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「巨大な森」
道行く者を遭難させ、死へといなざう通称「魔性の森」だ。
もうすぐ日も暮れる。
俺は、急ぎ足取りを早める。
その時、
「ア、ウ、ア、ウ、ア」
「ア、ウ、ア、ウ、ア」
「ア、ウ、ア、ウ、ア」
?!
「何だ」
声がして、その方向を見る。
脇道に、罠にかかった女の子を見つけた。
人間が貴重な動物を捕まえるために、張った罠。
「ひどい」
俺は、怒りを覚える。
「大丈夫か?」
「・・・・・・」
返事はない。
顔は俺に向けている。
目の焦点も合っている。
もう一度言う。
「大丈夫か?」
「・・・ア、ウ、ア、ウ、ア」
そして気づく。あ、この子 しゃべれないんだ、と。
足を見る。
捕まりかけてた動物を助けようとしたら、自分が捕まってしまったのだろう。
「ここは「魔性の森」。もうすぐ日が暮れる。お前のような生き物が、こんなところにいたら飢えた動物たちの格好のえじきだよ」
上目づかいで見られた。
まつげが長くてとてもきれいだった。
かかった脚から血が出ている。見るからに痛そうだ。
「運がいいな」
罠を解いた。
バックから取り出したアルコールを口に含み吹きかけ、傷口を消毒して、真新しい布をひきちぎって巻いた。
昔、師匠と修行の時、教わった。が、・・・余計なことを思い出したと後悔する。
きびすを返した。
服の端を引っ張られた。
「一緒に行きたいのか?」
うなずかれた。
しゃべれずともこちらの言っていることはわかるらしい。
改めて立ち上がった少女を見る。
7 3分けの金髪で髪は背中にかかるくらい。
前髪は、ほほにかかるくらい。
服装を見る。
白のYシャツに、羊色のカーディガン。
胸元には赤のリボン。
赤と茶のチェックのスカート。
白のハイソックスに茶色の革靴。
・・・それは、セーラー服と呼ばれるものだった。
みなし児もしくは迷子。
「お前、名は」
とっさに近くの木に咲いた「スオウの花」を指差した。
「「スオウ」か」
「「アイル」だ」
「・・・」
「ついてこい」
少女は走って俺の背中を追いかける。