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9話前半 アリシアさんは冒険が好き!

 朝だ。時計を確認すると、時刻は7時過ぎ。僕は大体この時間に目が覚めるので、まったくもっていつも通りの朝だ。


 昨日はいい感じに休暇が取れたので、今日はアリシアさんのスライム克服のお手伝いかな。さて、いつものように食事を作り、朝の準備をしなければ。ベッドから大きくあくびをして、起き上がると。


「ユートくーん!」


 何故か、朝から玄関から聞きなれた声がする。まさかと思い玄関へ行き、扉を開けると。


「おはようユート君! 起こしちゃったかな?」


「アリシアさん?」


 立っていたのは僕の予想通り、アリシアさんだ。しかし、一か所だけ普段と違うところがある。彼女の服装だ。


 いつもの鎧姿ではなく、白いブラウスを着ている。なんだか普段より大人っぽく見えて、朝からドキドキしている。


「なんで僕の家がここだって知ってるんです?」


「ダース君に聞いたんだ。迷惑だったかな?」


「全然。で、こんな朝からどうしたんですか?」


「うん! 今から一緒に遊園地に行こうと思って!」


「遊園地?」


 いきなりな話だ。突然やってきて遊園地とは。


「わかりました。準備するのでちょっと待っててくれますか?」


「はーい!」


 僕は全速力で支度をし、アリシアさんと一緒に遊園地へ移動した。



 シエラニア・デスティニーランド。『来た人の運命が変わってしまうようなエンターテインメント』をモットーにしたここは、この街で一番の人気のテーマパークだ。


 門の前には今日もたくさんの人たちが列を作っている。僕たちもチケットを購入し、に10分ほど列に並んで、入場した。


「アリシアさんってデスティニー好きなんですか?」


「ううん! 初めて!」


「……じゃあなんで今日いきなり行こうと思ったんです?」


「いやあ、ちょっとね!」


 なんなんだろう。ま、いいや。アリシアさんが世間知らずなのは毎回だし。


「まずは何に乗りましょうか!」


「あ! あれ面白そう! 『アンデッド・ホテル』!」


 アリシアさんが最初に選んだのは、恐怖系アトラクション、『アンデッド・ホテル』。100体のアンデッドモンスターを封印するため、アンデッドハンターとして廃ホテルに乗り込むアトラクションだ。


 いきなり恐怖系アトラクションをチョイスするとはなかなかチャレンジャーだな。しかし『アンデッド・ホテル』は足で散策する系にしてはあんまり怖くないはずなので、入門としてはいいだろう。


「よし! 行きましょう!」


 僕たちは列に並び、中に入るのを待った。


「アリシアさん、恐怖系アトラクション大丈夫なんですか?」


「うん! だてにモンスターと戦ってないからね! アンデッドなんて一撃だよ!」


「マジでシャレにならないんでやめましょうね」


 アリシアさんは満面の笑みで言うが、スタッフさんを殴ってしまったら間違いなく出禁だ。それだけは勘弁してほしい。


 しかし……アリシアさんは恐怖系アトラクションには余裕そうだ。むしろワクワクした表情をしている。それはそれでなんか面白くないな……そうだ。


「アリシアさん、ディスティニー都市伝説って知ってます?」


「なにそれ?」


「ディスティニーランドにまつわる噂です。いくつかあるんですが、この『アンデッドホテル』にも都市伝説はあるんです」


「へー、どんな?」


「本物の幽霊が出るって話です」


 アリシアさんの顔が一気にひきつる。わかりやすい。


「へ……本物の幽霊?」


「はい。出口付近に本物の、女の子の幽霊が出るそうです。そんなスタッフは存在しないって運営が言っているのにも関わらず、目撃証言が絶えないんだそうです」


 噂自体は本当に聞いたことがあるものだ。しかし、都市伝説は頭の片隅に入れて楽しむくらいがちょうどいいものであって、鵜呑(うの)みにするものではない。現に、実際に幽霊を見た人なんていない。一方、話を聞いたアリシアさんはと言うと。


