57話前半 情熱は理屈を超える!
「イシヅカ・ケンイチ……!?」
なんかこの名前の感じ。よくわからないけど、マツリさんと同じ響きを感じるぞ!
「余は転生者だ。ニホンという国からやってきた。その際に、チート能力を手に入れたんだよ! だからこの姿は変幻自在というわけだ!」
よくわからないけど、チート能力とかいう力のせいで大きくなったりスライムになったりすると言っている。そんなわけあるかと言いたいところだ。
「そんな便利な能力があってたまるか馬鹿が!」
「ふっ、そこのヒゲ面の少年よ。だったらこの状況はどう説明する? 余はスライムの姿から、最終形態のこの姿へ進化したぞ!」
ダースは下唇を噛んだ。チート能力なんてわけのわからないもの、信じろと言う方が無理だが、目の前で実際に起きてるんだから何も言えない。
「娘よ。お前の祖父、ワタナベ・カケルのことも知っているぞ」
「……おじいさんを知っているの!?」
「ああ。あいつはどうしようもないグズだった。自分には何の能力もなく、私が敷いてやったレールの上を走るだけの存在だ。そのくせ他の人間には囲まれる、おかしな奴だったよ」
魔王はマツリさんのおじいさんまで知ってるのか。名前が似てるし、歳も近かったのかな?
「ここまで余のことをコケにしたのは、お前らが二番目だ! 余が優秀な人間であることにも気づかず、喧嘩を吹っかけてくる愚かな人間が!」
そう言うと、魔王は大木みたいな長い腕を思いきり高く掲げた。
「みなさん! 危ないです!!」
ロゼさんが声を上げる。その瞬間、再び空から暗黒の隕石たちが降ってくるではないか!
「バッタちゃん! みんなを助けて!」
「勇者ブレード、拡散型!!」
研究所のほうからバッタちゃんがワラワラと湧いてきて、体当たりで隕石たちにぶつかる。アリシアさんが聖剣を振るうと、斬撃が飛散して、隕石たちに直撃した。
上空で激しい爆発が無数に起こる。パラパラと石のクズのようなものが降ってきて、僕の頬をかすった。
「助かった……?」
幸いなことに、二人のおかげで僕たちにダメージはない。しかし、魔王が攻撃を始めたのだ!
「ほう……とうとう魔王流星を克服したか。であれば、これはどうだ! 愚かな人間よ!」
今度は、魔王がこちらに腕を伸ばしてきた。手のひらには紫色のオーラが宿り始めていて、それはまるで炎のように揺れながら、どんどん大きくなっていく!
「おいおいおい、あれは素人が見てもヤバいってわかるぞ!」
「バッタちゃんが壁になっても、守れるかどうか!」
あれはおそらく、ヤマトダイナのような感じでこっちにビームを撃ってくるんだろう! そしてあれを食らったらひとたまりもないんだろう!
「私が止めるよ!」
矢面に立ったのはアリシアさん。剣を構えて、魔王に相対する。
「いいだろう! 食らえ! 魔王インフェルノ!!」
魔王の手のひらから、紫色のビームが放たれる! アリシアさんを穿つように、一直線だ!
「勇者ブレード!!」
アリシアさんが剣を振り下ろすと、ビームを真っ二つに。まるで海を割るようにして、中心から左右にビームが別れていく。
僕たちにダメージはないが、左右に割れたビームは街を破壊していく。激しい爆発音と共に、建物が木っ端みじんになった。
「駄目だ! 被害を食い止められなかった!」
アリシアさんは悔しそうに言ったが、それでも威力は抑えられている方だ。勇者ブレードを受けても平気なあの魔王のビームがおかしいのだ!
