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≪流≫



 島田の他にも超能力に目覚めた子どもがいる。その仮説に阿諏訪は妙な胸騒ぎを覚えていた。合宿所の火事。隠されたように存在した資料に書かれた合宿スタッフの死因。それらを踏まえた上で阿諏訪の脳裏に浮かんだのは放火の二文字だった。


 ――つまりあの日、子どもたちの内の誰かが合宿所に火を放ったのではないか。秘匿されていたのは証拠が出なかったからではないか。つまり、


 超能力で火を付けたのではないか。


 島田を起点に他の超能力者を誘い出すことで、あの火事の真実に近づけるかもしれない。さらに、関係者の連続失踪の手掛かりになれば上々。阿諏訪は静かに計画を練っていた。


「……まあ、心当たりがないわけではないけど」


「! 本当に!?」


 ぽつりと呟くような島田の返答に、阿諏訪は身を乗り出した。どうやら島田は真火のため、と言われると弱いらしい。当の本人は呑気にアイスティーを飲みながら島田の様子を見守っている。


「確か名刺のデータもらってた気がするな……あったあった」


 島田はスマートフォンで何か操作をした後、その画面を阿諏訪に向ける。白い画面にシンプルな文字とロゴマークが描かれている。


 つじ 美鈴みすず。O商事秘書室所属。


「あっもしかして、ミスズ……?」


 この名刺の人物に真火は心当たりがある様子で、まじまじと画面を覗きこむ。阿諏訪は合宿の参加者リストに目を通した。


「辻美鈴……合宿の成績は上から三番目。評価の高い項目≪T≫か。超能力者なのは確かなのか?」


「うん、ミスズは精神感応者(テレパシスト)だ。この前ミスズの方から俺に会いに来たんだよ。予知してなかったから驚いた」


 真火はもう驚き疲れたのか控えめに肩を上げ、目線を上にやって懐かしさに浸っているようだった。


「私もミスズに会いたいなあ。子どもの頃から大人っぽくて、憧れてたの。きっと美人になってるんだろうな。超能力者って言われても納得……」


「それで辻さんは何の用件で訪ねてきたんだ?」


 真火の言葉を遮って前のめりに問う阿諏訪。島田はうーんと唸り困ったような表情で答える。


「それがさあ、ミスズは超能力者の保護やサポートをしてる集団グループに入ってるんだと。それに誘われたんだ。面倒くさそうだったから断ったけど、結構しつこくてさ」


「集団?」


「ああ、『左手ひだりて松明たいまつ』っていう……特殊な能力者だけが入れる集団なんだって」


 その言葉を聞いた瞬間、阿諏訪は目を見開き勢いよく腰を上げた。ガタリとテーブルが鳴り、アイスティーが揺れる。


「松明……!?」


「せ、先生どうしたの?」


 呆然とする阿諏訪に、ただ事ではないと感じ取った真火と島田は顔を見合わせる。一拍置いて、阿諏訪は脱力するように椅子に座り込み両手を額に当て顔を伏せた。


「……長峰先生からの手紙にあったんだ。合宿関係者を次々と誘拐している、彼らは『TORCH』だと。――日本語で松明のことだ!」


「え……!?」


「ちょ、ちょっと待って! なんだよ誘拐って!?」


 口元に手を当て青ざめる真火。島田は訳が分からないという様子で声を荒げる。阿諏訪は落ち着きを取り戻すべく深呼吸をし、鞄から長峰の手紙を取り出し二人に差し出した。


「う、うそ……」


「何だよこれ……合宿関係者が連続失踪? ミスズの集団がやったことなのか!?」


 手紙を読んだ二人は阿諏訪に詰め寄る。


「分からない。けれど……偶然なら出来過ぎている」


 阿諏訪の表情が暗くなる。目の下の隈と相まって不気味さを醸し出していた。無言が続く三人の間に店内の陽気なBGMが虚しく響き渡る。


「真火さん、君の未来の死を回避できるよう協力はする。けれどもう一つ、僕には追わなくてはいけない事があるみたいだ」


 長峰の行方を追う手掛かりをみすみす逃すわけにはいかない。阿諏訪にとって合宿関係者の連続失踪は他人事ではない。自分が拐われる前に、恩師である長峰を取り戻す。阿諏訪のやるべきことが定まった。


「私も協力します!」


 真火は間髪入れずに言う。勢いのままに阿諏訪に迫りこう続けた。


「ダイちゃんの予言と、私たちの再会。そして長峰先生の失踪……タイミングが良すぎませんか。私、思うんです。これらのことは繋がっているんじゃないかって!」


「……根拠は?」


「勘です!」


「俺も協力する」


 息巻く真火を遮るように島田が真面目な表情で口を開く。


「いや、長峰先生の件は僕がひとりで……」


「そんな機密データと遺言みたいな手紙見せといて他人のフリしろって? ヨウ先生、そりゃあないって。それにミスズの言う事が確かなら、その集団は能力者の巣。ヨウ先生一人でどうするつもりなのさ」 


 島田の指摘に阿諏訪は言葉を詰まらせた。そもそも島田が居なかったら『左手の松明』に辿りつけていなかった。さらに異能集団相手に阿諏訪は何ができるのか。


 答えは見つからなかった。阿諏訪は諦めたように大袈裟に息を吐く。


「……分かった。この件についても、三人で情報共有していこう」


 嬉しそうに頬を緩める真火とは対照的に、島田は思案顔で呟く。


「まあ俺も、大して力になれるかは分からないけど」


「ダイちゃん、どうして?」


「俺には予知しかない。なるべく予知できる物事を選べるように訓練は続けてる……けれど、優秀な能力者は他人の能力に対抗できる。ミスズのことは予知できないかもしれない」


 美鈴が精神感応者として優秀であった場合、何らかの方法で島田の予知能力を妨害してくるかもしれない。阿諏訪もその可能性は十分にあると踏んでいた。


「分かった。ダイ君はこのまま能力の訓練を続けて、合宿関係で予知できたことを報告してくれ。どんな些細なことでもいい」


 島田が頷くのを見てから、阿諏訪は表情を引き締めて言った。


「僕は辻さんに会いに行く」


「私も行きます!」


 阿諏訪はすぐに「駄目だ」と首を振る。


「『左手の松明』がどんな集団かまだ分からない以上君を連れて行くわけには」


「マホちゃんのことは連れて行った方がいいと思う。ミスズはマホちゃんのこと可愛がっていたし、もし狙われるならマホちゃんじゃなくて合宿関係者のヨウ先生だと思うから、一人で行かない方がいい」


「俺はこうやって情報をリークしてるからミスズには会い辛いし」としかめっ面をする島田と一歩も引かない真火に、阿諏訪は渋々頷いた。


「しかしなんだか……二人に流されている気がする」


 一回りも歳の離れた二人に押し負けている自覚はあった。阿諏訪が年上の威厳について悩んでいる間に、真火と島田はこっそりと目配せし笑いあった。



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