54話後半 魔王は街を滅ぼしたい!
街のあちこちから出現したヤマトダイナが起動して、船体部分から砲台が現れた。私は、ギルバートさんに抱えられながらそれを見る。
「大丈夫か、嬢ちゃん!」
「は、はい……」
ギルバートさんは建物の陰に私を置いた。顔をのぞかせると、魔王と対峙しているマツリさんの後ろ姿が見えた。
「魔王絶対許すまじ砲、発射!!」
マツリさんが宣言すると同時に、主砲から白い光が集まり、光線が放たれる。魔王城を崩壊させたビームだ。激しい音を立て、一直線に魔王の体に進む。
「またあのビームか! ぬおおおおおおおおお!!」
合計8か所から放たれるビームを、魔王はスライムの姿のまま踏ん張り、受けきる。威力がとても高いからか、魔王は前に進むことができないようだ。
「なるほどな、娘! ビームを余に放つことで、アリシアを追わせないつもりだな!」
「ええ、そうね。もっと言えば、少し時間を稼ぐことができればいい、くらいかしら」
ヤマトダイナのビームは魔王にダメージこそ入れることができるものの、聖剣での攻撃でなければとどめを刺すことはできない。マツリさんはそれをわかっていて、ビームで魔王の足止めをしているんだ。
「こうやってあなたにダメージを与え続ければ、あとはアリシアが一度だけ攻撃を当てればいいんだもの。だから私の役割は足止めでしかないわ」
「娘……自分が何を言っているのかわかるのか? もしこのビームが一瞬でも止まれば、余は真っ先に貴様を殺しに行くぞ?」
「それでもかまわないわ」
「さっきのアリシアの怯えようを見ただろう!? アリシアが余を克服することなど不可能だ! 貴様はそんなことのために命をなげうつのか!?」
「そうよ」
マツリさんはそう答えると、白衣のポケットに手を突っ込み、顔を上げて魔王の方を見る。ここからではどんな表情をしているのかわからないが、いつも猫背のマツリさんの背中が、とても真っすぐなのが分かった。
「愚か者が! なぜ不可能であることに自分の命を賭す!?」
「そうかもしれないわね。人々から天才と呼ばれた私も、結局は愚かだったのかもしれない。
それでもいい。発明をするということは、その後の人類の道を作り出すということ。後に続く者の道を切り開くのが、私の仕事よ!!」
「ふははははは……面白い! 貴様の覚悟、しかと見たぞ! どれ、しばらくこの遊びに付き合ってやる!」
魔王はマツリさんの心意気を買ってか、そのままビームを受け続けることを選んだようだ。スライムの体でビームを受けきり、地面に踏ん張っている。当然、とどめを刺すことはできない。
私がその様子を見守っていると、ギルバートさんが肩を叩いてきた。
「アリシア、体調はどうだ?」
「はい、落ち着いてきました……」
口ではそう言っているが、まだ腕が振るえているのが自分でわかる。きっとそれは、ギルバートさんの目にも見て取ることができるだろう。
ギルバートさんは私の瞳を数秒見つめて、覚悟したようにこくりと頷いた。
「……アリシア、俺に聖剣を貸してくれないか?」
彼の口から放たれたのは、信じられない言葉だった。
「無理ですよ! 私以外が聖剣なんて使ったら……」
一般人が聖剣を扱うことは不可能だ。聖剣は勇者を選定する。だから、実力がない人間が扱おうとすれば、最悪、体がはじけてしまうかもしれない。
かつて未来からやってきたテレサが聖剣を扱おうとしていたが、彼女はそのことを理解していたはずだ。私と同等の実力を持つ彼女ですら、おそらく聖剣を普通の剣と同じように扱うことは不可能だろう。
ましてや、ギルバートさんが聖剣を扱うことなんてできない。魔王に攻撃をしようものなら、自分の体がバラバラになってしまう。もしかしたら攻撃が届く前に死んでしまうかもしれない。
「無理でもやるしかないんだ。じゃねえと博士が……」
「やめてください! マツリさんが助かるためにギルバートさんが死んでしまったら意味がないです! それに、そもそも魔王を倒すことができるかどうかだって……」
「いいんだ。俺も人に助けられた命だ。世界を守るために命をなげうつことができるなら、それこそ本望さ……」
ギルバートさんは、聖剣を渡すように私に手を差し伸べた。
「頼む。それを渡してくれないか?」
「嫌です! ギルバートさんが死ぬなんて……」
「頼む」
一瞬、時が止まったのを感じた。ギルバートさんの真剣なまなざしが、私の心を貫いたからだ。
そして、涙が止まらなくなった。彼が本気であるということがよくわかったから。彼に聖剣を渡さないといけないということが、理解できたから。
「退屈してきたな……そろそろ時間稼ぎもいいだろう? <魔王流星群>!!」
その時、魔王が技の名前を宣言する。それと同時に、空の一面に厚い暗雲が立ち込め、そこから隕石のようにして流星群が落ちてきた。その数、数百を超えているだろう。
「無駄よ! 上空から攻撃しようったって、ヤマトダイナには自動追尾装置が搭載されているもの」
「だったら、撃ち落されないだけの数、撃ちまくればいいだけの話だぁぁぁ!!」
暗雲から落ちてくる流星群の数は数百から数千へと増え、ヤマトダイナを直撃し、激しい爆発を起こした。街の建物も無差別に破壊し始める。見覚えのある建物が、爆発音を上げて崩壊した。
機体が激しく損傷したヤマトダイナは、全て機能を停止し、八本のビームは消えてしまった。
「最初からこうしてもよかったんだがな、まあ余興のようなものだ」
魔王は、ビームの拘束から解き放たれ、ピョンピョンとスライムの体をはねさせて言った。
「アリシア! 早くしろ! このままじゃ博士が!」
ギルバートさんが焦って声を上げる。
聖剣を渡せば、ギルバートさんが死ぬ。渡さなければ、マツリさんが死ぬ。どちらの選択肢をとっても、世界は滅びてしまうかもしれない。
ああ、私はなんて無力なんだろう。こうして街が壊れているのに、敵が目の前にいるのに、苦しんでいる人がいるのに……今の私は、ただ膝を抱えているだけの無力な人間だ。
あの日、もう目の前で人が死ぬのを見るのは嫌だって思ったのに。もう絶対にそんなことを起こさないって決めたのに……。
「私は、結局誰のことも助けられない、ただの弱虫なんだ……」
「それは違う!!」
泣きながら小さく呟いたその時、街の中にカラカラカラ!! という音と共に叫び声がした。
「そ、その声は……?」
ギルバートさんが見ている、その視線の先には。
ユート君だった。彼が病院のストレッチャーの上に横たわっている!! それを押して運んでいるのは、リサちゃんとダース君。横にはロゼさんが並走している。
「ユート君!!」
「アリシアさん、わかりましたよ! スライム克服の方法が!」
スライム克服の方法が、分かっただって!?
「どういうこと!? ユート君!?」
私は彼の下へ駆け寄った。ストレッチャーが止まるなり、彼は体を素早く起こす。
「いつまでたっても克服作戦が成功しない理由がわかりました!! スライム克服はもうできていたんです!!」
そう言って、私をぎゅっと抱きしめた。




