表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
124/133

55話後半 アリシアさんはスライムを超える

 さあ、魔王を倒すぞ! 時間がないぜアリシアさん!! ガンガン行こう!!


「ま、待って! ユート君!」


 アリシアさんが、僕の手を振りほどいて声を上げた。


「どうしたんです!? 急がないと世界が危険ですって! バッタちゃんたちだって、どれだけ時間稼ぎができるかわからないのに!」


「う、うん。それはわかってるんだけどさ……あの……ユート君は、私のこと、どう思ってるの?」


「どう思ってる? どう思ってるってなんですか?」


「鈍いッッ! ……ああもう、ハッキリ言うよ。私はユート君が好き! ユート君は私のこと、好き!?」


 アリシアさんが赤面して、いつになく真剣なまなざしをぶつけてくるものだから、僕はピタリと動きを止めた。


「アリシアさんのことかあ……」


 好きか嫌いかで言ったら好きだけど、彼女が言う『好き』ってそういう意味じゃないんだよな……友達に感じるようなものじゃない、特別な感情であって。


 そもそも好きってどこまでのことを指すんだろうね? 手をつなぎたい? 交際をしたい? 家族を持ちたい? その全部? うーん……アリシアさんはどの段階なんだろう。


「……なんか、冷静に考えたら恥ずかしくなってきました」


「なんで!? 私まで余計に恥ずかしくなってくるじゃん!?」


「僕はアリシアさんのことが好きなのかどうか、わからなくなってきたんですよ! 今まで考えたこと、なかったですから。むしろよくこんな速さで答えを出しましたね?」


 僕が悩んでいる様子を見て、アリシアさんはおかしそうにクスクスと笑った。


「……私ね、テレサが未来に帰る前の日、ユート君と丘の上で喋ってたのを見てたんだ」


「常習的にストーカーしてるんですか?」


「も、もうしないよ!? 前までは時々してたけど! さすがに悪いなあと思ったから……」


 反省してるみたいだし、許してやるか。


「でね、テレサがユート君のほっぺにキスをしてるのを見て……なんだか心が痛くなったの。ズキズキっていうか、ドキドキっていうか……そんな気持ちになったの」


 アリシアさんは胸元に右手を添え、掴むようにして鎧を指でなぞる。


「私はこの気持ちの正体に気付かなかった。でも……辛いけど忘れてはいけないような気がして、苦しいけどあったかくて。この気持ちはきっと『好き』なんだろうなって、さっきわかったんだ」


 アリシアさんはそう言って、照れるように笑った。その表情が、あの森の中で最初に会った時に見た、太陽のように輝く笑顔に重なる。



『私もスライム嫌いの克服、ユート君に手伝ってほしい! だから……お願いできますか?』


 あの日、初めてアリシアさんに出会って、運命の歯車は回り始めた。


『ねえ、ユート君。時間はどうやっても巻き戻らないんだ。死んだ人間は生き返らないし、やったことは取り返しがつかない。だからこそ、それは全部背負っていきていかないといけないんだよ。どれだけ辛くても、それから目を背けることは責任を果たすことじゃないって、私は思うんだ』


 歯車は時計の針を進めていく。ぎこちない音を立てて。


『ユート君、この街が守られたのは、ユート君が最後まで諦めなかったからだよ。みんながパニックになってギルドから逃げ出そうとしてた時、私一人でどうにかできるかすごく不安だった。でも、ユート君が声を上げてくれてすごく嬉しかったよ』


 時計の短い針と長い針は、時々離れて、時々近づいて。どちらかが止まってしまいそうなときは、どちらかが励まして。


『じゃあ私たち、ずっと分かり合えないままだね』


 二つの針は、時に反対まで離れてしまっても。


『後ろからじゃなくて、ずっと隣で応援して。じゃないとスライム克服はしない!』


 最後は絶対に重なり合う――



 僕は、アリシアさんのことが――いや、違う。本当はずっと前から気付いていたはずなんだ。僕から先に言うべきだったのに。


「僕は――アリシアさんのことが好きです!!」


 一歩前に踏み出し、僕は大きな声で宣言した!!


