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9話後半 アリシアさんは冒険が好き!

「まさか本物の幽霊に出会っちゃうなんてね……」


「時間差で驚かせてくるあたり、なかなか狡猾(こうかつ)ですよね……」


 予想外のトラブルが起こってしまったが、まだ来て最初のアトラクションだ。気を取り直して次に行こう。


「次はこれがいいな! 『サファリシップ』!」


 アリシアさんが選んだのは、アドベンチャー系の『サファリシップ』。船の上に乗って、川を下りながら猛獣(もうじゅう)モンスターの模型を眺めるアトラクションだ。


 一度に搭乗できる人数が多いので、僕たちは並ぶことなくさっそく船に上がり込んだ。


「あちらに見えるのが、空を飛ぶ象モンスター、フライングエレファントです!」


 真っ白で大きな船の上。テンションの高いスタッフさんが、遠くを指さしてモンスターの解説をする。彼が指さす先には、翼が生えた象のモンスターの模型があった。大きな白い翼をバタバタとはためかせて今にも浮き上がろうとしている。耳で飛ぶんじゃないのかよ。


「前に戦った時は苦戦したなあ……」


 アリシアさんはうんうんと首肯(しゅこう)し、感慨に浸っている。いや戦ったことあるんかい。


「あ! ミストオクトパスが霧を吹いてきましたよ!」


 スタッフさんがそう言った瞬間、船が通過する岩場の近くに設置されていた紫色のタコのモンスター模型が、船に向かってプシュー、とミストを吐き出す。風がミストを運び、風と相まって涼しく、気持ちがいい。


「ミストオクトパスが吹くのは実は毒霧で、本物だったら私たち即死なんだよ」


「なんて危ないものをゲストに浴びせるんだ!?」


 なんか予想はできていたが、アリシアさんと一緒に船に乗っていると、衝撃的な発言が連続して全然集中できなかった。


「あ! 『グラトニックウルフ』がお腹を空かせていますよ!」


 次にお姉さんが指したのは、大きな上に乗った一匹の狼。忘れもしない。『初心者狩り』のグラトニックウルフだ。


 ……よく似てるなあ。あの時目に焼き付いたものと本当にそっくりだ。


「……ユート君、楽しい?」


 ボーっとモンスターの模型たちを眺めていると、アリシアさんが横から声をかけてくる。


「楽しいですよ。凄い出来だなと思って見てたんです」


「……そっか!」


 グラトニックウルフを見て少し仲間のことを思い出していたのだが、アリシアさんは僕の事情は知らないはずだし、大丈夫。バレてないだろう。


 『サファリシップ』のコースが終わり、僕たちは船から下りる。15分くらいだけど、なかなか楽しめた。


「ユート君、次行こう!」


「はい!」


僕たちはそこからもずっとアトラクションを楽しんだ。


 絶叫系の代名詞、ジェットコースターの『ヒュージ・ディザスター・インフェルノ』や『海賊団』、『ワッツアップ・リアルワールド』……どれも完成度が高く、時間はあっという間に過ぎていった。


「いやー! さっきのもなかなか楽しかったね!」


「ですね。もうすっかり夕方ですよ」


 楽しい時ほど、流れる時間は早い。日はもうすぐ落ちそうになっていて、夕日はアリシアさんの真っ白な肌をオレンジ色に染め上げていた。


「ねえ、最後に乗りたいアトラクションがあるんだけど、いいかな?」


「いいですけど、なんですか?」


「アレ!」


 アリシアさんが最後のアトラクションに選んだのは、観覧車だった。確かに、日が落ちかけている今、高いところから下を眺めるのはきっといい景色だろう。


「いいですね! 閉園する前に乗っちゃいましょう!」


 僕たちは早足で観覧車に乗った。


 観覧車のゴンドラの中は少し狭く、四人も乗ったら窮屈(きゅうくつ)で仕方ないだろう。アリシアさんと僕は、反対の席に座った。


「あ! 見て見て! 今日乗ったやつだよ!」


「本当だ。あんなに大きいのにここから見ると小さいんですね」


 観覧車は、僕たちが乗っているゴンドラを少しずつ上に上にと運んでいく。僕は、ディスティニーランドの風景を眺めるアリシアさんの横顔を見た。園内を照らすためのライトが彼女の瞳に反射して、光を放っているようだ。思わずドキッとして、目を逸らす。


