50話前半 魔王城に行こう!
作戦会議の次の日、僕たちは戦艦ヤマトダイナの甲板から街を見下ろしていた。
「すごいな……ヤマトダイナの上から見るとこんな感じなんだ」
「私は天才だから知ってたけどな。この中の誰よりも早くから知ってた。どうだすごいだろ」
リサはマウントを取るようにして言うが、お前がここからの景色を知っているのは三か月前の襲来の時に乗ったからであって、天才だからじゃない。
そして、多分マツリさんの方が先に知ってたから『誰よりも早く』じゃないぞ。
アホの話はさておき。これから魔王城に攻め込むわけだ。メンバーの昨日の話し合いの面子に加えて、ダース。
「おいロゼ! これすげえな! お前が作ったのか?」
「はい、ボクがやりました!|(本当は機械に作らせたけど)」
「おおおおお! お前よくやったな! いつの間にこんなの作れるようになってたんだよ!?」
「ダースさんのお話を聞いたあの日から、ボクはめきめき成長したんです!|(最近まで結構失敗してた) だから、ダースさんのおかげです!|(そんなことはない、マツリさんのおかげ)」
ロゼさんが大ボラを吹いているけど、たまにはいいだろう。目を瞑っておいてあげることにする。
ダースは僕同様、戦闘になったら邪魔になるから置いていきたかったんだけど……街の前にヤマトダイナがあったらさすがにバレるよな。昨日の夕方に僕の家にやってきて、会議に呼ばなかったことを詰められた。面倒な奴だ。
「はーい! みんなー、そろそろ行きまーす!」
その時、アリシアさんが手を上げてみんなの視線を引く。彼女の後ろにはマツリさんがいるから、メンテナンスが終わったんだろう。
「それじゃ、出発しますよー!」
ロゼさんは懐からティッシュの箱のようなものを取り出す。そこにはボタンのようなものがいくつかついているから、おそらくはリモコンだろう。
「レッツ、ゴーです!」
勢いよくボタンを押した瞬間、船体が揺れ、ゴゴゴゴゴとエンジンが起動するような音が響く。数秒ほどして、船が真っすぐ進み始めた!
「すごーい! 船が進んでるよ!」
アリシアさんは甲板を囲む手すりから身を乗り出し、動き始める景色に興奮している。まるで遠足で馬車から景色を見ている子供のようだ。
「むしゃむしゃむしゃむしゃ!!」
「リサ! 遠足じゃないんだからお菓子を食べるなよ!」
「なにを言ってるの? 確かに遠足ならお菓子は300ギルまでだけど、遠足じゃないならお菓子食べ放題じゃない! だから食べるわ! むしゃむしゃむしゃむしゃ!」
悔しい。こんな馬鹿みたいな発言に対して反論ができないのが悔しい。これほどまでに自分の無力さを痛感した瞬間はなかった。
しかし、リサにだけ構っている暇もない。僕はくるりと方向を変えて。
「すぴぴぴぴぴ……」
「マツリさん! 発進した瞬間に睡眠時間を稼がないでくださいよ! 機械にトラブルがあったらどうするんですか!」
遠足の帰りに馬車の中で疲れ切ってる子供かよ!
「ダースさん! トランプでもやりませんか?」
「お、気が利くじゃねえか! じゃあ賭博でもするか!」
「トランプで遊び始めるんじゃない! 遠足の馬車の中かよ!」
いや賭博は遠足でもやらねえよ!
なんなんだこの状況……これから魔王城に行くって言うのに、全員が遠足気分だと……!?
「……ユーもなかなか苦労するのだな、ボーイよ」
全身をぐるぐるに縛り付けられ、横倒しにされているフランツがねぎらってくる。まさかこいつに同情される日がこようとはな。
「中間管理職というのもなかなか大変なものなのだ。部下は言うこと聞かないし、上司におべっかは使わないといけないし、同僚との出世争いも厳しいし……ボーイ。こんな大人にはなっちゃ駄目なのだ」
「なんか、フランツさんって呼んだ方がいいような気がしてきました」
「それはやめておいたほうがいいのだ。ミーはあくまで魔王軍の魔族だからな。今も反撃のチャンスを狙ってはいるのだが……」
フランツはアイマスクをしているわけだが、彼の目から涙がこぼれているように見えたのは気のせいだろうか。
「しかし、こうして遊んでいられるのも今のうちなのだ! ミーの部下たちがこの船を木っ端みじんに破壊してくれるはずなのだ!」
「部下?」
「そうなのだ! 四天王の下には七魔将というグループが存在しているのだ!」
七魔将? なんだその新設定。
「そして、七魔将は一体ごとに『六芒星』という部下を付けている! 彼らのオーラをビンビンに感じているのだ!」
まためんどくさそうな……一魔将ごとに六芒星という部下がいるなら、七魔将で合計42芒星いるんでしょ? それ全部を相手にするのは無理なんじゃ?
「見て! モンスターが船の前に立ってるよ!」
その時、アリシアさんが声を上げる。急いで確認しに行くと、船の進行方向上にモンスターが壁のように立ちはだかっているではないか!
「フハハハハハ!! 感じる、感じるのだ! 目は見えなくてもあれが六芒星であることが!」
フランツは甲板に寝っ転がりながら高らかに笑った。
「そんな簡単に魔王城にたどり着くはずがないのだ! せいぜいミーの部下たちに苦戦するのだ!」
――が。
「……あれ。六芒星のオーラが消えた? さっきまでそこにいたのに……なぜだ!? あ、まさかお前ら!! 六芒星を轢いたな!?」
うん。なんか変なビームを撃ってきていたけど、ヤマトダイナにその程度の攻撃が効くわけがない。数秒後にはヤマトダイナにはねられていた。
「お、お前ら、本当に人間なのか!? なんかかっこいい名前の敵が出てきたら普通戦うものだろ!? ミーでもそんな非道なことはしないぞ!?」
「そんなこと言われても……最初に攻撃してきたのは向こうだし」
「戦力差があるだろうが!! 一般人が攻撃してきたのに対してプロの格闘家が反撃したら問題あるだろ!!」
うっさいピエロだなあ。そんな正論、僕たちに通用するはずないだろ。
「見てください! 魔王城ですよ!」
ロゼさんが進路の向こうを指さした。その先には真っ黒で、大きな魔王城がそびえ立っていた。




