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13話後半 アリシアさんは『ちょっと』に弱い?

「うう……グスッ、ひどいよユート君。思いっきりやるなんて……」


 僕のしっぺを食らい、涙目のアリシアさん。さっきから痛そうに右手を撫でている。


「ごめんなさい。でも本気ではやってないですよ。なんでモンスターとの戦いの時はピンピンしてるのに、僕のしっぺで大ダメージ受けてるんですか」


「わかんないけど、痛いものは痛いんだよ! 次ユート君にしっぺをするチャンスがあったら、助走をつけてやるからね!」


 やはりこの人は危険だ……近いうちに始末しなければ僕の身が危ない……。


「で、今日の『お願い』はどうするの?」


「そうですね、もう一発しっぺにしようかな」


「鬼畜だ! ユート君がグレた!」


 必死に抗議するアリシアさん。相手は勇者で、たかがしっぺとはいえ、相手は女の人だ。流石に僕もしっぺを二回もしない。今日は行ってみたいところがあるのだ。



「さ、着きましたよアリシアさん!」


「ここは? 見た感じは普通のレストランみたいだけど……」


 ギルドから出て、僕とアリシアさんがやってきたのは、とあるレストラン。木造の一軒家で、パッと見は当たり障りのない飲食店だ。


「まあ見てください」


ここはただのレストランではない。僕はお店の前に立て掛けられたボードを指した。黒板の上に、チョークで暖かみのある文字が書かれている。


「『ケーキバイキング』!?」


 そう。今日僕たちが来たのはケーキバイキングがあるレストラン。ケーキと言えば誕生日などに一個食べることが多いが、子供の頃に『一個と言わず、もっと食べたい』と感じたことはないだろうか。


 ここではバイキング形式でいくらでもケーキを食べることができる。それこそお腹がいっぱいにならなければ、無限にだ。まさに子供の頃の自分が見たら夢の世界だろう。


「ケーキならいくらでもいけちゃうよ! 二人でこのお店をつぶしちゃおう!」


 意気揚々(いきようよう)と拳を上げるアリシアさん。焼肉食べ放題の前に絶対誰かしら言うフレーズを口にして、ケーキバイキングに意気込む。


 いざ店内に入店。ログハウスということもあり、中は落ち着く雰囲気。机がたくさん並べられていて、そのほとんどに人が座っている。女性客を中心に、かなりにぎわっているようだ。


「いらっしゃいませ。二名様ですか?」


 店内をキョロキョロしていると、黒い制服に身を包んだウェイターさんがこちらへやってきて歓迎してくれる。


「うわー! ユート君! ショーケースがあるよ!」


 アリシアさんは嬉しそうに小躍りしながらウェイターさんの後ろを指さす。その先には色とりどりのケーキが並べられたショーケース。雪のように真っ白なショートケーキや、何層にも重なったミルクレープ。数多くのケーキ類の横には、パフェも置かれている。