「今日はいきなり呼びつけたのに、一緒に来てくれてありがとね」


「あ、ああ。大丈夫ですよ。唐突に遊びに行くのはいつものことじゃないですか」


 僕が返事をすると、アリシアさんはニッと笑い、再び夜景に目をやった。


「今日は一日、大冒険だったね」


「大冒険、ですか……」


 僕は冒険者だ。でも他の人とパーティを組んで冒険はしない。だから大冒険だったかと言われるとそんなことはなくて――いや、アリシアさんはそういう意味で言ってないだろ。僕は何を考えているんだ。


「私ね、人を殺したことがあるの」


 僕らのゴンドラが頂点に差し掛かったところで、アリシアさんが景色を見ながらぼそりと呟いた。


「な、え……?」


「あ、殺したって言っても、本当の意味じゃなくて。勇者として救えなかったって意味。人が死ぬのを」


 アリシアさんはそのまま話した。


「私ね、ある村に住んでたことがあったんだ。村の人は皆いい人で、よそ者の私によくしてくれた。私も村の人が大好きだったんだ」


「ある日ね、私が三日だけ村を空けたことがあったの。冒険のためにね。村の人にお土産を取ってきて、いつも通りの日常に戻るはずだった」


「でも、帰ったら村はモンスターに滅ぼされていたんだ」


 聞いたことがある。一晩のうちにモンスターの群れが村を襲い、村人は一人残らず殺されてしまったという話だ。アリシアさんが住んでいたと聞いて、現実味が増し、僕は生唾を飲んだ。


「もしね。もしも、私があの時に村にいれば村の人たちは死ぬ必要はなかったんじゃないかって。私に果物をおまけしてくれた八百屋さんも、住む場所を貸してくれたおばさんも、綺麗な花を摘んで渡してくれた女の子も、今も変わらず笑顔でいられたんじゃないかって思うの」


 つまり、救えたかもしれない命を救えなかったことを『殺した』と表現したってことだ。


 それはまるで、僕がかつての仲間たちに懐いている感情そのものだった。


「だから、私は二度と同じ思いはしないように、強くなるって決めた。スライムも克服するし、絶対に誰も死なせない。そう思ってるんだ」


 アリシアさんがスライムを克服するために焦っていたのは、それが原因だったのか。


「ねえ、ユート君。時間はどうやっても巻き戻らないんだ。死んだ人間は生き返らないし、やったことは取り返しがつかない。だからこそ、それは全部背負っていきていかないといけないんだよ。どれだけ辛くても、それから目を背けることは責任を果たすことじゃないって、私は思うんだ」


 全部背負って生きていく。その言葉が頭の中で逡巡(しゅんじゅん)した。


 仲間が死んだ現実も、それが戻ってこない事実も、決して変わることはない。そのことは僕の背中に重くのしかかり、時に僕を押しつぶそうとしていた。


 しかし、アリシアさんの言う通りだ。彼女は誰かを助けられなかった過去から目を背けず、今スライム克服を頑張っている。たとえ過去が変わらなくても、それでも僕は生きて行かなければならないのかもしれない。


「……そうですね、ありがとうございます」


「うん」


 いつの間にか、ゴンドラは頂点を過ぎて下に降りていた、


「……アリシアさん」


「ん?」


「今日は、大冒険だったと思います」


「……うん!」


 ギルダ。シグルド。セレン。


 僕は前に進むよ。前に進む責任があるから。


『あったりめーだろ! お前ビビってんのかよ!』


『ユート、お前にだからこそできることはある。……これはデータじゃなく、俺の直感だ』


『ま、頑張りなさいよ! あたしたちのことも忘れちゃダメだからね!』


 ありがとう。


 二人きりのゴンドラの中で、何故か僕は背中を押された気がした。

おまけ

もしリサがディスティニーランドに同行していたら

~アンデッド・ホテル~

リサ「ぎゃあああああああああああああ!?!? ゾンビデタヨ?!?」

~ヒュージ・ディザスター・インフェルノ~

リサ「うおおおおおおおおおおおお!?!? オチテイクヨ!?!?!?」

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