5話後半 リサはアリシアさんのライバル?
「はあああああああ!?」
目的地に到着すると、リサが大声を上げた。
「アンタたち正気!? この歳で公園って!!」
そう。僕たちが森からの帰りに寄ったのは、公園。僕のお願いは『公園で遊んでほしい』であったのだ。
「いいじゃんリサちゃん! たまには公園で遊ぶことも大事だよ!」
「んなわけあるかああ!! アリシア、アンタ勇者でしょ!? 公園で遊んでる場合じゃねえだろが!!」
「たまには息抜きも大事だよ! あ、ブランコ乗ろうよ!」
「息抜きで公園に行くのか!? アンタらおかしいんじゃないの!?」
僕とアリシアさんはブランコに座り、ゆっくりと漕ぎ始めた。
「あはははは! 風が気持ちいいね!」
「ですね! 久しぶりにやると結構楽しいです!」
子供の頃は何が楽しくて遊具を使っていたのかという感じだったが、実際に乗って見るとすごく楽しい。風を感じ、少しずつブランコの振れ幅が大きくなっていく。あの時の高揚感が蘇ってくる。
「リサちゃんもおいでよー! 楽しいよー!」
「だ、誰がブランコなんか乗るか!」
僕たちがブランコを楽しんでいる傍ら、リサはじっとこちらを見て意固地になっている。せっかくだから楽しめばいいのに、プライドが邪魔をしているようだ。
「ユート君、靴飛ばししよう! どっちが遠くまで飛ばせるか勝負!」
「く、靴飛ばし……!」
リサが声を漏らす。すごくやりたそうだ。
「リサ、そんなにやりたいならおいでよー!」
「やらない! 絶対にやらない!」
「じゃあリサは靴回収係お願いねー!」
「うおおおおおお……調子に乗りやがってぇぇぇぇぇぇ……!!」
拳がわなわなと震わせるリサ。屈辱の声が漏れ、瞳には羨ましさと怒りが入り混じっている。
「そんなにやりたいならやればいいのに……」
「うっさい! 私はアリシアのライバルで、アンタたちなんかと慣れあうつもりはなくて、だから私は遊びたくなんてなくて……」
「リサちゃん!」
アリシアさんはブランコから飛び降り、リサの方へ向き直った。
「な、なによ!」
「リサちゃん。ライバル同士だって仲良くしてもいいんだよ!」
アリシアさんはリサの方へ一歩前進し、顔を近づけて力説する。
「何を突然言いだすんだお前は!?」
「私とリサちゃんはライバルだよ。でも一緒に遊んだっていいじゃん!」
「うっ……」
アリシアさんの輝く瞳を見て、リサは眩しそうに手で顔を覆った。
「行こうリサちゃん!」
「あ、ちょっと!」
アリシアさんはリサの手を引いて、ブランコに強制的に座らせた。
「よーし、じゃあ誰が一番遠くに靴を飛ばせるか勝負ってことで!」
「待ちなさいよ! この……」
三人ともブランコを漕ぎ、振れ幅を大きくしていく。
「それっ!」
僕はタイミングを見計らい、靴を一直線に飛ばした。放射線状に軌道を描いて靴が遠くに飛んでいき、転がった。
1位:ユート 15メートル
「よーし、私も! えいっ!」
リサは思いきり足で空を切る。しかしタイミングと蹴り出す角度が悪かったため、靴はブランコの後ろの方へ飛んで行ってしまう。
「あああああああああああああ!?」
「アハハハ、ダメだよリサ。上手にやらないと」
1位:ユート 15メートル
2位:リサ -5メートル
「わ、笑うんじゃないわよ! 今回はたまたまだから!」
「じゃあ次は私ですね!」
アリシアさんが宣言した瞬間、場の空気が変わる。彼女の体からオーラが発生し、何故か公園内で不思議な風が渦巻き始めた。
「どりゃあああああ!!」
気の抜けるような叫び声と共にアリシアさんが時空を切り裂く様なスピードで足をスイングすると、靴はまるで弾丸のように45°の角度をつけて飛翔し、反動で公園内に突風が吹き荒れた。
「ちょっとなによこれ!?」
遊具が風で揺れ、雑草が激しく頭を振る。靴は加速度的に勢いを強め、公園の外へ出て行った後は空の彼方へと消えていった。
1位:アリシア ∞メートル
2位:ユート 15メートル
最下位:リサ -5メートル
「アハハ、ちょっと本気でやりすぎちゃったみたい」
そういう次元の話じゃない気がする。
「二回戦をやる前にアリシアさんの靴を探しに行かないとですね」
「ごめんね~! あっちの方にいったよね」
僕たちが目視できた範囲でもかなりスピードがあったので、数百メートル吹っ飛んでいてもおかしくはない。探すのも骨が折れそうだ。
「……あはははははは! 楽しいいいいい!!」
公園内に大きな笑い声が響いた。涙を流しながら笑っていたのは、他でもないリサだった。
「…………! べ、別に楽しくなんてないし!」
「いやもうだいぶ手遅れだと思う」
「ああもう! ユート! ボサッとしてないでアリシアの靴を探すわよ!」
リサはブランコから飛び降りて僕を急かす。さっきまでブランコなんか乗らないとか言ってたくせに、なんだか急にやる気みたいだ。
「何よその顔! いい!? 私は今日から『遊べるライバル』なの!」
「遊べるライバル……? なにそれ」
「ライバルだけど、一緒に遊んでもいいの! だってライバルだから遊んじゃ駄目なんて法律はないもの!」
なるほど、それで遊べるライバルか。出会えるアイドルみたいに言われてもって感じだ。しかしどうやらアリシアさんの思いが通じたみたいだからよしとしよう。
……まあ、遊べるライバルって友達と変わりないと思うけど。
「ほら! ユート、ダッシュよ! 次の試合では絶対負けないんだから!」
リサはアリシアさんを指さし、宣戦布告した後公園の外へ走っていった。
「……なんか、すっかりお友達ですね」
「だね。元気になってくれてよかった」
「でもいいんですか? これからもリサがライバル面してきますよ?」
「いいんだよ! リサちゃんとはいいお友達になれそうだから!」
僕とアリシアさんは二人で顔を見合わせ、笑った。
「二人ともー! 早くきなさい!!」
「「はーい」」
僕たちはその後、日が暮れるまで公園で遊びつくしたのだった。
その後のゲーム結果
【2試合目】
1位:アリシア ∞メートル
2位:ユート 13メートル
3位:リサ -7メートル
【3試合目】
1位:アリシア ∞メートル
2位:ユート 17メートル
3位:リサ -5メートル




