表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
103/133

47話後半 ガイコツは矛盾を起こす!

「タイムパラドックス……なんですかそれ? 技名?」


「いいえ。これはある種の思考実験のようなものね。相対的な未来、過去の事象を改変したことで起こる矛盾と言えばわかるかしら」


 ごめんなさい、全然わからないです。


 正直にそのことを伝えると、マツリさんは話をかみ砕いて説明してくれた。


「例えば、あなたが過去の時代に行ったとする。携帯した食料が底をつき、空腹になる。どれだけ食べ物を探しても何も見つからない。そんな中、木になっているリンゴを見つけたらどうする?」


「どうするって……そりゃ、リンゴを食べますよ」


「では、そのリンゴを食べることで飢えをしのぎ、後に子孫を残すはずだった過去の人間がいたとするわ。その人物はどうなると思う?」


 リンゴでお腹を満たすって言ったって、そのリンゴは僕が食べちゃったんだから……。


「餓死すると思います」


「そうね。ではもしその人物が、あなたの祖先だったら?」


 えーっと、僕の祖先は飢え死にするわけだから僕は生まれなくなる。あれ、だとしたら僕がリンゴを食べることはなくなるから、祖先は生きることになって……? でも、そしたら僕が生まれるよな?


「んんん? テレサはよくわからないのです。結局どうなるのです?」


「わからなくて当然よ。この二つの事実は矛盾している。つまり、時代を超えて行動をすると、こうした矛盾が起こることがある」


 ふむふむ。よくわからないけど、大変なことが起きるんだね。


「で、それが今の状況とどう関係するんです?」


「私の見立てでは、タイムパラドックスが起これば、矛盾を解消するためにそれに関連するすべてが消滅するか、あるいは不具合のようなものが発生すると考えているわ」


 つまり、あのバルクの姿が不具合の正体ってことか!? だとしたらあんなわけのわからない化け物に成り果てているのも理解できる。


「おそらく過去の自分に接触でもしたんでしょうね。矛盾が発生した結果、このモンスターが生まれたと考えればつじつまが合う」


 な、なるほどーーー!! すごく腑に落ちたぞ。


 つまり、このモンスターはバルクが過去のバルクと接触したことで生まれた化け物ってことだ! どうりで今まで見たことないモンスターなはずだ。


 バルクのことだから、楽に自分を変えるために過去の自分を努力させようとしたんだろう。


 タイムパラドックスについてはわかったけど、だったらどうすればいいんだろう? 攻撃は効かないみたいだし、迷惑なのには変わりない。バルクを元の姿に戻すことが出来ればベストなんだろうけど、会話もできないしなあ。


「二人とも、避けて!」


 考えを巡らせていると、前方で戦っているアリシアさんから声が。


「ゆー君、しっかり掴まるのです!」


 テレサちゃんは僕とマツリさんの体をわき腹に抱え、ジャンプをする。途端、黒い鞭のようなものが、僕たちが立っていたところをしなるようにして叩く。テレサちゃんに捕まっていなければ死んでいただろう。


 視線を移すと、さっきまで蜘蛛だったバルクが、今度は巨大なタコのような姿になっていた。無数の人間の手が生えている蜘蛛の足の部分がさらに長く、太くなり、タコの触手のように変化しているのだ。どんな進化?


 おまけにタコの頭|(正確には胴なんだろうけど)部分には大きな人間の口のようなものがむき出しになっていて、歯のようなものも確認できる。もはやこの世界の生き物ですらない。


「ゆー君、見るのです!」


 着地をしてすぐ、テレサちゃんが声を上げる。何事かと思い、周りを見てみると。


「あれ……? この辺りって、こんなに平らだったっけ……?」


 おかしい。さっきまで近くには建物があったはずだ。バルクの攻撃で潰されたような音が聞こえたはずなのに。


 これはまるで……『元々そんな建物なんてなかった』みたいじゃないか!


「……おそらくこれもタイムパラドックスの影響ね。矛盾を起こしている者が壊した物は、『初めからなかったことになる』ってところかしら」


 マツリさんは冷静に解説するが、そんなの冗談じゃない。バルクに建物を壊されたら元々何も建っていなかったことになるってことは、人がやられでもしたら……あとは想像するのは容易だ。


「ゲームの世界でバグが発生すると、ゲームは止まってしまう……もしバグが現実世界で起これば、こうなるのも納得できるわ」


 どうやら僕たちが目にしているのは、想像以上にとんでもないモンスターらしい。タイムパラドックスが生み出した化け物。世界のバグ――とでも言うべきだろうか。


「こんなの野放しにしてたら、世界がとんでもないことになっちゃいますよ!」


「でしょうね。絡んだ糸が他の糸に混じりあえば、もっと複雑に絡む可能性だってある」


 もはや一刻の猶予もない。急いでバルクを何とかしないと!


 しかし、バルクに向かっているアリシアさんですら、剣で奴の触手を斬り、時間を稼ぐことしかできない。ダメージが入らないなら、持久戦でどっちが不利なのかは目に見ている。


「マツリさん! これってなんとかならないんでしょうか!?」


「絡んだ糸が矛盾を起こしているなら……これ以上それが絡まないように、解いていくしか方法はないわ」


 絡んだ糸を解く? つまり、これ以上バルクが現代に影響を与えないようにするべきだということだ。


 なぞなぞのような問いかけ。しかし、答えは単純だった。


「バルクを未来に送り返す……?」


 今のバルクを倒すのは不可能だ。アリシアさんですら足止めが限界なのだから。だったらせめて、未来人のバルクが現代の建物や人に影響を与えないように、未来に送り返すしかない。


「ええ。私もそれしかないと思うわ」


「でも……そんなことできるんですか!? そもそも、未来に送ったところで、十年後になってまたバルクが暴れだすだけなんじゃ……!」


「いいえ。さっきも言ったように、今は糸が絡んで矛盾が起こっているの。少しでも糸を解いていけば、ダメージを与えられるようになるか、あるいは――元の姿に戻る可能性もある」


 僕たちがやるべきことは、マツリさんの言葉を借りるとすれば、『糸を解くこと』であるらしい。複雑に絡み合った現在と十年後の世界で起きていることに、矛盾が起こらないようにする。


「??? さっきからテレサにはさっぱりなのです」


「とにかく、バルクを倒すにはあいつを未来に送り返すしかない! そっちの方が、可能性があるってことですよね!?」


「そういう解釈で構わないわ」


 話は複雑だが、やるべきことはシンプルだ。


「で、具体的にどうやって未来にあいつを送り返すんです? タイムマシンは明後日完成の予定ですよね?」


「……いいえ。未来の私から渡された設計図の物は既に完成しているわ」


 マツリさんはそう言って、テレサちゃんに抱えられたまま、懐から一本の短刀を取り出した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 更新ありがとうございます(^_^ゞ マツリさんからすれば、『親殺しのパラドックス』の結果すらバグ扱い……(笑) まぁ、アレな案件だし仕方無いか(´ー`*) [一言] もしかして、最新版タイ…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