0 プロローグ
「ユート君、行くよ……!」
大木が生い茂る森を前にして、一人の金髪の少女――アリシアさんは言った。
ダイヤモンドのように綺麗な水色の瞳は涙でうるんでいて、雪のように白い細腕はガタガタと震えている。すっかり怯えた様子の彼女に、僕は拳をグッと握って。
「大丈夫です! 今日のアリシアさんなら絶対にできますよ!」
アリシアさんはコクリと無言でうなずき、意を決して森を見据えた。
「できるできる……私は、絶対できる!」
アリシアさんは自分に言い聞かせるようにして呟き、森に向かって一歩足を踏み出した。
目の前に広がる森は太陽の光を遮り、まるで怪物が口を開けているようだ。アリシアさんは一歩、また一歩と震えた足で森へと近づいていく。
その瞬間、茂みからガサガサという音がして、彼女の目の前に黒い影が立ちはだかる!
「キュッ!」
体長20センチほどの大きさ、エメラルドグリーン色の、ゲル状のぬめぬめした体。そしてハムスターのような可愛らしい鳴き声。
それは雑魚モンスターのスライムだった!
アリシアさんと相対したスライムは、つぶらな瞳で彼女を見つめる。
「き、来たね……! 今日こそ、今日こそは……」
スライムを前にしたアリシアさんの声は震えている。腰に携えた両手剣を引き抜きいた腕には力がこもっていて、視線は鋭くなる。僕は指を組んで祈るような気持ちで彼女を見守った。
「キュッ?」
アリシアさんは両手剣を振り上げ、目の前のスライムを切り裂こうとする。
……しかし。
「あああああああああ!! やっぱり無理いいいいいいい!!」
アリシアさんは腹の底から声を上げ、思いきり腰を抜かす。両手剣は彼女の手から落ち、重力で地面に突き刺さった。
「やっぱり今日も駄目だったか……」
「ユートくぅぅぅぅぅん!! ヤバいから助けてええええええ!!!」
涙を流しながら僕に助けを呼ぶ彼女は、アリシアさん。この世界の勇者であり、どれだけ強いモンスターにも負けない力を持つ彼女には、たった一つ、秘密があった。
「うわああ!! 足に纏わりついてきた!! 無理!! 無理!! ユートくんハリーアップ!!」
アリシアさんは、スライムが苦手だ。
どうして僕がそんな彼女と一緒にいるのか? 僕たちが何をしているのか? それを語るには、昨日のことを話さなければならない。