「…………そう、なんだ」


「…………なんですかその反応」


 やばい、恥ずかしくなってきた。顔が微熱を帯びているのがわかる。そしてそれはアリシアさんも同じようで、少しうるんだ瞳で僕のことを見つめていた。


「二人とも、お取込み中悪いけど。そろそろ時間がないわ」


 マツリさんに言われて魔王の方を見てみると。


「ハアッ、ハアッ……な、なんなんだこのバッタは……やっと全部倒したぞ!」


 魔王が、自分に群がっていた魔王を全て倒していた。足元にはバッタたちが山のように散らばっている。


「アリシアさん! 話は後にして、魔王を倒しましょう!」


「そ、そうだね! えっと……私はユート君に触れていればスライムを克服できるのかな……」


 アリシアさんはモジモジとしながら僕に手を伸ばした。


「手……つなごっか?」


「手ですか!?」


 いきなり手を繋がないといけないのか!? どうしよう、めっちゃ緊張してきた! 手がベトベトしてきたし、心臓も激しく鼓動していく。


「恥ずかしくないですか? 手ですよ?」


「わ、私だって恥ずかしいよ! でも克服するためだから……覚悟決める!」


「よ、よーし……繋ぎましょうか、手を……」


 おそるおそる、アリシアさんに手を伸ばす。


「残念だけど、おそらく手じゃ駄目ね」


 その時、ぬっとマツリさんが現れた。


「「ええっ!? なんでですか!?」」


「過去のパターンから見るに、スライムを克服するには、ある程度の接触面積と接触時間が必要よ。だから手じゃ面積が小さすぎるわ」


「「というと!?」」


「そうね……後ろから抱きしめるとかどうかしら?」


 後ろから抱きしめるですか!?!?!?!?!?!?!?


 えげつないですね!?!?!?!?!?!?


「ゆ、ユート君……やるしかないよ……!」


「アリシアさん!? いいんでしょうか!?」


「私、もう覚悟決めたよ……! 心臓が爆発しそうだけど!」


 アリシアさんはすでに僕に背中を向けている。頭から蒸気が出ているから緊張しているのは間違いない。


 本当にいいのか……? いや、でもアリシアさんはいいって言ってるから合意……とはいえ、僕も緊張で体が爆発しそうだ。


 ああもう、やるしかない!!


「い、いきますよ……!」


 意を決してアリシアさんの首に手を回す。接触面積が増えないといけないから、できるだけ体を密着させる。トレンディなハグになってしまった。


「…………!!」


「黙らないでくださいよアリシアさん! 気まずい!!」


「わ、わかってるって! 行くよユート君、しっかり掴まってて!」


 心臓の音が聞こえてないか不安だが、アリシアさんはまるでそれをいなすように、凄いスピードで発進した!!


「な、なんだこれええええええ!?」


 まるで大砲に弾き出されたようなスピード。ジェットコースターに乗っている気分だ。しっかり掴まってないと吹き飛ばされる!!


 いつもこんな速さで戦ってたのか! 振りほどかれないようにしっかり掴まると、目の前には魔王の姿が!


「ハハハハハ!! 小娘が!! お前がスライムと戦えないことはわかって……」


「勇者ブレーーーーーーーーーーーーーーード!!!」


 魔王に肉薄し、アリシアさんは聖剣を思いきり振り下ろす!!


「ぎゃああああああああああああああああ!!」


 聖剣から放たれた一撃に、魔王は真っ二つになって声を上げた!!


 僕たちの、勝ちだ!!


 勝利を確信した僕たちの耳に、ある一言が聞こえてきた。


「なんちゃって」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 更新ありがとうございます(^_^ゞ 魔王の前でラブコメする二人の神経。 多分、心臓に毛が生えてる(笑) [一言] >「なんちゃって」 ユートくんが子泣き爺のように抱きついたまま、アリシアさ…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