7話前半 ユートは特徴がない!
今回はアリシア視点で物語が進行していきます!
「アリシア、勝負よ。このカップケーキをどっちが早く食べられるか。制限時間は30秒」
冒険者ギルド、いつもの席。カップケーキが2つ置かれた机を挟み、向かいにはリサちゃんがいる。彼女は最近仲良くしてくれるお友達だ。
「どうせならどっちが美味しそうに食べられるかで勝負しようよ! このサイズじゃすぐ食べちゃうよ」
「確かに。ゆっくり食べましょう」
カップケーキにフォークを刺し、口に運ぶ。ふわふわとした食感と口の中に広がる甘み。やっぱりギルドのカップケーキは絶品だなあ。
「それにしてもユートはいつになったら来るのかしら? 遅くない?」
「リサちゃん、今日はね、ユート君は来ないんだ」
今日このギルドの席に来るのは私とリサちゃんだけ。私はティーカップを手に取って紅茶を一口飲み、本題に踏み込む。
「今日ユート君には休暇を出してるんだ。だからここには来ないの」
「お休みってことね。じゃあアンタはなんでここにいるのよ」
「……ユート君の休日、見てみたくない?」
思えば、私はユート君のことをよく知らない。いつもお世話になっているのに私の遊びに付き合ってもらっている感じだし、悪い人でないことはわかるけど。
「つまり今日はユートを尾行して、どんな生活を普段しているのかを調べるって事ね」
「さっすがリサちゃん! 話が早い!」
果たして彼はどんな休日を送っているのだろうか。
「っていうか、そんなことをする前にアイツに聞けばいいんじゃない?」
リサちゃんは席から立ちあがり、ギルド内を歩いて一つの席に移動した。
「ちょっとアンタ!」
「あ? なんd……うおっ!? 『緋色の天才』!?」
リサちゃんが声を掛けたのは、ユート君の友人の……ダース君だっただろうか。ギルドの席で一人、お酒が入ったグラスを片手に座っていた。
「アンタはユートの友達なんでしょ? あいつについて聞かせてほしいんだけど」
「ユ、ユートについてか!?」
「そうだって言ってんでしょグズ。聞き返さないでさっさと応えなさい」
「すまねえユート。前言撤回するわ。こいつないわ。おいテメエ! 人に物を尋ねるときは聞き方ってもんがあるだろ!? そんなに知りたかったら俺の靴でも舐めろ! この赤髪ロリっ子が!」
「あ、赤髪ロリ!? 信じられない! 最悪!」
ダース君は前回話した時よりもハキハキ喋れるようになっているなあ。
「ダース君、忙しいところ悪いけど、教えてくれたりするかなあ?」
「あっ、ハイ! アリシアさん! わかりました! ぜひなんなりと!」
「アンタ、なんでアリシアと喋るときだけデレデレするのよ!」
……? 二人は仲がいいのかな。
「えーっと、ユートについてっスよね。あいつとは腐れ縁っていうか長い付き合いなんで大体のことはわかりますけど……何から話しますかね?」
「いいから知ってることを全部しゃべりなさいこのカス」
「てめえ次口を開いたらその髪を引きちぎってオークションにかけるからな。俺はお前の髪で得た不労所得で飯を食う。覚悟しておけ」
「挙動不審のキモ男のくせに言うことだけは立派じゃない」
「喧嘩しないっ!!」
話が逸れてきてしまったので、軌道修正。まずユート君について知りたいのは……。
「ユート君って、ダース君から見てどんな人なの?」
まずは印象。努力家で優しいと私は思うけど、彼はどう思うんだろう。
「一言で表すなら『普通』っスね」
「「普通……」」
「はい。とにかく特徴がないです。全てにおいて平均点っていうか」
確かに彼がどういう人なのか、突き抜けたものは感じないけど……普通っていう説明はあんまりじゃないだろうか。
「じゃあユート君の趣味は!?」
「読書です」
「「普通だ……」」
履歴書に書くときにとりあえず書くやつだ。ありふれすぎて面接官も触れにくいタイプの。
「好きな食べ物は!?」
「カレーです」
「「普通だ……」」
なんかこう……ないの? ガパオライスとか出てきたりしない? ノーガパオ?
「あ! 特技は!?」
特技って他の人より秀でていることをいうわけだから、さすがのユート君でも特徴的なのが出てくるはず!
「料理が上手いらしいですよ」
「「……」」
それは食べてみないとわからないな……
「わかったでしょう? ユートは普通を突き詰めた人間なんスよ」
ダース君の言う通りだったようだ。全てにおいて普通過ぎてどう反応すればいいのかわからない。
「まあアンタみたいな『クズ』よりは『普通』の方がマシなんじゃない?」
「お前も絶対にこっち側に引きずり込んでやるからな。お前が屈辱に満ちた表情をするのが今から楽しみだぜロリっ子!」
「……いいでしょう。ワンパンしてやるから表に出なさい」
「すぐ喧嘩しないの!」
とにかく。ユート君がどんな人間なのかは話を聞いているだけでは到底わかりそうにないことはわかった。こうなったら実際に彼がどんな休日を過ごしているのかを観察しなければ!
「リサちゃん! やっぱり尾行しよう! きっとユート君にも何かしらの特徴があるはずだよ!」
私はリサちゃんの手を引き、ギルドの外へ走り出した。
「ダース君、ありがとうね~!」
「はい! また来てくださいアリシアさん! 赤髪ロリっ子は二度と来るな!」
「調子に乗るんじゃないわよキモ男!」
リサちゃんとダース君は別れ際まで憎まれ口をたたきあっている。本当に仲がいいんだなあ。
アリシアとリサがギルドから出た後、ダースは一人、酒を飲み続けていた。
「あ! そういえばあのロリっ子のせいで大事なことを言うの忘れてた!」
ダースは重要なことを思い出し、声を漏らした。
「ユートがパーティを組まなくなった理由……あの二人は知らないんだ!」




