第二話 武器は持っているだけじゃ意味ないぞ、そんな事は分かってるんだ
「おお、若者よ・・・よくぞここまで辿り着いた。この魔王に最も近いと言われる町、グンドラーゼにな。」
「うるせえ!前回のあらすじじゃねえんだよ!!同じセリフを繰り返すな!」
決まったワードしか喋らぬ老人を睨みながら不働は叫んだ。
彼は最初、ここはプレイヤーが最初から全ての施設とゲームシステムに触れられるよう作られた町だと思っていた。
だが実際は・・・真逆。
この町は魔王、つまりラスボスに挑む為の最後の準備を整える為の町だったのだ。
そんなクリア手前の町に・・・どういう訳か何のバグか、不働はレベル1の状態で放り込まれた。
そりゃあ外に出れば、ワンパンもされるであろう。
約一日後。
ひとまず不働はぐるりと町を回り、全ての施設に一通り目を通してきた。
ゲーム好きならば、なかなかにワクワクする状況であっただろう。
だが不働の顔は浮かなかった。
武器防具屋。
名前の通り装備の販売を行う所。
ラスボス手前の町ともなれば、その商品も超一流の最強クラスの物が揃う。
だが所持金0Mの不働が手を出せる物は無い。
加工屋。
武器や防具などを素材で加工し、更なる強さを持つものに変える場所だ。
裸一貫装備無しの不働に立ち寄る意味は無い。
転職所。
キャラクターの職業を変え、また一から新たな力を会得する所。
複数の職を修めれば、上級職への転職も可能だという。
レベル1の不働には関係の無い話だ。
修練場。
お金を払い、新たな技や魔法を覚える施設。
強力な技を得るには、それに見合ったレベルも必要となる。
レベル1の不働が覚えられるのは入門的なものだけだ。
冒険者ギルド。
人々から提示される様々なクエストをクリアして報酬を得る為の施設。
最後の町ともなれば、届く依頼も伝説に挑むようなものばかりだ。
当然不動にクリアできるものは一つもないぞ。
施設を回れば、ゲームのシステムも自ずと見えてくる。
どうやらこのゲームのシステムはRPGとして極々一般的なものらしい。
・・・いきなりラストマップに飛ばされるバグを除けば。
他に手に入った物といえば、町を巡っている間に拾ったちょっと良い剣といくつかの回復アイテム、それに現金3400Mくらいだ。
この辺は流石最後の町。落し物ですらそれなりに良い物が拾える。
まあ、ちょっと良い剣くらいじゃ外の魔物には手も足も出ないし、現金3400Mなんてこの町じゃ屁みたいなものだ。
不働は途方に暮れるばかりだった。いきなり町に閉じ込められてしまった。
はあっ・・・とため息を付きながら、いつか拾った鉱石を弄ぶ。
(これと剣を売って5000M、それに3400を合わせても8400Mか。この町で一番安い27500Mの鎧にすら届かねえよ。)
だが、その時彼はある事に気付いた。
急ぎ支度を整え駆け出す。
入口の老人が「おお、若者よ・・・」と語り出すのをスルーし、不働は再び町から飛び出した。
目指すは・・・近くの岩の採掘ポイントだ。
「あった・・・!」
そこには不働の思惑通り、復活していた。
以前取った・・・灰結晶の鉱石が!
彼は夢中で鉱石を掴み取ると、道具袋にぶち込んだ。
だが、その時だ。
がっしゃんがっしゃん・・・ゴゴゴゴゴゴゴ!
聞き覚えのある機械音が響く。
不働は苦笑いを浮かべながら振り向いた。
「おいでなすったな・・・!」
ゆっくりと姿を現す機械の巨人。前日に自身を一撃で教会送りにした因縁の魔物だ。
しかし不働は・・・臆することなくその前に立ち塞がった。
「俺は逃げも隠れもしない・・・さあ、かかってこいよ!!」
叫ぶ彼の表情は、自信に満ちた意味深な笑みに包まれていた。
何か・・・状況を打破する策があるとでもいうのだろうか。
ぐわあああん!
巨人がその手を振り上げる。だが不働は動かない!
ぶおおおん!
巨人がその手を振り下ろす。だが不働は動かない!
びゅおおおお!
巨人の手が今正に不働に迫る。だが彼は動かな・・・
ぺちゃ。
案の定、彼は一撃でやられた。
しゃんしゃんしゃんららしゃんしゃ・・・
神聖なBGMが響く。
不働は慣れた手で棺桶から出る。
「死んでしまったようですね、次は頑張ってください。」
淡々と言う神父を尻目に、不働は急いで道具袋を開けた。
そして目的の物を確認し・・・彼はにんまり微笑んだ。
灰結晶の鉱石・・・袋にはそれが、二つ入っていた。
当然だ。死んでもアイテムは無くならないのだから。
それこそが不働の目的であった。
一つでもアイテムを拾ってから力尽きる事。殺したければ好きなだけ殺してくれて構わないというヤケクソアイテム収集だ。デスペナルティもなんのその、どーせお金は1Mももっていないのだから。
灰結晶の鉱石の売値は一つ1000M。更にそれは時間経過で何度でも再び採集可能となる。
つまり、それを道具袋の上限30個まで集めれば・・・。
買えるのだ。この町で販売されている、超一流の装備品が!
