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6話後半 ダースは女の子が好き!

「『リサ』って、あのリサ・フィエルテか!?」


「う、うん」


 アリシアさんの話が終わったと思ったら今度はリサの話だ。


 思えばアリシアさん同様に、リサのことも僕はよく知らない。魔女っ子っぽい格好をしているし、『ポンコツ魔法少女』みたいなあだ名をつけられているのかもしれないな。


「リサも有名な人なの?」


「何といってもあのツンツンした感じがいいよな。普段はツンなロリなのに二人でいるときだけ俺にデレてくれたりしねーかな! くれたりしねーよな! 聞き流せ!」


 一回このくだりを挟まないと駄目なんだろうか。だとしたら病気なのでどこかの病院に行ってほしい。


「ゴホン。リサ・フィエルテ。俺たちと同い年にして稀代(きだい)の天才魔法使いだ。魔法学院時代はいくつも論文を発表して、首席で飛び級卒業だぜ」


 ダースは咳ばらいとともにリサの経歴を語り始める。さらに続ける。


「学院卒業後は冒険者として活躍、髪の色とその天才ぶりからついたあだ名が『緋色の天才スカーレット・ジーニアス』だぜ」


 スカーレット・ジーニアス……?


 口を開けば『ライバル』しか出てこないのに……?


 魔法の名前が<アルティメット・ファイア・メテオ>なのに……?


「ツンツンとした性格で、学生時代は数多くの教授を論破し、魔法の実力で黙らせてきたらしい……誰もあいつが笑顔になってるのを見たことがないんだってよ。誰にも心は開かないんだろうな」


 誰にも心を開かない……?


 ブランコで靴飛ばししたとき、死ぬほど楽しそうにしてたのに……?


 鉄棒で逆上がりが出来なくて泣いてたのに……?


 やはり僕が知っているリサと、世間一般のリサ像はズレている。なんでそんなに神格化されているんだろう。


「まさかお前『緋色の天才スカーレット・ジーニアス』にもなんか命令してるんじゃねーだろうな!? メイド服着ろとか!!」


「アリシアさんには変な命令してるみたいな言いぐさはやめろよ。別に何もしてないよ」


「そっか……いくらお前と言ってもそこまでは無理か」


 ダースは大きくため息をつく。


「はーあ! 羨ましいなちくしょう! 俺もえりりにあんなことやこんなことをお願いしたいな! お前はずりいよ! 『完璧姫様パーフェクト・プリンセス』と『緋色の天才スカーレット・ジーニアス』を両手に華ですか! 一回ぶん殴っていいか? 殴らせろよ!」


 駄目だ。こいつは絶対にアリシアさんとリサには近づけてはいけないタイプの人間だ。というか世間に出してはいけない。


「あれ? ユート君!」


 ダースの振る舞いに頭を抱えていたその時だった。手を振ってこちらにやって来たのは、件のアリシアさんだ。


「ちょっとアリシア! 今日こそ私と勝負しなさい!」


 その隣には喧嘩腰のリサもいる。まずい! この二人をダースに近づけたら……。


「うわああああああああ!? うおおおお!? あがががが!?」


 奇声を発するダース。そうだ、思い出した。


 ダースは超高校級のドルオタで、クズで、そしてなによりヘタレだった。


「ん? そこにいるのはユート君のお友達?」


「あ、あ、あ、ハイ! 自分ダースって言うっス! ユートとはマブダチっていうか!?」


「なにキョドってんのよこいつ」


 ペコペコと頭を下げて話すダース。普段僕と喋っているときは本性のクズが全開だが、女性と喋るときはヘタレになるのだ。どれくらいヘタレかというと、会話の相手と目を合わせられないくらい。


「私はアリシアです。こっちにいるのが友達のリサちゃん。よろしくねダース君」


「おい、私は『遊べるライバル』だ。訂正してもらおうか」


「二人のことはよく知ってるって言うか、あ、いや、全然知らないんですけど! よろしくお願いします! はい!」


 ヘタレ状態のダースの発言は支離滅裂(しりめつれつ)だ。さっきまで言ってたことをもう一回再現してほしい。


「じゃ、私たちはこれで!」


「待ちなさい! 勝負するまではついていくわよ!」


 アリシアさんとリサが席から離れていく。ダースはしばらく緊張で過呼吸になっており、机に突っ伏したままだった。


「……吐くかと思った」


「まずはそのヘタレをなんとかしなよ」


 大きく深呼吸をし、息を整える。ダースが落ち着くまでに数分を要した。


「生アリシアさん見ちゃったよ! しゃべっちゃったよ!」


 目を輝かせるダース。よほどうれしかったのだろう。


「くぅ~! ここから俺のラブコメライフが始まっちまう予感がするなあ~! 清楚系お嬢様のアリシアさんと……なんか、リサの方はちょっと違うような気がしたけど! もちろんメインヒロインはえりりだけどな!」


「勝手に言ってろ」


 まずは会話の時に挙動不審(きょどうふしん)になるところを治さなければ話にならないと思ったが、ダースはそれでも達成感に満ちた表情でガッツポーズをしている。


「それにしても改めてお前が羨ましいと思ったぜ! あんな美少女二人と知り合いなんてな!」


「別にそんな大したことでもないでしょ」


 僕なんてスライム克服のためのお手伝いだ。ダースが羨ましがるような仲じゃない。


「でも本当にすげーよ! あの二人とパーティなんて!」


「……パーティじゃないよ」


 僕が返すと、ダースは焦ったように手で口を抑えた。


「……悪い。そうだったな。お前はパーティ組まないんだったよな」


「別に気にしなくていいよ。僕の個人的な事情だからさ」


 僕とアリシアさんとリサは、パーティではない。少し仲が良くて、一緒にいるだけ。


 それくらいの距離感が、心地よいのだ。

おまけ

ダース「ところで今度えりりのライブが……」

ユート「絶対行かない」

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