最終回後半 アリシアさんはスライムが好き!
「どうしたんです? こんなところで」
「いやあ、最近姿を見ないって聞いたから……何か、悩んでいるのかなあと思って」
彼は私の言葉を聞いて首を傾げ、不思議そうな目をした。
「別に何も悩んでなんかないですよ。心配させたならすみませんでした」
「そ、そう? あ、パンケーキ焼いてきたよ!」
「いらないですよパンケーキは……どうせ沼みたいな食品なんでしょう」
「沼!? 今パンケーキのことを沼って言った!?」
私のパンケーキのどこが沼……いや、ちょっと沼かもしれない。
「そんなことより、少し散歩でもしませんか。いい天気ですし」
「うん、わかった!」
気を取り直して、私たちは並んで街を歩く。
「だいぶ人も増えてきましたね」
「うん。魔王を倒して、みんなの生活が戻ってきてるんだよ!」
「そう言えば……聞きました? 新しい魔王はフランツですって」
「えっ、フランツさんが!?」
「ええ。無能な奴をトップにおいておけば、人類は安泰ですから」
なんということもない世間話をしながら歩く。これまでと同じように話す彼の顔を見て、私はこれまでとは違う気持ちを懐いていた。
「……? なんです、顔に何かついてますか?」
「ち、違うよ! なんというか、その……」
「何ですか? もじもじしないでハッキリ言ってくださいよ」
「その……魔王と戦うときに、あんなこと話したじゃない?」
「あんなこと……?」
鈍いッッ!! 全部言わせないで!!
「だから……好き、ってこと」
私がそこまで言って、ユート君はようやく顔を赤くし始めた。
「あー……そういうことですね、ハイ、わかりますよ……アハハ」
まずい、このままではお互いにもじもじしてしまう。私も心臓がドキドキとするのを抑えるのが限界だ。
沈黙が気まずい。何か話題を切だそうとしたその時、ユート君が。
「そうだ、いつもの森に行きません?」
「そうだねぇ!! 行こう!!」
緊張して、ものすごい勢いで返事をしてしまった。私たちはそのままの調子で、いつもの森へと歩いていった。
「ねえ、ユート君。悩みごとじゃないんだったら、なんで家に引きこもってたの?」
「それが、ここに来た理由でもあります」
森の中へと進む。今まで気づかなかったけど、彼の姿は思っていたよりも広くてたくましい。一見するとなよなよしているけど、こういうところは男の子なんだなあって思う。
「さて、アリシアさん。始めましょう!」
「始めるって、何を?」
「決まってるじゃないですか!」
そう言って彼は一冊のノートを懐から取り出した!
「スライム克服ですよ!」
「えっ……? スライムは克服したよね?」
「いえ、あれじゃ僕がいないとスライムを克服できないじゃないですか! 僕なしでも克服できるようにならないと、真の克服とは言えません!」
「ちょ、ちょ、待って!」
私はノートを掲げる彼の手を掴んで、制止した。
「なんです?」
「ユート君、いなくなっちゃうの?」
彼がいなくなる未来というのは、想像するのも辛いものだったから。だから、彼が言っている言葉の意味を知りたくて、私は引き留めた。
「……いなくならないですよ」
彼は私の心配もしらず、ニッと笑うと。
「ずっと隣で、って約束したじゃないですか。ここで。だから、僕はアリシアさんを置いていなくなることはありません。だから……そんな顔をするのはやめてください」
言われて、気付いた。私が泣いていることに。そして、彼は私の事をぎゅっと抱きしめる。
「ずっと、一緒にいましょう」
「うん……」
数秒して、私たちはかなり恥ずかしいことを言っていることに気付き、同時にバッと離れた。
「い、い、今のは別に、そういうのじゃない、ですからね!?」
「そ、そうだよね! そうそう! アハハハ、ユート君ってば、時々恥ずかしいこと言うよね……!」
ひとしきり笑ってごまかしたあと、やっぱり気まずくなって。彼はゴホンと咳ばらいをした。
「僕がいなくならないとはいえ! スライムを克服しなくていいわけではありません! さあ、行きますよ! 今日の作戦は……」
「うわーーーーー!! もう嫌だーーーーー!!」
「あ、こら! 逃げるな!」
森の中で走る、私と彼。
彼と一緒にいると、嫌いなものが好きになり、退屈なことも楽しくなる。
スライムは、とても弱くて一体じゃ生きられない。
体はぬめぬめとしていて、鳴き声のせいで天敵に見つかってしまう。
だけど、そんな姿が誰かにとっては可愛くて、たくさんの人から愛されている。
私はそんなスライムが大嫌いで――大好き。
今回で完結です!応援してくださってありがとうございましたー!!




