表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
39/133

18話後半 ロゼは失敗が多い!

「お邪魔しまーす! マツリさん、起きてますかー?」


 いつもの3人にロゼさんを含めた僕たち4人は、マツリさんの研究所にやってきた。僕は扉をノックし、声をかける。


 ゲーム機はマツリさんの一族が作ったものなのだから、彼女に頼めばリサがぶっ壊した『スライム叩き』も治してくれるんじゃないかと思ったのだ。


「いらっしゃい。まだギリギリ起きているわ。とりあえず入りなさい」


 扉の向こう側から顔を出したのは、白衣に身を包んだマツリさん。もう眠いのか、すでにまぶたが重そうだ。


「それで、要件は?」


 コーヒーの香りが漂う研究所。マツリさんはデスクに座って尋ねた。


「……と言っても、おおかた察しはついているわ。私に用っていうのはアリシアが担いでいたあれでしょ?」


 アリシアさんはお店のスライム叩きを肩に担いで持ってきたのだ。ちょっとしたコンテナのような大きな機械だったが、彼女にかかればそんなに重くはないらしい。さすがに研究所の扉は通らなかったので機械は入り口に放置している。


「そうなんです。実はさっきリサがゲーム機を壊しちゃって。このままだとリサが懲役で独房行きなんですよ。部屋の掃除でもなんでもするので、治してくれませんか?」


「構わないわ。ただ、私はあと1時間と31分で眠ることになっているから今日は難しいわね。事情を説明して待ってもらうことね」


「ありがとうございますマツリさん! 本当に! もう一生ついていきます!!」


 リサは安堵からか、泣きながらマツリさんにくっつく。


「すごい……この方があのゲーム機を作ったんですか?」


 ゲーセンの制服のまま半ば強引に連れてきたロゼさん。研究所に来るのは初めてなので、キョロキョロと中を見回して言う。


「というか、マツリさんの一族が作ったものなんです。街の便利なものはほとんどそうなんですよ」


「す、すごい!! はあ、本当に……」


 そう言うと、何故かロゼさんは肩をガックリと落とす。


「初めまして。私はワタナベ・マツリ。で、あなたはどうしてガッカリしてるのかしら?」


「はい……マツリさんはすごいなあと思いまして。ボクはいつも失敗ばかりして、最近スターバのバイトもクビになったし、多分あのゲーセンもすぐクビになります……。週に一回はクビになって、その度に新しいバイトを始めてるんです」


 泣きそうになりながら語るロゼさん。バイトをクビになるのは日常茶飯事らしく、今回もバイト中にゲーム機を持って抜け出してきてるんだからクビはほぼ確定だろう。


「ボクは本当に欠点ばっかりで。だからマツリさんを見てすごく羨ましいなあと思ったんです」


「……欠点ばかりに目を向けることは意味のないことよ」


 マツリさんは真剣な表情でロゼさんに言い放った。


「誰にだって欠点はあるわ。それはもちろん私にも。私は1日16時間寝ないと駄目な体質なの。ついた|あだ名が覚めない白雪姫スリーピング・スノーホワイト。あなたのように普通に活動できている人間を見ると、ときどき羨ましくなることがあるわ」


「そんな、ボクなんて全然!」


「誰にだって欠点はある。でも、よいところもある。あなただってそうよ」


「ボクに……いいところですか?」


 謙遜するロゼさん。それを見てマツリさんはフッと笑った。


「あなた、ゲームセンターが駄目になったらここに来なさい。バイトとして雇うわ」


「え、ボクをですか!?」


 唐突な打診に、ロゼさんは驚きの声を上げた。


「いいんですか!? さっきも言ったようにボクは愚図で、ミスもいっぱいしますよ!?」


「構わないわ。会話ができれば。業務内容は部屋の掃除と私の補助で雑用を。私が寝ている16時間の間に働けるのがベターね。住み込みで働くならそこの部屋を……」


「よろしくお願いします!!」


 マツリさんが言い切る前に、ロゼさんは深々と頭を下げた。その様子を見て、マツリさんはなんだか少し嬉しそうに。


「しっかり鍛えてやるから、覚悟しなさい」



「それじゃ、よろしくお願いします!」


「ええ、作業が終わりしだい、この子を通じて連絡するわ」


 マツリさんとロゼさんの二人が見送ってくれる中、僕たち3人は研究所を後にした。ロゼさんはゲーセンの制服を着たままだけど、そのままそこにいて大丈夫なんだろうか。


「ユートさん、アリシアさん、リサさん! ありがとうございます! ボク、絶対頑張りますから!」


 しかし、彼の嬉しそうな顔を見ているとその不安さえどうでも良くなってしまった。



「ねえねえユート君」


 帰り道。アリシアさんが声をかけてきた。


「『誰にだって欠点はある。でも、よいところもある』だってさ。マツリさんいいこと言うよね」


 たしかにマツリさんはそう言ってたけど……ああ、なるほど。このタイミングで言い出すってことは、なんか褒めて欲しいんだろうな。


 しかたない、たまには褒めてあげよう。


「アリシアさんは、スライムを前にするとポンコツだし、怪力だし、たまに天然が入って厄介なこともあるし、大食いで……」


「それちゃんと最後は褒めてくれるんだよね!? 心配になってきたよ!?」


 うるさいなあ。


「……でも、誰よりもまっすぐで。すごく努力家だと思いますよ」


 これは僕の素直な気持ちだ。アリシアさんはポンコツだけど、決して駄目な人間じゃないと思う。


 それを聞いて、アリシアさんはなんだかニヤニヤしながら僕を見る。


「……なんですか」


「いやー、やっぱりそうだよね? 私ってまっすぐで努力家だよね? 褒められちゃったー!」


 よほど嬉しかったのか、僕が言ったことを繰り返して頬を緩めている。恥ずかしいからやめて欲しい。


「おいズルいぞユート。私のことも褒めろ。天才とか最強とか美少女とか!」


 アリシアさんが嬉しそうな様子を見て、リサも僕の袖を引っ張る。そうだなあ、リサは。


「リサはバカで子供っぽくて、ネーミングセンスがないね」


「で、いいところは!? やっぱ天才とか!?」


「単細胞で純粋で、直感的だと思うよ」


「おおー! 褒められた褒められた! アリシアどうだ、羨ましいだろう!?」


 ……あれ、褒めてないんだけどな。


 笑い声が響く街並み。僕たちはロゼさんの健闘を祈り、家路につくのだった。


 リサは後日、器物損壊と窃盗の罪で少年課にお世話になり、マツリさんが責任者として迎えに来るまで数時間、勾留されたとさ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