「へ、へえ~~! そそそ、そうなんだ! ロックだね!」


 めっちゃ鵜呑みにしている。声が上ずっているし、わけわからないことまで口走っているぞ。


「さ、次は僕たちの番ですよ! 行きましょう!」


「ちょ、待って! おいていかないで!」


 完全にビビっているアリシアさんと、いざ『アンデッドホテル』に潜入。


 中は設定どおり廃ホテル風になっており、暗いけどなんとなく床には赤じゅうたんが敷かれているのがわかる。客室がズラッと並ぶ闇に包まれた廊下を、僕とアリシアさんの二人で歩く。


「ウガアアアアアア!!」


「うおっ!」


 突然客室のドアが開き、目の前に肌が溶けたゾンビ|(に模したスタッフさん)が現れる。勢いのよさに、僕は思わずビックリして声を上げてしまった。


「ビックリしたー。アリシアさん、大丈夫でしたか?」


「うん。あれくらいならもう斬ってるよ」


物騒(ぶっそう)なこと言わないでください」


 どうやらアリシアさんは余裕みたいだ。なんか男の僕だけビビっちゃって恥ずかしいな。


 廊下をさらにズンズン進んでいく。


「グオオオオオオオ!!」


 窓を突き破ってくるキョンシー。


「あ、また出ましたね!」


 余裕そうなアリシアさん。


「ヌオオオオオオオオ!!」


 床を突き破ってくるミイラ男。


「そんなところで顔を出したら危ないですよ?」


 アンデッドの心配をするアリシアさん。


「ソイヤアアアアアアア!!」


 太鼓を叩く、男気に溢れたゾンビ。


「ラッセーラ!」


 呼応するアリシアさ――このアトラクション、趣旨(しゅし)がおかしくなってきてない?


 そんなこんなで、特になんのトラブルもなく、僕たちは真っ暗な長い廊下を歩き続けた。


「ねえ、ユート君……」


「はい?」


 しかし、アトラクションの終わりに差し掛かった時、さっきまで余裕そうだったアリシアさんがか細い声を発する。


「入口で言ってた都市伝説……あれ嘘だよね……?」


 アリシアさんの顔は真っ青になっている。完全にスライムを見ている時の怯えた目だ。この人アトラクションのアンデッドはなんともないくせに、無害な幽霊少女にはビビるのかよ。


「大丈夫ですよ。あくまで噂ですから」


「……だよね! よかったあ~。本当に出てきたらどうしようかと思った」


「そんなわけないじゃないですか。ほら、もう出口が見えてきましたよ」


 ここで何か起これば面白かったのだが、特に何が起こることもなく、僕たちはアトラクションの出口から外へ出た。


 出口はお土産屋さんにつながっていた。ゾンビクッキーやミイラ男キャンディーなど、『アンデッド・ホテル』に関連したグッズが様々並べられている。


「お疲れさまでしたー! 記念撮影はいかがですかー!」


 そんなお土産屋さんの一角、魔道具の『魔道カメラ』を持ったお姉さんが元気よく記念撮影の売り込みをしている。顔に包帯を巻いてミイラ男に模しているという役作りの徹底っぷり。


「ユート君、せっかくだから撮ってもらおうよ!」


「ですね、記念になりますし」


 僕たちはお姉さんに撮影料を払い、笑顔で記念撮影をした。



「んー! これ美味しい!」


「やっぱりディスティニーと言えばチュロスですね」


 お土産屋さんから出た僕たちは、白い袋に包まれたチュロスをかじっていた。


 ディスティニーと言えば、食べ歩きグルメだ。砂糖がたっぷりついたサクサクのシナモンチュロスはまさに絶品。アリシアさんも満足そうにしている。


「そういえば、さっき撮った写真、見てみましょうよ!」


「うん! どんな感じかな!」


 包帯グルグル巻きのお姉さんからもらった封を開け、写真を見てみる。


「あ、よく写ってるねー!」


 魔道カメラってこんなに性能がいいんだ。本当によく写っている。


 写真の中には、楽しそうな笑顔を浮かべる僕たち三人がいた。


 ……三人?


 僕と、その隣でピースをしているアリシアさんと、その横にいる小さな女の子と……。


「「ああああああああああああ!!」」


 噂は本当だったらしい。

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