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14話前半 マツリさんは片付けが苦手!

「ここがマツリさんの研究所か……」


 シエラニアの街中、僕は一軒の建物を見上げた。


「意外と小さいよね。私も最初来たときはびっくりしちゃった」


 アリシアさんは僕の横でうんうんと頷く。


「大丈夫なんでしょうね? この中で爆発なんか起こったら私たち下敷きよ」


 リサは懐疑的に、目の前の建物を見つめる。


 僕たち三人はマツリさんに呼び出され、研究所にやってきたのだった。


 豆腐のような白い直方体の研究所は、街の片隅にひっそりと佇んでいた。変わり者のマツリさんにしては普通過ぎる建物だ。それが逆に気味悪く、僕は生唾を飲み込んだ。


 ワタナベ・マツリ。青髪ロングの彼女はこの街で一番の科学者で、ドが付くほどの天才。この街にある便利なものはほとんど彼女と、その父、祖父が開発したものだという。


 しかし、前回僕たちの前に登場した時は、終始眠りっぱなしでほとんど喋っていなかった。変人であることはまず間違いない。そもそも意思の疎通(そつう)ができるのか不安で仕方ない。


 入る前から疑念が尽きないが、立ち止まっていては仕方ないので、僕たちは意を決してドアノブに手を掛ける。


「お邪魔しまーす……」


「あら、いらっしゃい」


 入り口の扉を開けると、部屋の奥には椅子に座ってコーヒーを飲んでいるマツリさんの姿が。初めて会った時と同じ白衣に身を包んでいる。


「あれ、今日は寝てないんですね」


 前回の様子を鑑みると、いきなり布団で寝ているパジャマ姿のマツリさんと対面っていう可能性もあると思ったんだけど、今日の彼女は普通に起きているし、受け答えもしてくれる。


「私は一日16時間睡眠なの。この前に会った時は睡眠時間が足りていなかったけど、今日は大丈夫」


ネコかな? ナマケモノもそれくらい寝るって聞くぞ。逆に残った8時間でよくこれだけ成果を上げていると思う。


 マツリさんはコーヒーカップを事務机に置き、立ち上がる。


「今日あなたたちに来てもらった理由は他でもないわ」


「世界の存亡の危機が近づいてきているとか!?」


 マツリさんの含みのある言葉に、リサは目を輝かせ、拳をグッと握る。なんだ世界の存亡の危機って。


「研究所の掃除をしてほしいの」


「は?」


 予想外の返答に、リサは一気に目を濁らせる。


「あー、めんどくさ。なんで私たちがアンタの部屋の片づけなんてしなくちゃいけないのよ。ユート! アリシア! 帰って『コンパクトモンスター』で対戦よ!」


 一瞬で興ざめしたリサは、新発売のゲーム、『コンパクトモンスター』をやろうとのたまう。この身代わりの速さが本当に彼女らしくて、もはや清々しさすら感じる。


「待ってよリサちゃん。マツリさんの言い分も聞かないと」


 アリシアさんが引き留めると、マツリさんは話す。


「……さっきも言ったように、私は一日8時間しか活動できないの。その時間は有効に活用しなくてはいけない。つまり、あなたたちが研究所の掃除をしてくれれば、そのぶんアリシアのスライム嫌いを克服するための研究が進むというわけよ」


 マツリさんは理路整然(りろせいぜん)と理由を話す。リサは最初、ふくれっ面でそれを聞いていたが、マツリさんの理屈が否定できないものであると悟ると、諦めて大きく溜息をついた。


