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6話前半 ダースは女の子が好き!

「おいユート、お前も飲めよ!」


「僕はお酒飲まないんだよ」


「ちぇっ、つれねえなあ」


 ギルドの席の一つ。机を挟んで僕の反対側の椅子に座っているのは、いつもならアリシアさん。しかし今日は違かった。


「ぷはーっ!」


 ワイルドな茶髪のウルフヘア、細い目つき、筋肉がついた体つき。グラスに注がれた酒をぐいっと飲み、満足そうに息を吐いた。


 彼はダース・アミティエ。彼は僕と同い年で、いわゆる腐れ縁。しかし、酒を飲み、不精髭が生えている顎をさすっている様子はまるでおっさんだ。


「ユートお前もよお、そろそろ『愛する人』くらい見つけたほうがいいんじゃねえか?」


「はあ」


「人を愛するってことは素晴らしいことだぜ。守りたいって思うし、その人のためならどんなものだって投げ出したくなる」


 酔いが回っているのか、ダースは上機嫌に説教を始めた。


「で、ダースにその『愛する人』はいるの?」


「あったり前だろ! 俺の愛する人は……」


「えりりだ!!」


 ……ダースはアイドルオタクだ。


 えりりというのは人気アイドルグループ『シエラル・シスターズ☆』のメンバーの女の子の名前だ。


 『妹系で守ってあげたくなる美少女』らしく、グループ内でも1、2を争う人気者だ。なんで僕がこんなに詳しいのかと言うと、ダースが酔うたびに何度も話すからだ。ハッキリ言って勘弁してほしい。


「おっ……あそこにいるアーチャー、いいケツしてんなあ……」


 ……そしてダースは救いようのないレベルのクズでもある。くたばってほしい。


「ところでユート、お前最近ギルドにいなくねえか? なんでそんなに忙しそうなんだよ」


「あー、アリシアさんの手伝いをしてるからなあ……」


 僕がそう言った瞬間、ダースがこちらを凝視したまま動きをピタリと止めた。鳩が豆鉄砲(まめでっぽう)をくらったような顔ってこんな感じだ。


「……お前今なんて言った?」


「え? 最近アリシアさんの手伝いをしてるからって……」


「アリシアってあのアリシア・ブレイバーか!?」


 どうやらダースはアリシアさんのことを知っているらしい。


「そうだけど、何か知ってるの!?」


「うっそだろ!? あのアリシアさんだぞ!? お前何も知らねえのか!?」


 ダースは僕の肩を掴んで揺らす。唾が顔面にビシャビシャと飛んできて腹が立つ。なんかヤバいこと言っちゃったっぽい。


 そういえば、僕はアリシアさんについてよくわかっていない。彼女が勇者であることや、ありえないほど強いことは知っているけど、周りの人がどう思っているのかは考えたこともなかった。


「アリシアさんって有名な人なの?」


「そりゃお前、なんと言ってもあのけしからん胸だろ。鎧を着ていてもわかるボリューム感、ありゃ兵器だぜ……」


 ほんとこいつぶん殴ってやろうかな。


「あとは一言で表すなら『才色兼備(さいしょくけんび)』だな。チート級の強さ、圧倒的な美貌……あまりの完璧っぷりに、ついたあだ名が『完璧姫様パーフェクト・プリンセス』だぜ」


 パーフェクト・プリンセス……?


 スライムを見てアホっぽい顔で泣き叫んでいるアリシアさんが……?


 この前、力の加減を間違えてギルドのドアを破壊してしまったアリシアさんが……?


 僕が知っている彼女と、周りの人が抱いている彼女像にはだいぶ違いがあるようだ。


「それに、何といってもブレイバー家の娘だからな! お嬢様で清楚系ってヤバいだろ!? 世間知らずだったら最高だな!! 俺好みに上書きしてやりてえなちくしょう!」


 お嬢様……?


 100ギルのバニラアイスをペロペロ舐めて満足そうにしているアリシアさんが……?


 ファミレスでピザのチーズを2倍にして喜んでいるアリシアさんが……?


 これも僕の中と世間でイメージのずれがあるわけだが、納得がいったことが一つある。アリシアさんはお嬢様だから今までファミレスにもゲーセンにも行ったことがなかったのだ。


「なあユート、お前そのアリシアさんと一体何をしてるんだよ……?」


「ちょっとしたお手伝いだよ。そのあとお願いを聞いてもらってるんだけど……」


「……おい、お願いってなんだ?」


「アリシアさんが手伝ってくれたお礼に『なんでも言うことを聞く』って言うからさ……」


「『なんでも』!? お前どういう了見だ!?」


 ダースがまた僕の胸倉(むなぐら)を掴む。こいつちょっとおかしいんじゃないだろうか。


「で!? どんな『お願い』をしたんだよ!? どこを触らせてもらったんだ!? どこまでやった!? けしからんですねありがとうございます!」


「ファミレスに行った」


「……は?」


 ダースは冷めた目で僕を見つめた。


「だから、一緒にファミレスに行ったり、ゲーセンでゲームしたり、動物園でウサギをモフったり……」


「お前バカかあああああ!? 『なんでも』って言われたらもうちょっとやることあるだろうが!? なんでファミレスに行っちゃうんだよ!! 頭の中にパフェでも詰まってんのか!?」


 ダースは息を切らして僕に怒声を浴びせる。なににそんなにキレているんだ。


「……でも、動物園デートもありかもしれないな。悪い。今のは熱くなりすぎた」


「人聞きの悪いことを言うな」


 ダースはコホンと咳ばらいをして椅子に座り、落ち着いてグラスの酒を飲み干した。


「しかしお前なあ、男としてそこまで無欲なのはおかしいと思うぞ。もうちょっと踏みこんでも罰当たらないって」


「……あのなあ。アリシアさんだって頑張ってるんだ。その気持ちを踏みにじるのはよくないよ」


「そういうもんかねえ。俺にはわからんけど。それにしても、あの『完璧姫様パーフェクト・プリンセス』と一緒にいられるなんてさぞ楽しいだろ?」


「楽しいけど、楽ではないかな。毎日いろいろ(克服作戦とか)考える必要もあるし。最近はリサがうるさいしなあ……」


「……お前、今なんて言った?」


 アリシアさんの話をしたときのように、ダースがピタリと動きを止める。デジャブだ。


 ……もしかして、リサって有名人なの?

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