「ケーキバイキング二名でお願いします」


「かしこまりました。お席にご案内しますね」


 僕たちはウェイターさんの後をついていき、席に座った。木製のテーブルの上には白いクロスが敷かれており、清潔感がある。ファミレスとはまた違った趣があるなあ。


「バイキングは60分、ケーキはショーケースからお取りください。お飲み物はコーヒー、紅茶、オレンジジュースからお選びいただけますがいかがいたしますか?」


「ホットコーヒーをお願いします」


「私は紅茶がいいです!」


「かしこまりました。ただいまお持ちしますね」


 ウェイターさんはペコリと一礼して、飲み物を取りに退席する。


「ねえユート君。かなりいい雰囲気のお店だけど、結構お値段するんじゃない?」


 心配そうな表情でこっそり耳打ちするアリシアさん。本当にこの人はお嬢様なんだろうか。金銭感覚が一般人過ぎると思う。


「安心してください。一時間食べ放題で1500ギルです」


「安っ!? ケーキ1個300ギルとして、5個食べたら元取れちゃうよ!? どうやって採算とってるの!?」


 そこは僕も疑問だ。一時間あれば5個なんて余裕で食べられるだろう。企業努力の凄さをひしひしと痛感する。


「お飲み物をお持ちしました」


 ウェイターさんが飲み物を持ってきてくれて、バイキングがスタート。


席を立ち、ショーケースからケーキをいくつか取り、僕とアリシアさんはそれぞれケーキを皿にのせて席に戻る。


「いやー、種類が多くて何を取ってくるか悩んじゃったよ」


「全部で30種類もあるらしいですからね。時間もありますし、焦らず行きましょう」


「うん! ところでユート君は何にしたの?」


 いつも普通普通と言われる僕だが、ケーキだけは譲れないこだわりがある。今日こそはアリシアさんをあっ(・・)と言わせるチョイスをしているはずだ。


「まずはこれです! 『サクサク生地のミルフィーユ』!」


「おおおおおお!」


 僕はケーキの中で一番ミルフィーユが好きだ。パイ生地にフォークを通す感覚、上に乗ったイチゴ。マイナーな部類のケーキだが、昔からこれだけは譲れない。


「次はこれ! 『無敵モンブラン』!」


「おおおおお!!」


 モンブランは何といってもその芸術性が特徴だ。らせん状に抽出(ちゅうしゅつ)されたクリームは職人さんの技術の賜物(たまもの)だと思うし、頂点に乗った栗は宝石のようだ。まさに食べる芸術作品と言って過言でない。


「とりあえず二個取ってきて、食べ終わったら追加していこうと思います!」


 これは決まった。ここまでマイナーなチョイスをしているのだ、普通なんて絶対言わせないぞ。


「へー、今回もなかなか普通だね」


 何……?


「アリシアさん、今『普通』だって言いましたか!? ミルフィーユとモンブランですよ!? どマイナーじゃないですか!」


 聞き捨てならないアリシアさんの台詞に動揺し、僕は思わず焦って聞いてしまう。


「ううん。そうじゃなくて、これ」


 アリシアさんは机の上に置かれた黒い冊子を開く。


「なになに……『当店のケーキランキング、1位『サクサク生地のミルフィーユ』、2位『無敵モンブラン』……!?』


「うん。その二つ、人気ランキング1位と2位だよ」


 嘘だろ!? そんな偶然ある!? 皆ショートケーキとか頼むんじゃないのか!


 やっぱり僕はどうあがいても普通らしい。正直悔しく、肩を落としてしまう。


「でも、ユート君は普通な方がいいと思う!」


「……そうですか? じゃあいいってことにしておきますね」


 アリシアさんにいいと言ってもらうと、なんだか僕もそれでいい気がしてきた。真っすぐな彼女だからこそ、僕の心に言葉が真っすぐ響くんだろう。


「アリシアさんは何を取って来たんですか」


「えーと、ショートケーキ、チョコケーキ、ミルクレープ、プリン、シュークリーム……」


 彼女の皿の上はケーキで所狭(ところせま)しと埋め尽くされている。合計十個は超えているだろう。どんな顔してこれだけケーキをぎゅうぎゅうに乗せたんだろう。勘弁してほしい。


「本当にちゃんと食べられ……いや、アリシアさんなら絶対食べられますね」


「うん! さ、食べちゃお!」


 この調子だと本当にお店をつぶしてしまいそうだ。そんな僕の心配をよそに、アリシアさんはウキウキとした表情で手を合わせる。


「「いただきます!」」


 僕はフォークを手に取り、ミルフィーユに通す。パイ生地のザクっとした感触がたまらない。そのまま口へ運び咀嚼(そしゃく)する。


 美味い。サクサクとした食感が楽しいのはもちろん、滑らかなクリームが濃厚に舌の上で踊る。カラメルの甘さもたまらない。


「ん~! おいし~!」


 アリシアさんもケーキを楽しんでいるようで|(多すぎてどれを食べたのかわからないけど)、ほっぺを抑えて目を輝かせている。


 甘さをたっぷり感じたこのタイミングで、コーヒーをひとすすり。豆の奥深い苦みが口いっぱいに広がる。甘みと苦みの絶妙なハーモニー。さらにフォークが止まらない。


 コーヒーの香りが鼻腔を突き抜ける昼下り。僕たちはケーキバイキングを堪能(たんのう)したのだった。

おまけ

アリシア「バイキングとは別でカレーください!」

ユート「……正気か!?」

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