プロローグ
「アリシアさん、今回は作戦はなしです」
「ほう? それはどういう意図なんだねユート君?」
僕はユート・カインディア。いたって普通の、とりとめのない、無味乾燥な、特徴のない冒険者だ。
そして、僕の横で歩く金髪碧眼の女性はアリシア・ブレイバー。ちょっと抜けてるところも多いけど、最強無敵の女勇者ですごく美人で優しい。
僕とアリシアさんは、いつもの森を見据えて話す。
「僕たちが初めて出会った時からもう二か月です。季節もすっかり夏になりました。今日は、この二か月でどれくらい進歩したかを確認するんです」
「なるほど、二か月間の振り返りってことだね!」
意気揚々と両手剣を引き抜くアリシアさん。鎧の下に着ている服はすっかり半袖で、彼女の細腕でどうやってあの大剣を持ち上げているのかすごく気になる。
「今回はなんだか行けちゃう気がするよ! だってここまで血のにじむような克服と練習を繰り返してきたからね!」
しみじみと言うアリシアさん。確かにこれまでハードな作戦を乗り越えてきた気がする。目隠しをした状態でスライムを垂らされたり、お気に入りのぬいぐるみがスライムのドロドロまみれになったり、一滴ずつスライムを手に垂らされたり……うん。拷問だこれ。
その時、森の茂みがガサゴソと揺れ、葉っぱが何枚か落ちる。
「来ますよ、アリシアさん……!」
アリシアさんは無言で首肯し、両手剣の切っ先を茂みの方へ向ける。
「キュ?」
僕たちの視線の先――茂みからひょっこり姿を見せたのは、最弱モンスターのスライム。緑色のゲル状のスライムは、ウサギのようにピョンピョンとはねながらアリシアさんの方へと向かっていく。
「いけ! ぶった斬ってください! その両手剣を振り下ろして、奴の胴体を真っ二つにするんです!」
アリシアさんは震える手で両手剣を振り上げる。呼吸が荒くなり、冷や汗が流れている。
最強無敵の女勇者ですごく美人で優しいアリシアさん。
だけど、そんな彼女にはある弱点があった。
「ぴょええええええええええ!!! やっぱ無理いいいいいい!!」
ヒヨコのような叫び声をあげ、アリシアさんは両手剣をハンマーのように放り投げ、地べたにペタンと座り込む。
「成長なしか……やっぱり根本的な問題を解決しないとどうにもならないのかも……」
「ユート君!? 分析は後にして助けぐえええええええええ!!!」
助けを求めている途中でスライムが膝に纏わりついてしまったアリシアさん。僕は急いで短剣を片手に彼女の方へ駆け寄った。
彼女にあるたった一つの弱点。
アリシアさんはスライムが苦手。




