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5話前半 リサはアリシアさんのライバル?

「さあアリシア! 今日こそ決着をつけるわ! 勝負しなさい!」


 いつものように僕とアリシアさんがギルドの席についていると、リサが現れた。


「駄目だよリサ。今日は僕たち予定あるから」


「ライバルとの決闘より大事なことなんてあるか! っていうかお前は私のことを呼び捨てにすんな!」


 どうやら前回の三本勝負で痛い目を見たのにまだ懲りていないらしく、リサは二日連続で喧嘩を吹っかけに来たのだ。


「アリシアさん、どうします?」


「だったら、リサちゃんも一緒においでよ!」


 意外にも、アリシアさんはリサがスライム克服についてくることに賛成みたいだ。



 三人でいつもの森に移動。


「何よ、どこに行くのかと思ったらいつもの森じゃない。勝負に付き合う気になったのね?」


 リサは三本勝負の続きをやるものだと思っているが、実はそうではない。


「それではアリシアさん。今日の作戦を発表します」


「お願いします!」


 僕はバッグに入れた作戦ノートを取り出した。


「ちょちょちょ、アンタたち何の話をしてるの!?」


 リサは状況を飲み込めずに慌て始めた。僕は気にせず話を続ける。


「作戦ナンバー3、名付けて『いいところを褒めてあげよう』大作戦です」


 こんなことはないだろうか。


 嫌いな人と一緒に作業をすることになったけど、接してみたら意外といい人だった。


 口調が厳しい人だけど、根はやさしい。


 敵キャラが仲間になる展開は熱い。


 どんなものにも悪い面があれば、いい面もある。つまりスライムにも必ずいいところはあるはずなのだ。


「アリシアさんにはこれからスライムと接触してもらいます。そこでスライムのいいところを褒めてあげてください」


「わかった! スライムのいいところをたくさん上げるね!」


「だあかあらああ!! 私を無視して話を進めるな!!」


 いい加減リサがうるさいので、僕たちはこれまでの経緯を話すことにした。


アリシアさんがスライムのことが苦手なこと。そして、これまでいくつか作戦を立てて克服しようとしたが、いずれも失敗であったこと。


 リサは話が終わると、喉に魚の小骨が刺さったような微妙な顔をした。


「……は? 要するにアリシアはスライムを見ると腰を抜かすってこと?」


「そういうこと」


「バッカらし。真面目に聞いて損しちゃった。そんな話、信じる方がどうかしてるわよ」


 リサは全然信じていないようだ。しかし彼女はこれから思い知ることになるだろう。アリシアさんが心の底からスライムが嫌いだということを。


「ユート君! 来たぁ!」


 アリシアさんが上ずった声で叫ぶ。彼女の視線の先を見ると、茂みの中からスライムが顔を出し、こちらへ跳ねて近づいてくる。


「アリシアさん! いいところを言ってください!」


「えーと、『体の緑色がメロンっぽい』!」


「アリシアさん! それは褒めてないです!」


「……マジでアンタたち何やってるの?」


 リサは呆れている様子だが、構っている暇はない。スライムは着々とアリシアさんとの距離を縮めていく。苦手克服のためにも狼狽(うろた)えていては駄目なのだ。


「うーん、『目が黒い』!」


「次!」


「あ! 『鳴き声がネズミっぽい』!」


「アリシアさん! さっきから説明をしてます!」


「だって! 好きなところが見つからないんだもん!!」


 なんだって!? これまでの作戦でメロンゼリーもウサギもハムスターも好きだったくせに、なんで同じような特徴を持っているスライムになった途端、何も言えなくなるんだ!?


「『本日もお日柄がよく』!?」


「それはお見合いです!」


「『汗ばむ陽気になってまいりました』!?」


「それは時候の挨拶です!」


「『親の大胸筋が見てみたい』!?」


「それはボディビル大会の掛け声です!」


「……なにこの茶番?」


 アリシアさんはだいぶテンパっているらしく、だんだん方向性もおかしくなってきている。


「キュッ!」


「あああああああああああああ!!」


 そして、タイムオーバー。スライムが足元に纏わりつくとアリシアさんは断末魔を上げ、いつものように膝から崩れ落ちてしまったのだった。


「あー、今回も失敗か……」


「嘘……あのアリシアが、スライムに?」


 僕が頭を抱えている傍ら、リサは目を丸くしていた。それもそうだろう。昨日ワンパンされた相手が、雑魚モンスターに一方的にやられている様を見たら驚くのも無理はない。


「二人ともー!! 見てないで助けてくださいいいいい!!」


 スライムまみれになり、涙をボロボロと流しているアリシアさんを救出する。介護のようなその様子を見て、リサはずっと呆然(ぼうぜん)としていた。



「うううううう……。ユート君ありがとうね……」


 僕がバッグから取り出したタオルでスライムのドロドロを拭うアリシアさん。10分もするとだいぶ落ち着いてきた。


「それにしても今回の作戦も駄目でしたね」


「うん……ごめんね、こんなポンコツな勇者で……」


「そんなことないですよ。今回わかったことを次回活かせばいいんですから」


 今回の検証で、疑問が一つ生まれた。


 アリシアさんはメロンゼリーも、ハムスターの鳴き声も、ウサギのつぶらな瞳も好き。


 しかし、それらが一個に結集したスライムは何故か嫌いなのだ。


 一体何が原因なんだろう。次回はこの原因を探りたい。僕はそう心に誓い、空を見上げたのだった。


 おまけ


ユート「実は人間って愚かな生き物なんですよ」

アリシア「え゛っ゛」




「ちょっとおおおおお! なんか終わらせようとするなあああ!!」


 ようやく話がまとまって来たのに、リサが口を挟んでくる。一喝したかと思ったら、今度はアリシアさんの方を向いて、じっと彼女を睨み据えた。


「アリシア! スライムが嫌いっていうのは本当なの!?」


「うん。さっき見た通りだよ」


「うっそ……」


 リサはそれを聞き、絶望して膝から崩れ落ちた。


「そんな……私はあんな雑魚モンスター以下だって言うの……」


「それはなんか違うと思うけど」


「うっさい! 私は絶対認めないからね!」


 現実逃避にも近い発言をするリサ。どうやら今まで見てきたアリシアさんと、今目の前にいる彼女のギャップで混乱しているらしい。無理もない。僕もそうだったから。


「そうだ! ユート君。今日のお願いを聞くよ!」


「そうですね。今日は……」


「ちょちょ、ちょっと待ちなさいって。お願いって何!?」


「そうだ、リサもついてくる?」


「え?」


 僕の今日の『お願い』は。ある場所に行くことだ。

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