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17話前半 アリシアさんは必殺技を撃ちたい!

「ねえユート君、なんでお弁当のハンバーグの下にはパスタが入ってるんだろうね?」


「運送するときに崩れないようにですね。あとはパスタが余計な油を吸収してくれる効果もあります」


「へー! 縁の下の力持ちだね! 私もそんな人間でありたい……」


 いつもの森の前。アリシアさんはギルドから買って来たお弁当のハンバーグを割り箸で綺麗に割り、口に入れる。ちょっと冷めても美味しいことでおなじみのお弁当のハンバーグを食べて、とても幸せそうだ。


「なんだかんだで一か月くらいかかっちゃったね。ヤマトダイナの解体作業。みんなで頑張ったのにねー」


「実際、かなり重労働でしたし仕方ないですよ。しかも解体作業に付随して、ヤマトダイナが通った後の(わだち)舗装(ほそう)する作業もありましたし。本当に迷惑極まりない戦艦でしたね」


 ヤマトダイナがシエラニアに突っ込んできてから早一か月。僕たちはアリシアさんが真っ二つにして止めたヤマトダイナを解体し、別の場所に移動する作業を一昨日までずっとやっていたのだ。


 冒険者たちにも特別クエストとして解体作業が割り当てられて、総動員だったというのにこれだけの時間がかかったのだ。ヤマトダイナのデカさと、それを止めたアリシアさんのすごさ、両方を強く感じる。


 スライム克服作戦を再開したのは昨日。と言っても、昨日は作戦なしで特攻して、普通に失敗に終わってしまったわけだが。


「で、今日はどんな作戦にするの? 森に来たってことはスライムとリアルファイトする感じかな?」


 アリシアさんは箸を持った手を丸めてシャドーボクシングをする。なんだかやる気みたいだけど、彼女は昨日スライムに泣かされていたはずだ。あれだけアホ面で泣き叫んでいたのに、次の日になるとケロッとしているんだから不思議だ。


「いいえ。アリシアさんについて今日は検証したいことがあるんです」


 なんのことだかわからず、アリシアさんは首を傾げる。


「単刀直入に聞きます。何か僕に隠してることがありますよね? ……いや、隠していたこと、ですが」


「ギクッ!!」


 僕の問いかけに、アリシアさんは肩をビクッと震わせた。


「な、なんのことかな~? やましいことなんて何もしてないけどなあ~? さてはユート君、何か勘違いしてるでしょ~?」


「語尾の『~』がめちゃくちゃ怪しいですよ。っていうかさっき『ギクッ!』って口に出てたし!」


 やはりアリシアさんは何か隠している。彼女は感情の変化がすぐ表情に出るからわかりやすい。一歩踏み出すと、アリシアさんはスッと後ろに下がった。


「ひいっ!! ごめんなさいっ!! ユート君から借りた新品の消しゴムの角を使ったのは私です! あとお弁当のから揚げもつまみぐいしたの私です! あとユート君の冒険者用のバッグにウサギのキーホルダーを混入したのも私です!」


「全然そういう話じゃないです! 『勇者必殺』の話ですよ!」


 っていうか聞いたら思ったより隠しごとが出てきたぞ。この調子でもう少し問い詰めれば後2、3個くらい出てくるんじゃないだろうか。しかもいくつか看過(かんか)できないものも混じっているぞ。キーホルダー入れたのアンタか!!


 まあそれはさておき。僕が聞きたいのはアリシアさんの『勇者必殺』の話だ。この前のヤマトダイナ攻略の時に唐突に現れた新設定なわけだけど、僕はその存在を知らなかった。もしかしたら彼女のスライム克服に役立つ技があるかもしれないぞ。


「『勇者必殺』って、どんなのがあるんですか?」


「色々かな。この前見せた『勇者ブレード』みたいな戦闘向けの技もあるし、『勇者早食い』とかの戦闘向けじゃないものもあるよ」


 『勇者早食い』は正直ちょっと見てみたい。今度見せてもらおうかな。……って、そうじゃない。


「具体的に何種類くらいあるんですか?」


「数えたことないなあ。でも100は超えてるんじゃないかな?」


 必殺が100個もあるのか。もう下手したら殺人兵器だな。もっとも、アリシアさんはその力をモンスターに対してだけ使うからセーフだけど。


「それだけあるなら、何かスライム克服に役立ちそうなものもあるんじゃないですか? 『勇者集中』とか、『勇者スライムキラー』みたいな。スライムの存在を無視できるものか、そもそもスライムに効きそうなやつがいいですね」


「うーん、だったら『勇者シャイニング』かな?」


「なんですかそれ!? いきなりなんか使えそうなの出てきましたね!? やってみてくださいよ!」


 もしかして、光属性の力を纏って、スライムを寄せ付けないような光を放つとか!? アリシアさんはふうと息をつき、準備運動をする。僕が期待を込めてアリシアさんを見つめていると。


「じゃあ行くよ……『勇者シャイニング』!」


 アリシアさんが宣言したその時、彼女の体が激しく発光し始める。光魔法とかそういう類じゃない。どういう原理かはわからないが、彼女自身が光っているのだ。あまりの眩しさに僕は目を閉じた。


「アリシアさん! これは!?」


「説明しよう! 『勇者シャイニング』とは! 私の体を光らせることで、光が苦手な生物を寄せ付けない技である!」


「これどう考えてもカラス避けですよね!? すぐにやめてください!」


 僕が止めるように言うと、アリシアさんは発光するのをやめた。なんでこの人光ったの? 体の細胞が光を放ったの? この人は本当に人間なの?


「な、なんだいその目は! これでも主婦の皆さんには好評なんだよ!」


「カラス避けになるからですよね。カラスがゴミ袋を荒らさないからですよね。もしかして生ごみの日にゴミ捨て場に立たされたりとかしてません?」


「あれ、なんで知ってるの!? これでも人気者なんだよ!」


 ……駄目だこの人は。


 今の数分のやり取りで、十中八九『勇者必殺』が役に立たないことを確信した。技のレパートリーが多くても、多分『勇者モノマネ』とか『勇者早口言葉』みたいなのばっかりな気がしてきた。


「あれっ、どうしたのユート君。次は『勇者モノマネ』を披露するよ?」


 やっぱりあったよ『勇者モノマネ』。想定の範囲内すぎる。僕はくるりと方向を変え、街の方へ歩き出した。


「ねえー! 『勇者必殺』見てよー! どこいくつもりなのー!」


「ちょっとスターバで考え事でもしてきます」


「あ、じゃあ私も行く! 注文するときに『勇者早口言葉』を見せるよ!」


 ……それもあるのか。


 呆れてため息が出そうになるのを抑え、僕たちはコーヒーショップの『スタークバッファロース』へと足を進めた。

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