14話後半 マツリさんは片付けが苦手!
「さあ! 宝探しタイムといきましょう!」
いつになくやる気なリサ。マツリさんの汚部屋を前にして、その目にはメラメラと炎が燃え盛っている。
「ねえ、ユート君。リサちゃん大丈夫かな……」
「さっきまでのやる気0モードよりは断然いいんじゃないですかね。それに、飽きっぽいからすぐ冷めますよ」
「それもそっか」
アリシアさんも僕も、だいぶリサの扱い方に慣れてきた気がする。リサの子供っぽい性格は、よく言えば真っすぐで、悪く言えば扱いやすい。次に何をするのか読みやすいのだ。
「二人とも! さっさとしなさい!」
「「はーい」」
僕たち三人は、部屋のガラクタ分別を再開した。
*
「ねえ! これ何かしら!」
15分くらい掃除を続けていると、リサが声を上げる。手には長方形の板のようなものが握られている。ノートくらいの大きさで、かなり薄い。
「なんだろう? ホワイトボードみたいなものかな?」
「こういうのはだいたい、魔力を注いでみればわかるものなのよ! えい!」
リサが板に魔力を送り込むと、突如として発光し始める。
「な、なに!?」
板の表面は発光し、何やら文字が浮かび上がってくる。『SENTENSE GRIDGH』。
「先天性グリッジ……?」
「これ、ゲーム機じゃない?」
アリシアさんは指さして言う。確かに、携帯できるタイプのゲーム機のようにも見える。じゃあ今表示されている『SENTENSE GRIDGE』という文字列はこのゲーム機の名前ってことか。
「あ、よく見たら横にボタンみたいなのがある! ポチ!」
リサが板の表面についているボタンを押すと、画面が切り替わり、新たな文字列が浮かび上がる。
『大乱戦クラッシュシスターズ』
これはゲームのタイトル画面なのだろうか。楽しげな音楽と共に、画面でキャラクターたちが動いている。
「凄い! これ最新のゲームなんじゃない?」
僕は思わず声を上げてしまった。こんなに小さくて、なおかつ画質のいいゲームなんてみたことがない。前にアリシアさんと遊びにいったときにゲーセンにあったのは、僕の背丈と変わらないほど大きい上に、画質もあまりよくないゲーム機ばかりだった。
「どれどれ……『このゲームは対戦形式です。もう一台グリッジがあれば、友達と対決できます』……らしいわ」
「あ! じゃあ部屋の掃除をしてもう一台見つけたら、リサちゃんと対決できるよ!」
「馬鹿野郎っ! 『友達と対決できる』って書いてあるでしょうが! 私とアンタは『遊べるライバル』だから無理!」
まだ言ってるのかこいつは……。『友達』っていうのはあくまで例えだと思うんだけど。というか、そもそも僕たちは片づけをしにきたんだけどなあ。
「……でも、今回は目を瞑ってあげるわ。さあ、もう一台のグリッジを見つけるために掃除をするわよ!」
方向性がドンドンおかしくなっているんだけど、部屋の片づけというゴールだけはブレてないからまあいいか。リサは俄然やる気になっているようで、動きが1.5倍はよくなっている。
よし、ゲーム云々はどうでもいいけど、僕も頑張るぞ! 僕は少し重くなった肩を回し、再び片付けに向き合った。
そこから一時間ほど、僕たちは黙々と掃除を続けた。作業の効率も、最初とは比べ物にならないくらい上がっていき、ガラクタが整理されて、床のタイルが一枚、二枚と見えるようになってくる。
しばらく姿勢を低くしていたから、腰が痛い。起き上がって思いきり伸びをすると。
「あったよー!」
アリシアさんが声を上げて、一枚の板を掲げる。彼女が持っているのは、間違いなくもう一台のGRIDGEだった。
「これで私と勝負ができるって訳ね!」
「ふふふ、負けないよリサちゃん!」
GRIDGEを手に、バチバチと火花を散らすリサとアリシアさん。まあ、かなり片付けも進んできているし、休憩にはいいかもね。
二人は横に並び、GRIDGEに魔力を注ぐ。さっきのようにタイトル画面を開き、適当にボタンを押すと、別の画面に移動した。
「ふむふむ……『キャラクターを選択、操作して相手のキャラクターを倒せ』か。要するにぶっ飛ばせばいいってわけね!」
「あ! このキャラクター可愛い!」
好戦的に笑うリサと、緊張感のないアリシアさん。これ勝負になるんだろうか。
「よし! 操作方法もコンボも全部把握したわ! さあアリシア! 操作するキャラクターを選びなさい!」
「じゃあ私は『もこ太郎』にする!」
アリシアさんが選択したのは、強さという概念と対極の位置に存在していそうな、白いうさぎのキャラクター。対戦ゲームであることを理解していないんだろうか。そもそもなんでそんな弱そうなキャラがいるのか謎だ。
「私は『デストロイヤー山田さん』にするわ!」
この勝負貰った! と言ってリサが選んだのは中年のおじさん。スーツ姿なのになぜか巨大な肩パッドが存在感を放っている。このキャラクターのどのあたりを見て勝利を確信したのかは全く理解できない。
しかし、両者ともなんだか自信満々だ。アリシアさんはいつもの根拠のない自信にあふれているし、リサはおそらく山田さんの『デストロイヤー』で勝った気でいるんだろう。僕には泥仕合になる未来しか見えないけど。
「「レディー……ファイッ!」」
そうこうしているうちに、二人の試合が始まる。もこ太郎と山田さんが向かい合ってファイティングポーズをしている。
「フフフ……ここまでよくも私のことを舐めてくれたわね! 今日こそはアンタの首を取――」
「せいやーーーーっ!!」
刹那、アリシアさんは声を上げ、目にもとまらぬ速度のパンチをリサの顔面に打ち込む。完全に油断していたリサは、光のようなその一撃を食らい、部屋の壁に打ち付けられる。
「あ、ありしあがなぐった……」
涙目になり、殴られた箇所を抑えるリサ。泣きそうなのを必死でこらえ、痛みを目で弱弱しく訴えかけてくる。
「アリシアさん、なんで殴るんですか。駄目ですよ」
「え? だって対戦って言ってたから……」
そういえば。アリシアさんはこの前初めてゲーセンに行ったんだっけ。当然、ゲームがどんなものかもわからないはずだ。つまり、ゲームがなんなのかわからないからとりあえずグーパンをしたということか。
「うわーーーーーん! 顔面パンチされた! もうお嫁にいけないーーー!!」
「ご、ごめんリサちゃん! 行き先がなかったら私が面倒みるから……」
「気休めにもならねーよ! っていうかアンタはいいかげん世間知らずを治しなさい!!」
リサは涙目になりながらアリシアさんの背中をポカポカとグルグルパンチする。まあ、今回もアリシアさんの勝ちだったな。
「三人とも。ちょっといいかしら?」
二人が揉めているその時、部屋にマツリさんが入ってくる。なにやら神妙そうな面持ちだ。遊んでいるのに気づいて怒っているんだろうか。
「どうしたんですか? 片づけはまあまあ順調ですよ?」
「片づけはもういいわ。そんなことより……三人にはお願いがあるの」
「なによ、片づけしろって言ったりしなくていいって言ったり。どういう風の吹き回し?」
腕を組んだリサの問いに、マツリさんは息を吐き、一拍置いて口を開いた。
「危機が迫っているわ。このままじゃ……世界が危ないの」




