最終回前半 アリシアさんはスライムが好き!
魔王を倒してから三日が経った。私はまた、いつものようにベッドから目を覚ます。
欠伸をしながら服を着替える。
部屋から出て、寝ぼけまなこで朝食を食べる。
席について、パンケーキを10枚平らげたところで、ようやく目が冴えてくる。
そういえば、最近彼に会っていない。
きっと、カスミちゃんとの別れが心に来たんだろう。二人はとても仲が良かったから。だけど、もしかしたら食事も摂っていないんじゃないかと思うと、凄く心配になる。
『お兄のこと、大事にしてあげてください』
そうだった、カスミちゃんに頼まれたんだっけ。私がなんとかしなくちゃ。
そうと決まればすぐ行動。私は急いで食事を済ませ、ダッシュで外へ行く。
玄関の扉を開く。途端、輝かしいほどの日光が私を照らし始めた。
「いい天気……!」
街にも人が戻り始めている。一部壊れてしまった建物もあるけれど、あと少しもすれば直ってしまうだろう。ロゼさんが開発したバッタちゃんたちも活躍していると聞く。
「アリシア! こんな時間に散歩かオラ!」
前方からやってきたのは、リサちゃん。今日のTシャツには『終わりなき旅路』と書かれている。
「散歩っていうわけじゃないんだけど……その」
「わかるわかる。どうせあいつのことなんでしょ?」
「うん」
リサちゃんはプププと笑い、小馬鹿にしたような目で私を見る。
「あのヒゲから聞いてるわよ。最近家から出てきてないんだって」
「えっ……家から出てない!?」
「そう。ここ三日ぐらい家から出てこないからバイト仲間がいなくて退屈だって嘆いてたわ」
そんな……やっぱり彼は心を痛めているんだ。
「で、どうするの? 放っておいて私と遊ぶのもいいと思うけど……」
「私、声をかけないと。元気にしてあげなきゃ!」
私の答えを聞き、リサちゃんはニヤリと笑った。
「だったら、行くべき場所があるわね!」
バサリとマントを翻し、リサちゃんは高らかに宣言した。
「で、研究所に来たってわけね……」
「そういうことよ。今からここで料理をするの!」
「ここは飲食店じゃないんですけど……」
リサちゃんが指定した場所は、マツリさんの研究所。私たちにお茶を出して、ロゼさんが困ったように笑った。マツリさんは相変わらず落ち着いて、お茶をずぞぞぞと飲んでいる。
「ボクはこれからゲームの製作があったんですけど……まあ仕方ないです。奥の厨房を使いましょう」
こうして、マツリさんの監督の下、私たちの料理が始まった!!
「わー! ロゼさん、料理上手!」
「そうでしょうそうでしょう! マツリさんの食事は全部ボクが作っているんですから!」
そう言って、ロゼさんはフライパンでチャーハンを器用に返しながら答える。
「ふっ! しかし、私には敵わないわ! 酸素ボンベファイアー!!」
リサちゃんは酸素ボンベのボタンを押し、炎魔法を上手く使い、『ヤバい棒コンポタ味』を火であぶる。
「ヤバい棒は火であぶると美味しいんだぞ!」
それは本当なのかな……? っていうか、それ料理って言わないんじゃ……。
「アリシアさんもお料理上手ですね! それはスープですか?」
「ち、違うよ! パンケーキだよ!」
「「「???????」」」
厨房の空気が凍り付くのを感じる。
「ま、まあいいんじゃないですか?」
「そ、そうね。料理は気持ちって言うもんね」
「……すぴぴぴぴぴ」
一瞬なんだか空気がおかしくなった気がするけど、満場一致だし気のせいだよね!
「さ、まだまだヤバい棒をあぶるぞ! ギルバートからもらったやつが余ってるからなあ!」
「そう言えば、ギルバートさんはまだこの街に?」
「ううん。あいつはさらなる花火師になるために旅だとよ。可愛い弟子のことを放置するとは、不届きな奴だわ」
リサちゃんはヤバい棒をあぶりながら話す。
「アリシアさん、そろそろ行きますか?」
「あ、うん! 料理も出来たし、そろそろ行かなくちゃ!」
厨房の三人に手を振り、私は研究所を後にした。
研究所から出ると、ぬるい風が吹いてくる。もうすぐ夏が終わる。街の空気が、季節の変化を予感させた。
いい天気、心地いい気温。まさにお出かけ日和だ。こんなに素敵な日なのに、彼はふさぎ込んでしまっているんだろうか。
なんて考えていると、彼の家に着いた。玄関を目の前にしてノックをしようとして、さっきまでの勢いがなんだか消えてしまった。
私は、彼にちゃんと助言をしてあげられるだろうか。もし、彼が深く傷ついていたらどうしよう……不安になってきてしまった。
またダメージを与えてしまうくらいなら、ノックする必要はないんじゃ……そう思った時、内側からドアが開けられた。
「……アリシアさん?」
「ユート君!」
黒い髪に水色の瞳。少しなよなよしているように見えるが、意外としっかりとした体格の少年は、私を見て不思議そうな顔をした。