例え死んでもアイテムが無くならない事を活かしたこの作戦は上手く行き、不働は順調に換金アイテムを増やしていった。
勿論町から出ていきなり敵にエンカウントする事も多々あり、一個もアイテムを持ち帰れない場合もあったが・・・少しずつ収集ポイントを把握し・・・時には一度に二、三個のアイテムを持ち帰れる事もあった。
加えて、一撃でやられる・・・というのも逆に功を奏した。
殺される恐怖というものを味わう暇すらなく教会送りにされるのだ。
これがなまじ何発かは耐えるというものだったら、じわじわ殺される痛みと恐怖で彼は再起不能になっていただろう。
・・・時は流れた。
ふと、グンドラーゼの武器防具屋から出てくる煌びやかな装備に身を包んだ一人の男。
かしゃっ、かしゃっと鎧の音が響く。
・・・不働だ。
一つの装備を買うのに数十回・・・全身揃えるのに数百近い全滅を繰り返し、いよいよ彼は最強の装備を揃えていた。
レベル1にして、その攻撃力と守備力の数値は圧巻の150を超える。
(装備は整った・・・いよいよ戦いの時だ!ついに俺のレベルを上げる時が来たんだ!)
ニヤリと彼は微笑んだ。
再び町から出てきた不働。
その面持ちは以前とは違う。確固たる自信で溢れていた。
・・・とはいえレベルの低さというのは大きい、装備だけ整えた所でそのまま挑めば返り討ちにされるだろう。
そこで彼はこれまでのバトルのログを取り、ある作戦を立てていた。
まず、レベル1の不働のHPは35。
そしていつかの機械巨人から、無装備の状態で受けるダメージは259であった。
現在の守備力153を差し引いても受けるダメージは106。到底耐えられるものではない。
同様に、この地域の他の種類の魔物達の攻撃力も余裕で200を超えるものばかり。どうしても一撃で倒されてしまう。
だがそんな中、一種だけ200を超える攻撃を撃ってこない種類がいた。
ブレイズウィング。全身に炎を纏った美しい蝙蝠の魔物だ。
彼等は必ず火炎放射による攻撃を行う。
その攻撃力は50。
本来はパーティの味方全員が受けるタイプの攻撃の為、そこそこの被ダメージとなるのだが・・・単身で戦う不働にとってそれはメリットでしかなかった。
更に、グンドラーゼの町で売られている装備の中に『氷塊の盾』という物があった。
その特殊効果は炎属性のダメージを三分の一にするというもの。
これなら火炎放射のダメージは16程度にまで軽減できる。
つまり、耐えられるのだ・・・一発どころか二発まで。
二発耐えられれば攻撃と回復を両立できる。回復アイテムを多量に使う事にはなるが、生憎不働は今やそれを無限に購入できる。
いよいよ・・・勝ちの目が見えてきたのだ。
後はブレイズウィングと遭遇するだけなのだが・・・。
しかしこの時の不働には、幸運の女神が満面の笑みを浮かべていた。
ガササ!
物陰から敵が現れる。
不働はそれを見てニヤリと微笑んだ。
「・・・ははっ、俺はついてるぜ。」
現れたのは正に求めたその相手、ブレイズウィングだった。
「キキィッ!!」
レベル1の不働は当然スピードでは劣る。
彼は敵の先制の火炎放射に晒された。
ゴオオオオッ!
(ぐうっ、熱い・・・が所詮一撃では死にはしないな!)
炎を耐え切ると、彼は45000Mの剣を掲げた。
いよいよ反撃が始まるのだ!
(いける・・・今度は俺の番だ!!経験値を頂戴する!!)
・・・だが彼は知らなかった。知る由もなかったのだ。
何せ、今までいつも開幕の敵の攻撃でやられてしまっていたのだから。
敵が、群れを組んで襲い来る事を。
「な、何ぃぃい!!」
炎を耐えた不働は気付いた。
正面だけでなく、右と左にも・・・合計三匹のブレイズウィングがいた事に。
思えば心のどこかで最初の町気分が抜けていなかったのかもしれない。
必ず敵は・・・単体で出てくるものと。
残る二体のブレイズウィング達は、連続して火炎を吐き出した。
さしもの氷塊の盾も三連撃には耐えられない。
不働はあっという間に黒焦げになった。
「ぬわーーっ!!」