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20話前半 幽霊少女は取り憑きたい!

「ユート君、体調はどうかな?」


「おかげさまでかなりいい感じです。風邪もすっかり治りましたし」


 風邪は三日ほどでなおり、僕とアリシアさんは久しぶりにいつものギルドの席に座っていた。


 アリシアさんの献身的な看病のおかげで、僕はすっかり元気になった。今日からスライム克服も再開できそうだ。


「さて、今日は前回できなかった作戦をやりましょう! その名も……」


「……あれ」


 僕が話していると、アリシアさんは突然小さく呟いて頭を抱える。


「いきなりどうしたんですか?」


「……なんか少し前から頭が重いんだ、ちょっと疲れちゃって」


 アリシアさんはそう言って、ハアとため息をつく。いつもの快活な彼女にしては珍しい態度だ。


「もしかして僕の風邪をうつしちゃったとか? 今日はもうやめておきましょうか」


「ううん。ユート君の風邪は関係なくて、それがしばらく前からなんだ……なんだか肩とか頭が重かったり、背中に悪寒が走ったり。どうしちゃったんだろ……」


「それはカスミが()いているからですよ!」


 そのとき、僕たちの会話に混ざる形で小さな女の子の声がする。


「だ、誰!?」


 僕は辺りを見渡すが、近くに小さな女の子なんていない。だとしたらいったいどこに!?


「ここですよ!」


 女の子の声がする方に視線を向けると。そこには目を丸くしたアリシアさんが座っている。そんな彼女をよく見てみると、肩に小さな手が……。


「うわっ! アリシアさん肩です!肩に女の子の手が!」


「えっ、あっ、本当だ!?」


 僕もアリシアさんもパニック状態だ。そりゃそうだろう。だって背中に女の子がひっついているんだもん。黒髪で空色の瞳をした童女(どうじょ)は、ワンピースをひらひらとさせ、おんぶのようにアリシアさんの首に手を回している。


 これまで女の子がアリシアさんの後ろにいた気配はなかった。突然現れたのだ。


 そして僕とアリシアさんはこの子を見たことがある。


「もしかして君って、ディスティニーランドの心霊写真の子じゃない!?」


 1ヶ月前、アリシアさんとテーマパークのディスティニーランドに行った時のことだ。アトラクションの一つである『アンデッドホテル』で写真を撮った時、女の子が写り込んでいた。


 この子の容姿はその女の子とそっくりなのだ。


「いかにも! カスミの名前はカスミです! お兄にお姉、お初にお目にかかります!」


 青白い肌をした10歳くらいの童女は、幽霊とは思えないほど快活に笑ってペコリと頭を下げた。僕たちのことを『お兄』『お姉』と呼ぶのは何故なんだろう。


「さっき、私の頭が重いのは君が憑いてるからって言ってたよね。それはどういう意味?」


 アリシアさんが問うと。


「えっへん。実は私はあのテーマパークで暮らしている幽霊だったんですが、お兄とお姉が楽しそうだったので、お姉の体に取り憑いていたんです! ここまでの冒険も近くで見てましたよ!」


 と、カスミは自信満々に答える。ディスティニーのころからずっとということは、かなり長い間アリシアさんに憑依してたな。ヤマトダイナ戦もスライム克服も見ていたということになる。


「二人してなに騒いでんのよ。頭おかしくなった?」


 その時、たまたま通りかかったと見えるリサが、僕たちの席に近づいてきた。


「リサちゃん、この子見える!?」


 アリシアさんは幽霊童女の存在を共有しようと、隣に座っているカスミを指差す。


「……なによ。アンタの隣には誰もいないでしょうが。ひょっとして本当に頭おかしくなったんじゃないでしょうね? それとも私が天才なだけ?」


 リサがすっとぼけている様子ではない。彼女は本当にカスミのことが見えていないのだ。この子は冗談ではなく、本物の幽霊らしい。


 リサは不思議そうに首を傾げ、そのまま歩いていってしまった。改めて僕とアリシアさんの視線はカスミに集中する。


「ねえ、なんでカスミちゃんは私とユート君にだけ見えるの? それともリサちゃんにだけ見えないの?」


「お兄とお姉しかカスミのことが見える人はいないですよ。カスミのことを見るには、カスミのことを知っていないといけませんから」


 つまり、僕とアリシアさんは写真でカスミを見たことがあるから、現実世界でも見ることができるってことか。


「それにしてもなんでこのタイミングで姿を見せたの? 1ヶ月も経ってから急に現れなくても」


「いやー、どこかでネタバラシしようと思ってたんですけどね。機会を失ったままズルズルきちゃって……で、今日お姉が体が重いのに気づいたみたいですから、ちょうどいいなと思いまして」


 えへへ、と照れ笑いをするカスミ。表情の変化といい会話が普通に通じるところといい、普通の人間と大差ないように感じる。


「で、カスミはなんで僕たちのことをお兄とかお姉とか呼ぶのさ?」


「それはもう、お約束みたいなものじゃないですか? 妖精とか幽霊ポジションは大抵ご主人かパパママ兄姉で呼ぶものですよ」


 意味がわからない。どこの世界のお約束だそれは。しかし、ベラベラと喋る元気なカスミの様子を見ていると、とても害があるようには感じられない。


「ユート君、この子どうする? 見た感じ悪い子じゃないみたいだけど?」


「そうですね、飼い切れる自信がないので除霊しましょう」


「酷いですよお兄! こんな可愛い妹をそんなペットみたいに!」


 カスミは僕の胸ぐらを掴もうとしてくる。でもこの子死んでるわけで、いつまでも地上に縛られてる方がダメな気がするんだけど。


「こうなったら……やりたくなかったですが最終手段です!」


 そう言うと、カスミはくるりとアリシアさんの方へ顔を向け、一直線に突っ込んでいった。


「え、なになになに!?」


 驚きの声を上げるアリシアさんの体に、カスミが吸い込まれる。これってもしかして……。


『フハハハ……』


 不敵な笑みを浮かべるアリシアさん。これってまさか、お約束のあれだよね?


『この女の体はいただいたぞ……』

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