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20話後半 幽霊少女は取り憑きたい!

『くくくく……この女の体は貰った……!』


「カスミ、お前!」


 アリシアさんはーーいや、アリシアさんの体を乗っ取ったカスミはーー不敵に笑った。


 まずい。幽霊なんだから人に憑依して体を乗っとることだってできてもおかしくない。除霊を恐れたカスミはさっきまでの恭しい態度から一変し、アリシアさんに憑依するという強行に出たのだ。


「お前! アリシアさんをどうするつもりだ!」


『フフフフ……元に戻るためにはファミレスで1万ギル分は食事させてもらないとなあ……お腹がいっぱいになるまで食べさせてもらおうじゃないか……』


 こいつ、卑劣な!


 ……いや、待てよ。なんかおかしくない? ファミレス?


『もう、冗談ですよお兄! ちょっとやってみたかっただけですから!』


 そう言った瞬間、アリシアさんの体からスッとカスミの体が出てきた。


「アリシアさん、大丈夫ですか!?」


「う、うん。カスミちゃん、今のはなんなの?」


「ご覧の通り、カスミは人に取り憑いて喋ることができるんです。さっきのはちょっとした悪ノリですね」


 自慢げに話すカスミ。心臓に悪いからそういう悪ノリは正直やめてほしい。


「……待てよ!? じゃあカスミがアリシアさんに取り憑ければスライム嫌いを克服できるんじゃないか!?」


 スライムが出てきた時はカスミにバトンタッチして、それ以外の敵の時はアリシアさんが戦う。そういう棲み分けをすれば完璧じゃないか!


「残念ながらそれは無理です。取り憑いた人が強い感情を感じると、カスミの憑依は強制的に解除されてしまうのです」


 アリシアさんはスライムを見るとすごくビックリするから、ダメかあ……。一瞬でも期待してしまっただけに、ちょっとがっかり。


「カスミもお姉の苦手克服のお手伝いをしたい気持ちは山々なんですけどね。こればっかりはどうしようもないんです」


 カスミもうーんと唸って頭を抱えている。


「で、これからカスミはどうするの?」


「どうするってどういう意味です?」


「カスミが憑いているとアリシアさんは体が重いんだって。だから離れた方がいいんじゃないかなと思うんだけど」


 なんだかかなり違和感を懐いていたみたいだし、存在が明らかになった以上もうアリシアさんに取り憑いてもいられない。彼女のことだから『勇者除霊』とか言って無理やり引き剥がすこともできそうだし。


「おそらくお姉とカスミでは親和性が高くないんでしょうね。だから体に異常が出てしまうのかも……。でも、カスミはカスミのことを見える人にしか取り憑けないし……」


 それを聞いて、アリシアさんはポンと手を叩いた。


「あ、じゃあユート君に取り憑いてみたら!? ユート君はカスミちゃんのこと見えるし、親和性も高いかもよ!」


 この女勇者、名案みたいな感じで余計なこと言いやがって!!


 なんとなくそんな気はしてた。多分このままいったら僕が標的にされるだろうとは思っていた。だから黙っていたのに!


「そっか! お兄なら可能性あるかも!」


 やめろ! お前も確かにみたいな顔してるんじゃない!