「わかったわよ! 掃除すればいいんでしょ!」


「お願いできるかしら? もちろんバイト代は出すから」


「リサちゃん、そう怒らないで! バイト代で駄菓子屋さんに行こうよ!」


「しょ、しょうがないわね……」


 駄菓子屋というワードに反応して、リサはしかたないとばかりに溜飲(りゅういん)を下げる。なんだかんだ言って駄菓子屋大好きじゃないか。


 マツリさんは歩き出し、部屋の奥にある扉を開く。扉の先には真っ暗な部屋が口を開けている。


「整理してほしいのはこの部屋よ。床に散らばっているものを分類別に箱に入れてほしいの」


「わかりました! ユート君、リサちゃん、サクッと片付けちゃおう!」


「「おー」」


 僕たち三人はマツリさんに案内された部屋に入り、さっそく片付けバイトのはじまりはじまり。


 ……と言っても、せいぜい一時間くらいの作業で終わるだろう。片づけは正直面倒だが、終われば駄菓子屋さんにも行けるし、アリシアさんのスライム克服にもつながるんだからいいか。


 そんな楽観的な気持ちで奥の部屋の電気を付ける。明かりが照らし出したその空間は、僕たちを愕然(がくぜん)とさせた。


 そこはまさにゴミ屋敷。床の色がわからないくらいに散らかった謎の機械たち。もはや足の踏み場もない。まるで戦地に瓦礫が積みあがっているようだ。


「なんっっっじゃこりゃああああああ!!」


 リサは開いた口がふさがらず、ただ目の前の光景に絶望している。アリシアさんに関しては笑うことしかできず、苦笑いを浮かべながら立ち尽くしている。


「ちょっとアンターー!! 何をどうしたらこうなるんじゃーー!!」


「片付けるのが面倒で床に置いてたらいつの間にか」


「限度があるだろおおお!!」


 淡々と説明するマツリさんと、怒りをあらわにするリサ。しかしこれは困った。一時間じゃ片付きそうもないぞ。


「仕方ない、三人で頑張ろう!」


「ユート、アンタ正気!? こんなの無理でしょ!」


「考えてみなよ。これを放置したらこの研究所がいつかパンクしちゃうよ。そしたらアリシアさんのスライム克服も難しくなる!」


「背に腹は代えられないってわけね……」


 そう。僕たちにやる以外の選択肢は残っていないのだ。覚悟を決め、僕は服の袖をまくり、生唾を飲み込んだ。



「ようやく床が見えてきたー!」


「作業にもだいぶ慣れてきたね!」


 作業を開始して30分。とにかく目の前のガラクタたちを分別し続けていると、ようやく白い床が顔を出した。ガラクタの海と化したこの部屋は、それほどまでに闇が深く、僕たちが片付けたのはまだ氷山の一角に過ぎない。


「先は長そうだけど、頑張ろう!」


「ん……これは何のゴミかしら」


 僕が二人を鼓舞(こぶ)したその時、リサが床のガラクタの一つをつまみ上げ、不思議そうにまじまじと見つめた。


「確かに、見た感じどれに分類するのかわからないね」


 黒く塗装された金属の円盤に、何やら羽のようなものがついている。何かの機械にも見えるが、用途がさっぱり思いつかない。


「マツリさんに聞いてみよう!」


 アリシアさんの提案で、僕たちはいったんゴミ部屋から離れ、マツリさんのデスクへ。


「それは『魔道ドローン』よ」


「「「魔道ドローン?」」」


「魔力を注入すると、この円盤が空を飛ぶのよ。魔道カメラがついているから、無線で『魔道テレビ』と繋げばそこからの映像をリアルタイムで中継することができるの」


 何言っているかわからないけど、テクノロジーってすごい! これはマツリさんの発明の一つだったというわけだ。


「ドローン……リアルタイム! なんか分からなけどカッコいい……!」


 リサはと言うと。カブトムシを前にした子供のように目を輝かせ、前のめりで魔道ドローンに見惚れている。あれだ、カタカナならなんでもカッコいいって思うタイプだね?


「決めたわよ! ユート! アリシア! あの部屋に、他にどんなテクノロジーがあるか探すの!」


 リサは鼻息を荒くしながら言う。なんか方向性ズレてきてない?

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