食べられますぅー!」


「喧嘩しないでくださいアリシアさん! ただでさえ酔っぱらいなんですから!」


「カッカッカ。面白い嬢ちゃんじゃねえか。いいぜ、見せてもらおうじゃねえか、嬢ちゃんの挑戦をよ」


 おじさんは愉快そうに笑い、顎の不精髭をさすった。


「おまちどう! 『小』と『大』!」


 十分後。カウンターに二つのどんぶりが置かれる。僕たちのラーメンだ。このまま実食……と行かないのがラーメン披露なのだ。


「ニンニクは入れますか?」


「ニンニクとヤサイお願いします!」


 そう。ラーメン披露にはトッピングがあるのだ。客はニンニクやヤサイ、アブラなどのトッピングを頼むことができる。通な人だと魔法の詠唱みたいなトッピングを頼んでいる人もいるくらいだ。


「そちらのお客さんは?」


「ニンニクマシマシのマシ、ヤサイはコズミック盛り、インフィニティアブラ!!」


「この前スターバでも同じことやってませんでした?」


 アリシアさんは上機嫌にトッピングを注文する。酔ってるからふざけてるんじゃないだろうなと思っていると、横のおじさんが唸り始めた。


「そのトッピングをチョイスするとは……まさかお嬢ちゃん『ヒロリスト』だな……?」


 全然凄さが伝わってこないが、おじさんは目を大きく見開き、愕然としている。ヒロリストっていうのはラーメン披露の通のひとことだったっけ。


「……いや! しかし! お嬢ちゃんみたいな細い子がそれを食べきるはずがない! 残したら店側の負担になるぞ! それに、ヒロリストは披露のラーメンを食べるために何日も体調の調整をするんだぞ!」


 なんかおじさんがベラベラ解説し始めた。確かにアリシアさんのどんぶりの上には山のようなトッピングたちが乗っている。麺の量がそもそも多いし、見ているこっちが心配になってくる。


「いただきま……おっと」


 しかし、アリシアさんはそんな外野の発言など気にすることなく、いただきますの挨拶を――する前に、懐をガサゴソと漁り始めた。


「あ、あれは……髪ゴム!?」


 アリシアさんが取り出したのは髪ゴムだった。それで自分の髪をまとめると。


「濃厚スープに髪が入ると、次の日に髪がギットギトになるからね……!」


 アリシアさんはドヤ顔でそう言うと、割りばしを割り、なにやらヤサイと麺をいじくりはじめた。


「おじさん、あれはなにやってるんですか?」


「披露のラーメンは麺が太く、スープを吸いやすい。だからヤサイの上に麺を置くことで麺がスープを吸うのを防いで最後まで美味しく食べようとしているんだ!」


 地味に有効な作戦だ。アリシアさんってもしかして本当に通なのか?


「さて、いただきます」


 割りばしで麺にニンニクを絡ませ、掴むと一気に口の中へ。ズルズルとすすると、アリシアさんは目を閉じた。


「うまあ~~」


 心底美味しそうな声。彼女のうっとりとした表情は、胃袋に訴えかけてくるようだ。


「……俺の完敗だ!!」


 おじさんはテーブルに両手をついて完敗を宣言した。なんの勝負だったのかはよくわからなかったが、アリシアさんはおじさんとの対決に勝利したのだった!!



「ふー、美味しかった!」


 アリシアさんはあの山のようなラーメンを見事に完食し、満足そうに退店した。僕は小を食べただけでもかなりお腹いっぱいなのに、凄い胃袋だな。


「お嬢ちゃん、俺は感動したぜ……お嬢ちゃんみたいなヒロリストがこの世界にいるなんてな」


 僕の隣でおじさんが感動の涙を流す。この人、店からでてもまだいるんだけど、一体いつまでついてくるんだろう?


「アリシアにユートじゃない」


 そんな僕たちの名前を呼ぶ声がする。声の主はリサだった。


「おー! リサじゃねえか!」


「って、アンタはギルバート!?」


 途端、僕の横のおじさんがリサに話しかける。二人は知り合いのようだ。


「リサ、このおじさん知り合いなの?」


「……ええ。こいつはね、私の師匠よ」


 リサはギルバートと呼ばれるおじさんをキッと睨みつけながら言う。


 師匠? この人、ただのヒロリストじゃなくてリサの師匠なの!?

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