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12話後半 ダースは子供が苦手!

「おじさん、どーなつをかってくれて、ありがとう」


「おう。よく味わえよ」


 俺はすっかり泣き止んだ金髪幼女を連れて、駄菓子屋前のベンチに座っていた。


 残り少ない小銭で、幼女にドーナツを買い与えてしまったので、俺はカップ麺を買うことができなくなり、しばらく何も食わないで生きていかなければいけなくなった。今晩はどうしたものか。俺はヤバい棒をかじって、大きくため息をついた。


「おじさん、どーなつたべる?」


 がっくりと肩を落としていると、幼女が心配そうな顔で俺にドーナツを差し出す。


「なんでだ?」


「おじさん、つらそう。どーなつたべれば、げんきでる」


 俺がため息なんかついてるから、心配してくれたのか。


「俺は大丈夫だ。それはお前が食べろ、幼女」


 けっ、晩飯抜きがなんだってんだよ。この街一番のナイスガイが、しけた面してちゃいかんよな。


「たべていいの?」


「ああ。それに、俺にロリコン属性はないんだ。流石に守備範囲外だし、あーんされても嬉しくないからな」


「よくわかんないけど、はーい」


 いや、でも今からこの子を俺好みに育てて、十年後くらいにハーレムの一員にするのも悪くないかもな。


「で、幼女よ。お前の名前はなんなんだ」


「アリシアだよ」


 アリシアさんと同じ名前か。見た目も金髪碧眼で鎧を着ているし、アリシアさんの親戚(しんせき)か何かか? いや、親戚だったら同じ名前っていうのはおかしいな。


「ロリシアよ。お前はなんであんなところでチンピラに絡まれてたんだ?」


「えーっとね」


 ロリシアはこれまでの出来事をたどたどしく話した。『おにいさん』と『おねえさん』と一緒にスーパーにおつかいに行ったこと。二人にお菓子を買っていいと言われ、駄菓子コーナーに行ったこと。その道中でチンピラにぶつかり、誘拐されかかったこと。


「……で、あそこで俺と出会ったと」


「うん」


 なるほど、じゃあその『おにいさん』と『おねえさん』を見つけなくちゃいけないわけか。スーパーから少し離れてしまったし、今から戻っても会えるかどうか……。


「……わたし、めーわくかけた」


「ん?」


 ロリシアはしょげたように顔を落とし、スカートをぎゅっと握った。


「迷惑?」


「おにいさんもおねえさんも、わたしのことさがしてる。わたしめーわくなことしてる」


 迷子になったことを気にしているようだ。子供ってこうもピュアなのか。小さい頃に迷子になった経験なんか誰にでもあるだろ。目の前の幼女が悲しそうな顔をしてるのはなんか心苦しいし、また泣かれたら困るな。


「いいか幼女よ。他人に迷惑をかけることは悪いことじゃないんだぞ」


「わるいことじゃないの?」


「そうだ。子供の頃はしょっちゅう迷惑をかけてたし、俺は昨日酒を飲んで暴れたし、一昨日はセクハラで訴えられかけた。さっきは友達の名前を(かた)ったしな」


「よくわかんないけど、それははんせいしたほうがいいとおもう」


「いーや! ダース様は反省なんてしねえぞ! やっちまったことはやっちまったことだからな。一瞬一瞬を全力で生き、その結果失敗したなら仕方ない!」


 ロリシアにはわからないだろうが、これが俺は自分の生き方を変えるつもりはない。クズだと罵られようと、俺は俺なのだ。


「……わかった。ありがとうおじさん」


「そう思うなら、十年後に俺のハーレムの一員になれるようにこれから頑張るんだな。安心しろ。十年後の俺はお前を受け入れるだろう」


「それはやだ」


「なんでだよっ!!」


「よお、楽しそうじゃねえか」


 その時、グヘグヘと気持ちの悪い男の声が俺の耳に入る。聞き覚えのあるその声に、まさか、と思い駄菓子屋のベンチから立ち上がると。


「さっきはよくも俺たちのことを騙してくれたな!」


 そこにいたのは、予想通り、さっき追い払ったばかりの豚男三人組だった。気色の悪い顔面を引っさげて、再び俺の目の前に現れたのだ。


「お前!! 戻ってくるタイミング早すぎだろ! そういうのは一週間後とかにして、その間に俺が強くなってお前たちをボコボコにするのがお約束だろうが!! わかってねーな!!」


「知らねーよ!! それより、お前はユート・カインディアじゃなくてダースっていうらしいじゃねえか! 他人の名前を騙って恥ずかしくねーのかよ! このクズ野郎が!」


「それに、借金まみれで追い回されてるらしいな! カス野郎!」


「しかもドルオタな上女好きでギルド中の女から軽蔑されてるって聞いたぞ! ゴミが!」


 なんでそんなに知ってんだよ! つーかお前らだって誘拐事件を起こそうとしてただろ! こっち側の人間じゃねえか!


