第三話 人間の屑がこの野郎
ブレイズウィングに丸焼きにされた不働は、グンドラーゼの町の酒場で仏頂面を浮かべていた。
あれから・・・何度か試行回数を重ねてみたが、どうやらやはりあのブレイズウィングは三体以上でしか湧かないらしい。
酷い時は五体で現れ、溺れる程の爆炎で不働を消し炭にした。
これで再び八方塞がり。
不働はもはや酒場に入り浸る位しかする事は無かった。
慣れた顔で店に入り、お決まりの酒を注文する。
(くっ・・・何が楽しくてゲームの中でも引き篭もってなきゃならないんだよ・・・。)
苛立ちに任せ、酒瓶を流し込もうとした・・・その時だ。
からんからん!
ドアの鈴の音を掻き鳴らしながら店の中に入ってくる四人の者達。
(・・・!)
その姿を見て不働は思わず息を飲んだ。
この町で初めて見かける顔、全身に整えられた強そうな装備、そしてやけに気合の入ったグラフィック・・・
間違いない、彼等は自分と同じプレイヤーキャラだ。
町からどう出てレベルを上げるか考える余り不働はこのゲームがオンラインRPGである事を忘れていた。
つまり、普通にこの町まで到達した他のプレイヤーがいてもおかしくはない。
・・・そして不働は、これを最大のチャンスと見た。
オンラインRPGとあれば、やはり他のプレイヤーとパーティを組むのがセオリー。パーティを組んだ方が、一人よりも力を増し効率良く先に進めるであろう。
・・・最も不働は単身でクリアしようと目論んでいたのだが。
まあ事態が事態、背に腹は変えられない。
つまり不働の狙いは彼等の仲間に加わる事であった。他のプレイヤーがまるでいないこの町に素で到達するような連中だ、実力に申し分は無いだろう。彼等と共に戦えば一気にこちらのレベルも上げられる。
・・・しかしそれには一つ問題があった。
肝心の不働の強さは冒険を始めた直後のまま。装備こそ凄いがとてもこの地域で役に立つものではない。
故に、彼等にとって不働を仲間にするメリットは何一つ無いのだ。
(だが俺にはいくらかの金と長年のオンラインゲーム生活で培った交渉術がある・・・。多少出費してでも奴等のパーティに加わりたい。)
グッと、彼は拳を握りしめた。
(これはチャンスなんだ・・・!レベルさえ適切な段階に上げられれば、いきなりこのマップに飛ばされた事も大幅にショートカットできたと考える事もできる。そうすれば奴等を出し抜き全プレイヤー最速でのゲームクリアさえも狙えるだろう。何としてもこのチャンスをものにしたい・・・!)
希望と野望に不働の胸の内が燃え上がる。
しかし、すぐには飛び出さない。
こういうので大切なのは第一印象だ。強引に交渉を持ち掛け警戒されては元も子も無い。
まずはじっくりと計画を練るのだ。不働は頭を総動員させた。
眉間に何重という皺を寄せ、こめかみには青筋を立たせながら・・・総動員させた。
・・・だが、そうこうしてる間に行動を起こしたのは・・・相手の方だった。
リーダー格と思われる、狐のような目をした戦士風の男が不働の前に歩み寄る。
「やあ、君も魔王を倒す為に冒険を続ける者だよね。一人でここまで来るとは、それにそのすごい装備・・・相当な手練だと伺える、良かったら僕達と共に戦ってくれないかな?」
「・・・!!」
なんと、願ってもない反応だ!
だが彼等がそんな事を言うのは・・・自分がレベル1である事を知らないからだろう。
共に戦えば、そんな事はすぐにバレる。
そこで・・・不働はある嘘を付くことにした。
「ああ、それはありがたい話だが・・・実は、何のバグかこの町に入った途端突然俺のレベルが1に戻ってしまったんだ。幸い装備はそのままだったんだが、それでもこの町から出る事すら叶わなくなって途方に暮れていたんだ。・・・全く、デバッグ位ちゃんとやって欲しいぜ。」
「・・・なんと・・・!」
勿論真っ赤な嘘だが、デバッグがきちんとしていないのは事実だし・・・悪いのは運営という事にしておけばいいのだ。
困惑する戦士に、不働は更に畳み掛けた。
「・・・だが勿論俺もこのまま終わるつもりは無い。このバグはきっと一時的な物だろうから、ちょっとレベルを上げればすぐに元のレベルに戻ると思うんだ。その時こそ真に君達に力を貸せると思う。だから少しの間俺のレベル上げに協力して欲しい。」
流れる様に吐かれるデタラメ。
時間の問題でそれはバレるであろう。
だがそれで構わないのだ。どさくさに紛れて何度か戦闘に寄生し、一つでも多くレベルさえ上げれば後は自分でどうにでもできるはずだ。
「・・・分かった、ひとまず君のレベルを上げてみよう。よろしく頼むよ!」
「ああ、こちらこそな!」
爽やかな笑顔でガッシリと、二人は握手を交わした。
まさか戦士の男は夢にも思うまい・・・目の前のレベル1の男が内心そんなえげつない邪悪な作戦を立てているなどとは・・・。