「じゃあ早速行きますよ! レッツ憑依!」


 カスミが一直線に僕の体へ突っ込んでくる。ぶつかるタイミングで体を擦り抜けて、僕の体に取り憑いてきた。


 最悪だ、さっき初めて会ったばかりの幽霊に体を乗っ取られるなんてたまったもんじゃない。僕は抵抗ができないなりにサッと身構えた。


「あれ……?」


 思ったよりなんともない。体が重くなるなんてこともないし、違和感みたいなのもない。手のひらを開閉してみて、僕の体も普通に動かせるようだとわかる。


『すごいですよお兄! かなり快適です! カスミとお兄は親和性が高いみたいですよ』


 途端、僕の口が勝手に動き出す。僕に取り憑いているカスミが体を動かしているのだろう。


『お姉に取り憑くのも楽しかったですけど、お兄は段違いで最高ですね! カスミ、今日からここに住むことにします!』


「除霊します」


『ええええええ!? なんでですか!! ストップストップ!!』


 僕が立ち上がって霊媒師を探しに行こうとすると、体に取り憑いたカスミがなんとか椅子に座らせようとしてくる。中腰で競り合っている状態だ。


『いいじゃないですか、別に悪いことなんてしませんし、体に影響はないですよ!?』


「僕の口で喋るなよ! 絶対やだよ! 今日会ったばかりの幽霊が体に住みつくなんて! あ、こら! 座ろうとするな! こいつ力強いな!?」


 僕が必死に抵抗すると、体からカスミが出てきた。肩で息をしていて、なんだかかなり疲れているようだ。


「な、なかなかやりますねお兄……お姉でもこんなに抵抗してこなかったですよ」


「褒められてる気がしないし。とにかく絶対嫌だからね」


「ふふふ、ユート君とカスミちゃん、兄弟喧嘩みたいでいいね」


「「笑ってるんじゃないですよ!」」


 とにかく困った。このままじゃカスミが僕の体に取り憑くことになる。プライベートな時間まで侵害されるのはごめんだ。何か手はないだろうか……?


「もし、そこのお方」


 その時、僕たちの席に一人のおじいさんがやってきて。


「どうかしましたか?」


「あなたの体から何か霊的なものを感じるのです。おそらくあなたに悪霊が憑いている……よろしければ除霊させてもらえませんかな?」


 どうやらこのおじいさんはプリースト的な人らしい。これは願ってもないチャンス。


「お兄! 絶対駄目ですよ! 流石にプリーストに除霊されたら私は消えーー」


「お願いします」


「お兄いいいいいいいい!!!」


 背中でカスミが叫んでいる気がするが、僕の知ったことではない。この子はさっき出会ったばっかりの幽霊少女だ。


「それでは行きますぞ、〈悪霊退散〉!!」


 プリーストのおじいさんは手に数珠を持って、神聖魔法をかけてくれる。それとともに、僕の体は白い光に包まれた。


「痛だだだだだだぁ!?!? お兄痛いです!! 助けてください!!」


 どうやら除霊はカスミに効いているようで、涙目で僕の背中にしがみついてくる。


 申し訳ないが、初対面の幽霊少女を飼うわけにはいかない。ここで大人しく除霊されてもらうしか……


「お兄いいいいいい!! お願いですからああああ!!」


 ……初対面の幽霊なんだけど。


「お兄いいいいい!!」


 あーもう、ほだされた!!


「アリシアさん! 走りますよ!」


「わ、わかった!」


 僕は神々しい光に包まれて消えかかっているカスミをおんぶしてギルドの外へ走って行った。



「ぐすっ、お兄、なんで助けてくれたんですか……?」


 涙目のカスミが僕の背中にしがみついて言う。


 正直言って僕も理由はわからない。なんだかわからないけど体が動いてしまったのだ。こんな得体の知れない幽霊童女のために。


「なんでかわからないけど。僕のことを兄だって慕ってくれる子を反故にしたくないっていうか。それだけだよ」


「甘いですね」


「甘いね」


「うっさいな!!」


 アリシアさんもカスミも二人とも僕を馬鹿にしたような目線で見てくる。僕だって馬鹿らしいよ、初対面の幽霊少女にほだされるなんて。チョロいのかもしれない。


「でも、カスミは嬉しかったですよ。これからもよろしくお願いしますね、お兄」


「まったく……普段は今までみたいに出てきちゃ駄目からな」


「はーい! くれぐれもお兄が部屋で一人でゴソゴソしてる時は姿を見せませーん!」


「この悪霊!! 除霊してやる!!」


 悪戯っぽく笑う幽霊妹を、僕は追いかけて走った。

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