「あーそうだよ! 俺は利用できるものはなんでも利用するし、金の使い方悪いし、女好きのクズだ! でもな! おめーらみたいに女の子を泣かすような真似だけはしないんだよ! 相手が何才だろうとレディーには敬意(けいい)を払えバカタレが!」


「てめえ……調子に乗ってんな」


 豚男たちは指をポキポキ鳴らしてこっちに近づいてくる。あー、終わったわ。ここからリンチにされるんでしょ? 勝てるわけねえもん。終わったわ。


 顔から血の気が引いていく感覚。今までの人生が走馬灯(そうまとう)のようにフラッシュバックする。


……でもまあ、大見得切れたんだからいいか。


「はっ!」


「ぐはぁ!」


 死を受け入れようとした瞬間、突如として豚男の一人が後方へ吹っ飛び、ボールのようにゴロゴロと地べたを転がった。


「な、なんだこのガキ!?」


「おじさんをいじめるやつはゆるさない!」


 視線を下に動かすと、ロリシアが俺の前に立ってファイティングポーズをしている。


えっ、まさかロリシアがあいつをぶっ飛ばしたのか!? マジで!? この子なんでこんなに強いの!? しかし、これはチャーンス!


「……よくやったロリシアよ。修行の成果が出ているな」


「な、なんだと!?」


 俺はロリシアの頭を撫でながら、声のトーンを低くして言った。あまりの豹変(ひょうへん)ぶりに豚男が驚きの声を上げる。


「教えてやる。ロリシアは俺の弟子だ! そして、俺はこの子の五倍は強い」


「「な、なんだって!?」」


 地べたに転がった豚男A以外の二人が声をそろえて驚く。


「どうした? 来ないのか?」


「くっ、お、覚えとけよ!」


 まだ無傷の豚男BとCは、Aを引きずって悔しそうな顔をして走り去っていった。本日二度目、無血での完全勝利。


「ロリシアすげーな。なんでお前あんなに強いの?」


 戦いが終わり、ドヤ顔のロリシアに尋ねる。どう考えても子供の膂力(りょりょく)じゃないのは確かだ。


「ゆうしゃだからだよ!」


「ほうほう勇者だから……って、んなわけあるかい」


「ほんとだよ!」


 ……じゃあなに? この子は本当にあのアリシアさんなの? でもそれだったらこんなちっこいわけないしな。わけがわからなくなって俺は首を傾げる。


「あ! あそこだ!」


「見つけたわよアリシア……って、キモ男!?」


 その時、見知った声が聞こえてくる。今日はなんだか色々な人が来るな。


 声の主はユートとロリっ子だった。なにやら慌てているようで、二人はハアハアと肩で息をし、俺の前に立った。


「どうしたお前ら? ランニングでもしてんのか?」


「ダース……まさかお前が誘拐だなんてな」


「前々からやるような気がしてたのよ。本当に最低ね」


 ……あれ? 誘拐? なんか勘違いされてない?


「ちょっと待て二人とも。何の話をしてるのかさっぱり……」


「とぼけるんじゃないわよ! こんな無垢な子にまで手を出すなんて、アンタどんだけ鬼畜なの!? すぐに警察に来てもらうからね!」


「ダース。お前を誘拐罪で訴える。理由はもちろんわかっているな!? こんな幼気なアリシアさんを騙し、誘拐しようとしたからだ!」


「違う! 俺は誘拐なんてしてない!!」


 ユートとロリっ子が鬼のような形相で俺を睨みつける。まずいまずいまずい。こいつら全然話聞かねえぞ。


「日ごろから嘘ばっかりついてるやつの言うことなんか信じるわけないでしょ。覚悟の準備をしなさい」


 ロリっ子が黒い本を開き、詠唱を始める。それと同時に、彼女の拳に少しずつ炎が集まっていく。


 ロリシアよ。さっき言ったのは嘘だ。周りの人に迷惑をかけたら、ちゃんと謝っとけ。じゃないと、信用されなくなってこういう目にあうぞ!!


「なんでこうなるんだよーーーーーー!!!」


 この後、俺はロリっ子の鉄拳制裁(てっけんせいさい)を食らうのだが、ロリシアことアリシアさんのおかげで誤解は解け、無事懲役(ちょうえき)は免れましたとさ!!


 この後アリシアさんは元の姿に戻ったが、幼女の頃の記憶は完全に失ったらしい。ちくしょう!

おまけ

ユート「このカレーを食べたら元に戻れますよ」

アリシア「からいの、たべられない」

リサ「クズ! 今すぐ甘口のカレールーを買ってきなさい!」

ダース「どうして……」

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