10話後半 アリシアさんはスライムを感じとる?
「さっきはリサが乱暴してしまってすみませんでした……」
「大丈夫だよユート君。事情はわかったから。リサちゃんも気にしないでね」
「これ私が悪いの? 私さっき命令されてたよね? 気のせいじゃないよね?」
リサは不服そうだが、場は収まっているので、後でお詫びにジュースか何かを買ってあげよう。
「ユート君、今日はこの後どこに行くか決まってる?」
「もちろん決まってますよ!」
「おおー! 楽しみ! リサちゃんも来るよね!」
「まったく……しょうもないところだったらブチのめすわよ」
毒舌を吐きながらも、楽しみなのが隠しきれていないリサも連れて、僕たちはギルドを出て目的地へと歩き出した。
*
「は、はあ~~~~~~!?」
目的地に到着すると、リサがあんぐりと口を開け、大声を上げた。
「どうしたの?」
「どうしたの? じゃねーよ! ここ駄菓子屋じゃん!!」
そう。僕たちが今日来たのは駄菓子屋さんだ。街の一角にあるレトロな雰囲気のこの建物は、中に入るとお菓子がずらっと並べられていて、懐かしい気持ちを味わうことができる。建物の屋根に掛けられた看板もいい感じに味がある。
「リサちゃん、駄菓子屋さんだったら何が駄目なの?」
「そうだよ。そういうの職業差別って言うんだよ」
「まともなこと言ってんじゃねー! お前ら何歳だよ! いい歳して駄菓子屋とか恥ずかしくないのかよ!!」
リサは必死になって僕たちに説教をする。あー、なるほど。そういえばリサは前回の公園の時も『公園なんて子供が行くところだ』って言っていたよな。しかもそのくせ自分が一番楽しんでいた。
しかし、はっきり言おう。大人になったからと言って駄菓子屋に行かないのは、人生の半分損している!!
「ま、見てればわかるよ。行きましょう、アリシアさん」
「うん!」
僕たち三人は駄菓子屋さんに入店する。入口をまたいだ瞬間、懐かしい匂いが鼻腔に流れ込み、同時に色とりどりの駄菓子が辺り一面に姿を現す。
飴やガムなどのポピュラーなものはもちろん、変わり種のお菓子やスーパーボールくじなど、駄菓子屋さん特有のレパートリーの広さ。感動だ。
「ふーん、確かに種類はいっぱいあるみたいね」
リサは少し懐疑的になって店内を見回す。
「……でも、こんなお菓子財布から1万ギル金貨を出せば全部買えちゃうじゃない。子供の頃ならまだしも、私はこんな安いものに踊らされないわ」
「わかってないなあリサちゃん! 駄菓子は300ギルまでだよ!」
アリシアさんはピンと指を三本立て、リサに力説する。
「な、なんのためにそんな枷を!?」
「駄菓子は、少ないお小遣いで何を買うかを考えるのが楽しいんだよ! 確かに金貨があれば『ここからここまで買い』もできちゃうけど、それはなんか違うと思う!」
「うおおおおお……」
アリシアさんの正論に、リサは光に当てられた悪魔みたいなうめき声を出す。
「でも! たった300ギルで何を買うっていうのよ! 子供のお小遣いじゃ買えるものなんてせいぜい1、2個でしょう!?」
「リサ、それは違う! 駄菓子は安価だから300ギルでも結構色々買えるんだ!」
「うおおおおおおお!?」
僕は棚に陳列されたお菓子の一つを手に取る。
「それは?」
リサは僕が手に取ったお菓子をまじまじと見つめる。砂糖がまぶされた小さなドーナツが四つ、袋詰めされている。
「これは『スモール・ドーナッツ』! 小さいドーナツが4つも食べられるんだよ!」
「へ、へえ~。でもそれでいくらなのよ? 安くて100ギルくらいかしら?」
「30ギル!」
「うおおおおおおおおおおお!!」
リサは拳をグッと握り、熱狂の声を上げる。どうやら駄菓子の凄さに気付いてしまったようだ。
「他には!? 他にはどんな駄菓子があるの!?」
「うーん、これとか?」
僕は棚に置かれたお菓子の一つを適当に手に取る。
「そ、それはなんだ!?」
「『あわの出るラムネ』だよ。見た感じは普通のラムネだけど、口に入れるとおいしい泡が出てくるんだよ」
「おおおおおお!! なんだそのおもしろギミック!! それでいくらなの!?」
「20ギル」
「すげええええええええ!!」
リサは顎が外れるくらい大きく口を開けて叫ぶ。興奮しすぎてもはやキャラが変わっている。
「こ、これはどんな駄菓子なの!? 答えなさい!?」
「『ロシアンガム』? レモン味のガムが三つ入っていて、そのうち一つだけすごく酸っぱくなってるんだ」
「うおおおおおお!! 遊び心!! 友達と集まった時にチャレンジできるやつじゃん!!」
リサは目を血走らせ、棚に置いてある駄菓子たちを漁り始める。
「これは……!? これはどんな駄菓子なんだろう!? 気になる!! あ! これも! でもこれを買ったら300ギルをオーバーしちゃう! 要検討! あ、これもいいなあ!」
……なんとなく予想はしていたけど、やっぱりリサが一番楽しそうだ。口では子供っぽいとか言いながら、実は一番子供っぽいことが好きなんだよなあ。
「ユート! アンタも早く選びなさい! 言っとくけど妥協は絶対に許さないわ!!」
「はいはい」
すっかり駄菓子選びのとりこになってしまったリサを筆頭に、僕たちは駄菓子をそれぞれ300ギル分ずつ駄菓子を選んだのだった!
*
「いやー、これだけ買って300ギルしか財布が痛まないなんてね」
僕たち三人は駄菓子が入った袋を持ち、ベンチに座った。
「結局リサは何を買ったの?」
「ふふふ……驚きなさい」
リサは自信満々な表情で、服のポケットの中をまさぐる。
「シールくじを十回引いちゃた!!」
「店内で『この駄菓子気になる!』とか言ってたのはなんだったの?」
リサは正方形のキラキラシールたちをトランプの手札のようにして僕たちに見せびらかす。いや、本人がそれでいいならそれでいいんだけど。言行が一致してないあたりチョイスがリサっぽいなとは思う。
「そういうユートは何を買ったの?」
「20ギルとか30ギルのお菓子をいくつかと、100ギルの大きいお菓子を1つだよ」
「「普通だ……」」
アリシアさんとリサは声を揃えて言う。二人とも普通普通って言うけど、駄菓子は無難に幅広く買った方が後で楽しめるというのは僕の美学なのだ。
「アリシアさんは何を買ったんですか?」
「『ヤバい棒』30種類買っちゃった!」
「「なんというパワープレイ」」
誰もが一度は食べたことがある駄菓子界の王道『ヤバい棒』。一本10ギルというありえないレベルの安価と豊富なバリエーションでお馴染のスナック菓子であるが、アリシアさんは店内にある30本を全部買ったらしい。まあ駄菓子屋さんには普段買えない味があるから気持ちはわかるけど……パワープレイな感じがなんともアリシアさんっぽい。
「さ、皆で食べよっか。僕が買ったロシアンガム、誰がすっぱいやつを引くか勝負しましょう」
「おー! いいね!」
僕たち三人はベンチで駄菓子を楽しんだのだった。
おまけ
ユート「全然酸っぱくない」
アリシア「普通だね」
リサ「酸っぱあああああああああああああああ!?!?!?!?!?」




