第八話 むしろ正攻法
和來の属する(自称)攻略最前線チームは以下のメンバーで構成されていた。
リーダーと呼ばれる戦士の男。中身は50台の無職。ゲームの大ベテラン。
格闘家の女性ぱるらん。ネトゲの姫。
僧侶の男カルオス。廃人高校生。
そして魔法使いの和來だ。
リーダーの指揮の元、彼等は順調に冒険を進めて行った。
だが辿り着いた3-3ステージにて出会ったボスは、それまでと比べ物にならない力を持っていた。
なす術なく・・・彼等は全滅した。
「少し急ぎ足でここまで来すぎたのかもしれないね。どれ、ここらでちょっとレベル上げでもしていこうじゃないか。大丈夫、焦らなくても攻略最前線次点のチームはまだ2-5辺りに居るはずだ。」
リーダーは落ち着いた口調で全滅した事に沈むチームを安心させた。
一人和來だけが不満の声を上げる。
「でも兄しゃはそうこうしてる内にゲームをクリアしちゃうかも・・・。」
「はっはっは、またそのお兄さんの話かい。何度も確認したが我々より先に進んでるプレイヤーなんていやしないさ。きっと君はお兄さんに騙されているんだよ。」
そう言うと彼は和來の頭をポンと叩いた。
まだ多少不満気だったが、彼女はこくりとうなづいた。
それから彼等は暫く3-3に留まり、レベル上げに専念した。
だがある日の事だ。リーダーの元に一つの着信が入った。
『ああ、もしもし・・・私だ。』
リーダーは攻略最前線組の他に、何人かのプレイヤーを1-1に待機させていた。
彼等の役目は情報収集をして前線に立つリーダー達をサポートする事。いわば裏の攻略最前線というところだ。
今回の着信もそんな彼等からのものであった。
『ああ、うむ・・・なんと。・・・わかった、引き続き頼む。』
通話を切ったリーダーは、浮かない顔で顎をさすった。
すぐに格闘家のぱるらんが問いかける。
「どしたんやリーダー、なんか困り事か?あんまりいい連絡やった様には見えへんけど。」
「ああ、不味いことになった・・・何でもこのゲームには一般モンスターの湧きに上限があるらしい。」
一般的なRPGには、通常の敵の出現する量に上限などは無い。
何匹狩ろうが敵は無限に湧いて来るのだ。これによりプレイヤー達はいくらでもレベルを上げられ、敵が強すぎて先に進めなくなるような『詰み』を回避出来るのだ。
だから行き詰まった時には、クリアした前の章に戻ってレベルを上げたりお金を稼いだりしてキャラを鍛えられるだろう。
しかし一部の凶悪なオンラインゲームではそこに上限がある。あらかじめ敵の魔物が種族毎にゲーム内に出現する上限数が定められており、その限界まで狩り尽くされた場合それ以上その敵が現れなくなるのだ。
これによりレアなアイテムや高い経験値を持つ敵はプレイヤー達により絶滅させられる事となる。
そしてこのゲームもその例外では無かった。
加えて全ての敵に上限が定められていた。
つまりゲーム内のプレイヤーが得られる経験値の総量には限りがあるという事だ。
「な、それじゃあ場合によってはプレイが進行不能になるって事か?」
ぱるらんが唇を噛みながら叫ぶとリーダーは深くうなづいた。
「うむ。現に最初の難関である1-3の敵は全て狩り尽くされ、それより前の進行度のプレイヤーはボスに勝てずレベルも上げられず進行不能となっているらしい。・・・そして問題は、いつ我々もそうなるか分からないという事だ。」
するとリーダーは腕を組み思考を巡らせた。
そして熟練のゲームプレイヤーである彼の頭はすぐにその対応策を導き出した。
「カルオス、攻略最前線次点組は確か今2-6でレベル上げをしているんだったな?」
「ええ、そうですが・・・リーダー、まさか?」
僧侶のカルオスはその問い掛けからリーダーの考えに薄々感づいた。
そのオンラインゲームのタブーとも言える方法に・・・。
「ああ、我々もすぐに2-6へ戻ろう。2-6の敵を狩り尽くしそれ以前にいる他のプレイヤーを全てシャットアウトするんだ。」
「・・・!!し、しかしリーダーそれはマナー違反では。」
