12話前半 ダースは子供が苦手!
「ったく、これでどーやって生活しろって言うんだよ……」
手のひらに雀の涙ほどの小銭を握り締め、街を歩く。
俺の名はダース。この街シエラニアで一番イカすナイスガイであり、人気アイドルグループ『シエラル・シスターズ』のえりりの騎士だ。
今日も活気溢れるシエラニアを、涼しい顔をして歩き続ける俺だが、内心はめっちゃ困っていた。
生活費がない。貯金もない。次のクエストを達成するまで、今手に握っている金で生活をしなければならんのだ。
冒険者の給料は都度払いなのに、気付いたらお金がなくなっている。浪費するからだ。やっぱ見栄張って高い服を買うのはやめた方がよかったな……あれを着ていると女の子にウケがいいんだけどな。名残惜しいが手放すしかない……。それかユートに借金をしよう。
「とりあえず食事はスーパーの安いカップ麺だな。ちくしょう、なんでこんなことになってんだよ……はーあ、俺も超絶美人な彼女に養われてーな。生きてるだけでお小遣いくれて、俺のことを好きになってくれる女の子とか、その辺にいればいいんだけどなあ」
あーあ、俺、毎日こういう妄想してるな。虚しくなるからやめよう。余計なカロリーを消費している場合じゃない。俺は本日何度目かの溜息をついた。
「おうおう嬢ちゃん! よくもおっちゃんにぶつかってくれたなあ!?」
「ご、ごめんなさい……いたかったですか」
「ああ、すごーくな! お嬢ちゃんどこの子だ?」
スーパーに行く途中、太ったスキンヘッドの大男が三人、小さな女の子を囲んでいた。4、5歳くらいの、金髪碧眼の幼女。小動物みたいなつぶらな瞳をうるうるとさせている。
幼女は逃げようとしているが、後ろは壁、周りには大男たちが立っているからどうすることも出来ず、困っている。
「へへっ、このガキ、上等な鎧を着てるぜ。きっといい家柄の出身に違いねえ」
「誘拐して身代金をせしめれば、しばらく遊んで暮らせるぜ!」
うわー。クソ野郎だな。俺もまあまあクズの自覚あるけど、こいつらはマジモンの外道だわ。ハゲでデブでクズってマジでただの豚じゃねえか。もう俺には豚が女の子をいじめているようにしか見えんぞ。
……しかし、この三人組、どう見ても俺よりデカいし、喧嘩も強そうだ。多分俺が助けに入ってもボコボコにされるのがオチなので、しらんぷりをしておく。さてスーパーっと。
「ごめんなさい!」
幼女は、そんな豚男三人組にペコリと頭を下げた。
「ほー、謝ってくれるんだ。偉いなあ」
「おかーさまが、めいわくをかけたら、あやまりなさいって」
「けっ、お母様だってよ! おもしれー、そうとういいとこ育ちみたいだな!」
こいつ、こんな幼気なガキを……。
いや、とりあえず落ち着け。今俺がこいつらに歯向かっても意味ねーっつの。無視無視……
「おいガキ。お前はこれから誘拐されるんだよ。なるべく苦しまないようにはしてやるから、大人しくついて来いよ!」
「え、ゆうかい……」
「そうだぜ、グヘヘヘ!」
……あー、もう、仕方ねーな!
「おい豚野郎! その汚ぇ前足をそこの幼女からどけやがれ! いいか、金っていうのは自分で稼いでこそナンボなんだよ! 他人、しかも女の子を利用して金をせしめようなんて考えてんじゃねえよ外道が! 俺はそんなこと一回も考えたことねえぞ!」
あー、やっちまった。また首を突っ込んじまった。俺の発言に苛立ったのか、豚男三人組がこちらをギロッと睨む。
「なんだよお前? てめーには関係ねーだろ?」
「おい、やっちまおうぜ」
三人組が女の子から手を離し、俺を囲む。どう考えても三人で総重量が300キロは超えてるので、近づいてくると圧が凄い。
「へへへ、ヒーローきどりのつもりか知らねえけどよ。まずはその節穴な目で戦力差を確認してから助けに入るべきだったな!」
「本当にそうかな?」
「な、なんだと?」
「もし俺を殴ろうもんなら、『完璧姫様』でチートな巨乳勇者アリシアさんが黙ってないぜ?」
「ア、アリシアだと!?」
俺の必殺技、虎の威を借りる狐。他人の名前を使って相手を脅す。俺の作戦通り、目の前の豚男どもは驚いた表情をしている。
「ハッタリだな! お前があいつと知り合いな証拠がねーだろ!」
「そうだそうだ! だったらてめーの名前を言ってみろ! この髭野郎!」
ハー、めんどくせえ。俺はため息をつき、爽やかに髪をかき上げた。
「いいだろう。教えてやる。俺の名は……ユート・カインディアだ」
「ユート・カインディアだな! てめえ、アリシアと知り合いってのが嘘だったらぶっ殺すからな」
「ぶっ殺すって言葉は……半端な気持ちで使う言葉じゃねーぜ?」
「うっ……お、覚えとけよ!」
豚男三人組は、チッと舌打ちをして、その場をそそくさと立ち去って行った。
よし、偽名でやりきってやったぜ。ユート、今度お前のところに変な豚野郎が行くかもしれないけど、お前がなんとかしてくれ。人助けのためだったんだ。俺は悪くない。
「う、うええええええええーーん!!」
男たちがいなくなって、幼女が俺の足に泣きながらしがみついてくる。よっぽど怖かったみたいだ。
「おい、泣くなって! 幼女の涙って見てると罪悪感がすげえんだよ! だから泣き止め!」
金髪幼女は俺のズボンをタオルにして泣き続けている。あー、こういう時ってどうすればいいんだ!?
「そうだ、この辺に駄菓子屋さんがあるから一緒に行こうぜ! 好きなお菓子買ってやるから!」
「おかし……かってくれるの?」
よーし、食いついてきた! そのまま泣き止め。
「ああ。好きなのを一個買ってやるぞ。だから元気出せ! な?」
「……うん。おじさんありがとう」
俺は16だからおじさんじゃねえけどな! こういう状況だから許すけど、その辺のクソガキが同じことを言ってたら、確実に張り倒してたからな。
……しかし、こんな小さな女の子が一人でフラフラしてるのも謎だ。親とはぐれちまったなら、引き合わせてやらねえとな。男ダース、一度助けちまったもんは責任を持つって決めてるからな。
そのためにも、まずは駄菓子で釣って話を引き出さないといけない。俺は幼女を連れて駄菓子屋に歩いた。
*
スーパー内。僕とリサは、アリシアさんを探して奔走していた。
「アリシアさーん! どこ行ったのー!」
「アリシアー! お姉さんはここよー!」
まずい。いくらスーパーの店内を探してもアリシアさんの姿はない。もし彼女に何かあったら取り返しがつかないぞ。
「ユート、外も探してみましょう!」
「外? あんなにお利口なアリシアさんが勝手にスーパーの外に出るなんて考えられないけど……」
「誘拐の可能性だってあるでしょ! とにかく急ぎましょう!」
僕たちはスーパーの外に走り出した。




