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第七話 言ったそばからまた油断 馬鹿は死ななきゃ治らない

それからというもの、不働はヘルメラと共に必死でレベルを上げ続けた。

といっても、戦闘の殆どを彼女に任せ切るそれはもうカッコ悪いものだったが。


だが、不働は幸せであった。

自分が傷付けば最優先で回復してくれる。

レベルが上がれば、共に最大限喜んでくれる。

いつの間にかヘルメラは不働にとってこの上無く大切な存在になっていた。

不働はゲームの中で彼女に恋をしていたのだ。




「ヘルメラ・・・お前はそれだけの強さがあって、魔王に挑みはしなかったのか?」


ある時、不働は問い掛けた。


「勿論挑んだとも。結果は・・・惨敗だ。魔王は戦いが始まるとすぐに必ず、爆発し燃え盛る必殺の闇の霧・・・『パンデモニウムストーム』を撃ち放ってくる。これはこちらの防御力に関わらず330のダメージを受けるとてつもない代物だ。・・・おまけに奴はどういうわけかこちらが一手動く間に二回の攻撃を行ってくる。」

「防御無視の330ダメージの必殺技に二回行動か・・・えげつないな。」

「ああ、到底敵う相手には見えなかった。」


いつに無く弱々しくヘルメラは俯いた。

そんな彼女の姿を見て不働の心に決意の炎が滾る。


「大丈夫だ、俺はもっと強くなるから。・・・そして必ず勝とう、二人で!」

「・・・!ああ!」


微笑みながら親指を立てる不働。

そこにはもう卑屈なニートの彼の姿は無かった。




それからも二人はレベル上げの為に戦いを続けた。

だがある時、彼等は問題にぶち当たった。


「あ・・・?何だこれ、カンスト?」

「どうしたフドウ?」


レベル30になった不働のステータス画面には星マークが付いていた。

おまけに次のレベルまでの必要経験値は0になっている。


これが意味するのは・・・レベルの上限、つまりこれ以上レベルが上がらないという事だ。


レベルの上限が30止まりのゲーム・・・それはまあ珍しい訳でもないだろう。

しかしレベル87のヘルメラが今そこにいる。これはどういう事か。

原因を確かめる方法はすぐに不働の頭に浮かんだ。


「・・・ヘルメラ、ちょっとお前のステータスを確認して欲しいんだが・・・これまでに獲得した経験値の数値はいくつになってる?」

「・・・?2000万ポイント丁度だが、それがどうした?」

「ああ、俺もそうだ。・・・やっぱりおかしいのはお前か。」


これまで不働のレベルの上がり方に妙な挙動は無かった。やはり、このゲームはレベル30が上限の様だ。

という事はヘルメラの方に何らかのバグが起こったのだろう。

そもそも87という微妙な数値で止まっているのもおかしい。


「そういえばレベル30辺りからいきなり87まで上昇したな。きっと私の体が特別性だからであろう。」


ニコニコと得意気に話すヘルメラの横で不働は大きく息を吐いた。


「十中八九バグだろうな、このゲームバグだらけだからな。」

「・・・。」


それを聞いたヘルメラは微妙な顔をしていたが、不働は気にせず深く考え込んだ。


レベル上限が30、それはそれでいい。

問題は敵の強さがどう考えてもそれに見合っていない事だ。

今の不働のHPは370程度。だがこれだけあっても周囲の魔物にはギリギリ勝てるかという程度である。

ステータスの上昇量などからざっと考えても、周囲の敵と戦うにはレベル40くらいが妥当だろう。

ラスボスの魔王に至っては87のヘルメラでも勝てないほどだ。

不働などが挑めば、開幕の『パンデモニウムストーム』だけで半死にさせられる。


「やばいな、このゲーム・・・クリアできるように出来てないぞ。これはえげつないわ。」


半ば狂ったように微笑みながら不働は言った。

どう計算しても魔王に勝利しゲームをクリアするには、ヘルメラ級のレベルのキャラが後二人は必要になるだろう。

だが彼女のレベルはバグによるもの、早々そんなプレイヤーはいないだろう。

つまりそれは絶対に叶わない。


再びの手詰まり。それも今回は一切の活路が見えない。レベルももう最大である。


「フドウ・・・。」


不安そうに呟くヘルメラに不働は我に返った。

彼女に心配などさせたくはない。


「大丈夫だ・・・きっとまだ手は残されているだろう。」


ひとまず彼は妹の和來に連絡を取るべくフレンドリストを開いた。

するといきなり、甲高い声が響く。


『遅い!兄しゃ通話を許可しない設定にしてるだろ?何回も掛けたのに繋がらないし・・・。』


そんな設定がある事自体不働は知らなかった。

あれこれと不平を口にしながら、畳み掛けるように和來は続ける。


『それより兄しゃ、大変なんだよ!このゲーム・・・絶対にクリアさせる気の無いゲームなんだ!!』

『ああ・・・お前も気付いたか。』


深く溜息を付きながら、不働は頭を振った。

どうやら向こうも状況は同じのようだ。


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