「この状況下でマナーやルールなど四の五の言ってる場合ではあるまい、我々がこのゲームをクリアしたら他のプレイヤーもこのゲームから出してやれば良いだろう。・・・もう一度言うが方法を選んでいる場合ではないのだ。最悪の場合、誰もゲームをクリア出来なくなる。」
こうして彼等は2-6へと急いだ。
そこを制圧し2-6以前のプレイヤーを進行不能に陥らせる事で、2-7以降の敵・・・その経験値を独占できるのだ。
勿論それだけでは留まらない。
2-6の敵を狩り尽くした後、彼等は2-5より以前へもどんどん侵攻して行った。
少しでも多くの経験値を稼ぐ為に。
無論何が起こっているかはすぐに他のプレイヤーにも伝わる。
こうなればもうパニックであった。終いには雀の涙程の経験値の魔物を巡り、熟練のプレイヤーが血で血を洗う乱闘騒ぎを起こす事さえあった。
そして攻略最前線組は目的通り2-7以降の敵の独占に成功、順調にレベルを上げ冒険を進めていった。
・・・だがそれ以上に敵ボスの強さは勢いを増し、最終的に3-9にてそれまでに出現する魔物を全て狩り尽くしたにも関わらずボスに勝てないという自体に陥ってしまった。
もはやこれ以上強くなる手立てはない。
こうなれば完全に積み。
最終的にリーダーが出した結論は・・・『このゲームは絶対にクリアさせる気の無いゲームである』という事だった。
『そうか・・・そっちはそんな事になってるのか。』
妹の和來から攻略最前線組の話を聞いた不働はしみじみと言った。
すると、和來の通話の方から誰かの声が入ってくる。
何でも、リーダーが不働と会話したいらしい。
『やあ、君が和來君のお兄さんか。初めまして・・・和來君と共に冒険をさせて貰っているリーダーというものです。話は聞いているよ、何でももう魔王の城直前へと到達したとか・・・。』
『ああ、いやまあ・・・その。』
しどろもどろに返す不働。
するとリーダーはいきなり口調を強めた。
『私も最初はただの冗談だろうと聞き流していた・・・だが今は違う。もしも本当にそんな方法があるのなら是非聞かせてはくれないか!!一体どうやってそこまで到達したんだい!?もしかしたら君の行動によりこのゲーム内のプレイヤー全てを救う事ができるかもしれないんだ!!』
『ううっ、それはその・・・。』
何かやけに話が壮大になってきて不働は困ってしまった。
ここまできてまさか『ただのバクです』とは言い出しづらい。
とはいえここでとても引けそうな雰囲気では無い。
・・・非常に気まづいのを堪えながら不働は本当の事を話した。
『・・・という訳なんです。すいません。』
『・・・そうか・・・そうか。はは、いや良いんだ実に興味深い話だった。だがそちらも魔王には勝てそうにないか・・・どうやらこれで皆が完全に手詰まりとなってしまったようだね。』
年季の入った深い溜息が聞こえてくる。
それだけで不働の胸が苦しくなる程だ。
『とはいえ『バグ』というある種の希望が見付かったのには違いないだろう。我々もまだ出来る限りのアタックを続けてみるつもりだ。ありがとう不働君、また何かあったら連絡してくれ。』
そう言うとリーダーは通話を切った。
言葉とは裏腹に何処か諦めにも似た寂しさが込められている。
「・・・ふうっ。」
こちらにも移ってしまったような重い溜息を付きながら、不働は腕を組んだ。
その横顔をヘルメラが心配そうに覗く。
「フドウ・・・話はなんとなく聞いていたぞ。魔王を倒す事はできそうにないのか?」
「・・・。」
装備も整えた、最高の仲間も得た。そして念願のレベルも上げた。
後は魔王の城へと乗り込み魔王を倒すだけのはずだ。
だがそのたった一つの最後の道筋が果てしなく遠い。なまじここまで到達しているばかりに他に進める道も無い。
もう出来ることは何も無いのか・・・。
・・・しかしここで、不働の頭に一つだけ考えが浮かんだ。
「そうか、見付けたぞヘルメラ。ゲームクリアへの道は何も、魔王の城へと直接向かう道だけではなかったんだ。」
彼は力強くそう叫んだ。