16話後半 僕たちは街を守りたい!
「防御結界を張る装置が……壊れてない!?」
「そりゃあどういう意味だよ!」
マツリさんの一言に衝撃を受け、ダースは彼女の肩を掴んで揺らす。
「……ここ。この機械が防御装置を取り仕切っているの」
リサが起こした爆発の影響で穴だらけになった戦艦ヤマトダイナ。その穴のうちの一つを、マツリさんがテレビ画面の上から指さした。
彼女が示した大きな金属の球体の機械は、かなりボロボロにヒビいっていて今にも壊れてしまいそうだ。これがエンジンルームにある、戦艦の防御結界を制御する装置であるようだ。
「え、円い機械って言ったじゃないですか! この機械は球体ですよ!?」
「『丸い機械』よ」
「そっか、だからリサは船内で爆発を起こしたのか!?」
ここにきてなんという致命的なミス! 同音異義語を考慮していなかった!
「もうかなりダメージ入ってるぞ!? これ壊れてねえのかよ!?」
「壊れていない。中心部のコアを砕かないと防御結界は止まらない」
じゃあ、アリシアさんがヤマトダイナにダメージを与えることは不可能だ。当然、止めることもできない。ホバーボードを扱える人なんてこの場に都合よくいるはずもないし、装置を破壊は破壊できない。
「どーすんだよ!? このままじゃあのデカブツ、突っ込んでくるぞ!」
「まずい……あと10分で到ヤマトダイナがシエラニアに達するわ」
パニックになるダース、テレビ画面を凝視するマツリさん。緊迫するテントの下、僕はただ茫然としていた。
やっぱり、ヤマトダイナを止めることなんてできなかったんだ。
あと少し、あと少し上手くいけばなんとかなったのに、奇しくも防御結界の装置は壊れることなく、戦艦は地面の上を真っすぐにこっちへ進んできている。
僕に、もう少しだけ力があったなら。
僕がこの状況を覆すことのできるほどの力があったなら。
「くそっ!」
悔しさから声を上げ、僕は地面を拳で叩いた。
やっぱり、僕は無力で、仲間を失ったあの頃から何も変わっちゃいない――
『ビビってるのか?』
その時、僕の脳裏に声が響いた。
「ギルダ……」
それは聞こえるはずもないかつてのパーティメンバー、ギルダの声だった。
『絶望的になってどうする、冷静になれ、まったく』
『そーだよ! なにテンパってんの!』
「シグルド、セレン……」
死んだはずのパーティメンバー三人の声は、僕の脳に語り掛けてくる。僕の眦から熱い涙がこぼれた。僕は膝と手を地面につき、顔を落とす。
「ごめん、みんな……僕はまた、誰も助けられなかった……」
『本当にそうか?』
予想外のギルダの言葉に、僕は思わず顔を上げた。
「それって……どういう……」
『この状況を覆すための鍵はお前の手の中にある』
状況を覆すための……鍵?
『武器を取るんだ。救いたいと思うなら手を伸ばしたまえ』
僕の武器……?
『ユートならできるよ。ほら、しっかりしなさい!』
順番に僕に語り掛けるかつての仲間たち。
僕の武器……僕にしかできないこと……。
そうか!
僕は彼らが言いたいことがなんなのかを理解し、立ち上がって走り出した。
「お、おいユート!」
ダースの声がしたが、僕の足は止まらなかった。時間がない。門を潜り抜け、街の中を走っていく。風を感じる。息が切れそうになっても、止まることはなかった。
思えば、仲間たちを失ったあの日も、こんな風に息を切らしながら走っていた気がする。
でも、今とあの時では圧倒的に違う。あの時はただ逃げるために走っていた。今は街を守るために足を動かしている。
「……ついた!」
僕は自分の家の前で立ち止まり、隣接された物置へ行く。扉を開けて中を探ると、目当てのものはすぐに見つかった。すぐに手に取り、僕は再びテントの方へ戻った。
ヤマトダイナを止めることはできないかもしれない。僕は相変わらず無力で、それは変わっていない。
それでも、もう二度とあんな思いはしたくない!
「ユート、お前どうしたんだよ、いきなり走り出して……」
気が付くと門を通り、テントのところまで戻ってきていた。疲労感がどっと襲ってきたが、息をついている暇もない。ヤマトダイナはもうあと数分でこの街に到達するはずだ。
「ユート君、それ……」
アリシアさんは不思議そうに、僕が手に持っているものを指さす。
「これは僕が昔使っていた弓です。これを使ってヤマトダイナの防御結界の装置を破壊します」
リサが起こした爆発で、ヤマトダイナの機能はほとんど失われている。無数に生えていた大砲も今は動いていない。おそらく砲台を動かす機械は壊れているんだろう。
僕が弓矢を放って、装置を破壊すれば防御結界は張れなくなり、アリシアさんの『勇者ブレード』でヤマトダイナを破壊することができる。
可能性はかなり低い。針穴に糸を通すような作戦だが、これ以外に手段はない。
「んなこと言ったって! 的はめちゃくちゃ小さいぜ!? お前出来んのかよ!?」
「できなくてもやるさ。手段があるのにやらないなんて、僕はしたくない」
覚悟を決めた僕の目を見て、ダースは呆れたように笑う。
「……だよなあ。お前は普通すぎるけどよ、たまに見せるそういうところが好きだぜダチ公」
そう言ってダースはテントに設置された椅子に座る。後は任せる、とでも言いたげだ。
お前はいったい何様なんだよ……この言葉は、作戦が成功したら言うことにしよう。
「ヤマトダイナが来るわ」
マツリさんが指をさす。その先には、巨大な建物みたいな戦艦が地面の上を凄いスピードで進んでいるのが見えた。唸るような轟音。大迫力な巨体。穴だらけのその姿は幽霊船が泣いているようだ。
「アリシアさん、手を貸してくれませんか? 僕を打ち上げてほしいんです。できるだけ高い位置から弓を放ったほうがいいと思います」
「わかった。ユート君……」
アリシアさんが僕の名前を呼び、ニッコリと笑った。
「絶対に成功させようね」
「はい!」
ヤマトダイナが接近してくる。距離は徐々に詰まっていき、圧迫感が強くなる。僕は自分の心臓が鼓動するのを感じる。
「アリシアさん、僕が合図したら僕を打ち上げてください。弓矢が戦艦に届いたら、その瞬間『勇者ブレード』です!」
「わかった!」
まだもう少し。あと少し引き付けないと弓矢が届かない。かと言ってタイミングを逃したら本末転倒だ。絶妙な瞬間を見極めろ。
時速80キロと聞いていた戦艦の動きがスローに見える。刹那、僕の中に確信が込み上げてきた。
「……今です!」
「はいっ!」
アリシアさんが両手を組み、僕はそれを踏み台にする。アリシアさんの力でぐいと体が持ち上がり、僕の体は一気に浮上した。
ギルダ。シグルド。セレン。
僕は今……自分を超える!
「<速攻射撃>!!」
「勇者ブレーーーーーーーーード!!!」
僕とアリシアさんの叫び声がヤマトダイナの巨体に反射して響いた。