「ほう、今の攻撃を生き抜いたか……愚かなわりにやるな、人間」
さっきのビームをまたやられたら、次こそはアリシアさんが防げるかわからない。なんとかして時間を稼がなくちゃ……。
「魔王! なぜお前は人間のことをそんなに見下しているんだ!? 自分だって、元は人間なんじゃないのか!?」
「なんだ小僧。まあいい、教えてやる。余は人間であって、お前ら人間とは違うのだ!」
「言ってる意味がわからないわよ! もっとわかりやすく説明しなさい!」
「余はお前ら愚かで不完全な人間と違って、完璧な人間なのだ! 余こそは完璧であり、頂点であり、この世界を統べる王なのだ!」
「そんなの、おかしいよ……」
アリシアさんが小さく呟いた。
「完璧だから他の人を攻撃するなんて、おかしいよ! 人と人とは支えあっていくものだよ!」
「女勇者よ、この期に及んでまだそんなたわごとを言うか! お前だって他の人間よりも圧倒的な力を持っているではないか!」
アリシアさんはハッとした。彼女は確かに強い。それこそ、人類では一番に強いだろう。
「でも……アリシアさんは決して孤独じゃない! お前と違ってな!」
僕が声を上げると、魔王がむっとした表情になる。
「黙れ……余は孤独なのではない。余を理解できるほどの人間がこの世界に存在しないだけだ! 余は完璧で、頂点で、孤独であり続ける『王』なのだよ!!」
激しく激高し、そのまま両方の手をこちらに向けてきた。
「う、うそ……さっきのビームが二本飛んでくるってこと?」
「そんなの、勇者ブレードじゃどうにもできないよ!!」
「フハハハハハ! 絶望しろ、人間! 余はお前らを手のひらで転がしていたのだよ!!」
魔王の高笑いを聞いて、みんなが顔を落とした。あんな威力のビームをさっきの二倍も食らって、無事でいられる保証はない。まさに圧倒的な絶望だ。
「完璧であるということが、いかに素晴らしいことか教えてやる! 余がもっとも完全なのだ!! それを知れ!!」
魔王の手のひらのオーラがどんどん大きくなっていく。それはまるで僕たちの中の『絶望』のように、とどまることなく膨れ上がっていた。
このまま、僕たちは死ぬのだろうか? ただ下を向くことしかできないのだろうか?
『テレサはこの時代に来て、生まれて初めてお友達ができて、いっぱい遊んで、いっぱい食べて、いっぱい笑って。つまらなかったことなんて一度もないですよ。とっても幸せなのです』
そんな声が、どこかから聞こえたような気がする。いや、正確には聞こえてないんだけど。テレサちゃんの言葉が、僕の心の中で再生されたんだ。
「……そうだ、諦めちゃ駄目だ!」
「ユート君?」
気付けば、僕は声を上げていた。
「みんな! 諦めちゃ駄目だよ! 何か手はあるはずなんだ! 絶望に負けるな!」
もちろん、ノープランだ。それでも、僕たちは立ち向かわなくてはいけない。
自分たちのために。この街の人のために。そして、テレサちゃんが素敵な未来を迎えるために。
「……ユート君は、いつも最後まで諦めないね」
アリシアさんが、ニッコリと笑った。それに呼応するように、他の仲間たちも笑い始めた。
状況は何も変わっていない。でも、この絶望の中で、僕たちは笑うことができた。
だったら、なんだって出来る!!!
「いくわよみんな。あの魔王のふざけた面に一撃叩きこむわよ」
「奇遇だなロリ。俺も同じことを考えていたところだ!」
「そうね。このまま証明が終わってしまうのは、実につまらないと思っていたわ」
「い、いけますかねえ……? いや、今のボクなら絶対出来る。今までの失敗ばかりの僕じゃないんだ!」
仲間たちが顔を上げ、魔王を睨み据えた。
ギルバートさんは、僕の肩をポンと掴んで。
「……坊主。お前は凄いな。俺はお前のことを子供だと思ってたぜ。
だが……違う。今のお前は一人の男だぜ、ユート」
僕は黙ってコクリと頷いた。
「フハハハハハ!! あがこうとしても無駄だ! 余のHPは5300万! この世界を滅ぼすなど、造作もないことだ!!」
余裕綽々な魔王。でも、僕たちの心にともった炎は消えることはなかった。
「ユート君、この勝負、絶対勝とう!」
アリシアさんの声を聞き、僕は息を吐きながら目を閉じる。
そして、思いきり目を見開いて叫んだ!
「ここからは、僕たちのターンだッッッ!!!!!!!!!」




