第一話 28でゲームやるの正直キツい
しゅううん!
ゲームの世界へと飛び込んだ不働が降り立ったのは、中規模の町だった。
辺りを見渡せば、沢山の人々が行き交っている。
「・・・なるほどな。」
ぽつりと呟く不働は・・・たったそれだけの光景から既に多くの攻略に役立つ情報を引き出していた。
最初から大きめの町で始まる・・・つまりこの町には沢山の施設が配置されているであろうという事。
それは、そのゲームが推しとしている多くの目玉システムに最初から触れられるという事である。
こういったゲームは自由度が高い反面、初心者は何をすれば良いのか分かりづらく・・・お金などを無駄に使ってしまいやすいという欠点があるのだ。
(まあ、俺は嫌いじゃないがね・・・。)
ニヤリと不働は微笑んだ。
このタイプのゲームのセオリーは、まずは情報を集める事。
色々試してみたくなる衝動をぐっと抑え・・・町中をぐるっと見て回るのだ。
これにより『いきなり装備を購入したが、実は素手格闘のスキルを購入した方が強かった』なんていうミスも回避する事ができる。
増してこのゲームの情報は一切無い。
何せ先に入ったプレイヤーは一人たりとも現実へ戻ってきていないのだから。
故に、何よりまず町で情報収集を行うべきなのだ。
・・・しかし不働が取った行動は、異なるものだった。
あろう事かなんと彼はいきなり町から飛び出したのだ・・・!
たったったっ・・・。
町の外に出た不働は辺りの地形を確認する。
灰かかった土・・・遠くに見える山からは炎が吹き出している。
どうやらここは火山地帯。最初のマップにしては些か過酷な様だ。
「・・・。」
不働がいきなり町の外へ出た理由・・・それは勿論彼なりの情報収集の為だ。
彼がまず狙いを定めたのは周辺に出現する魔物達であった。
町の中で完璧に装備やスキルを整えてから旅立つというのもある種の基本ではあるだろう。
だが不働はその整える内容を、相手を見て決めようというのだ。
周辺に現れる敵に対し有利な属性や武器種・・・はたまた打撃が効くのか魔法が効くのか。
そういった情報を何より先に得ることで、一切の無駄なく装備を整え序盤を進めようというのだ。
(序盤は虫や植物の魔物が多く、炎属性の攻撃が役立つというパターンがありがちだが・・・さて。)
注意深く周囲を観察しながら不働は進む。
すると、ふと岩の隙間に煌めく何かを見つける。
『灰結晶の鉱石』
<淡い光を放つ灰色の鉱石。加工や換金に役立つだろう。>
不動は道具袋を開くと、それを中に放り込んだ。
袋の中には他にお金が10Mだけ入っている。
彼の目的は周辺の敵の確認と、もう一つあった。
それは・・・死亡時のペナルティの確認である。
大抵のゲームでは、敵に倒されると近くの町や何かに戻される。
そしてその際にペナルティでお金や道具などを没収されるのだ。
どれほど過酷かも分からぬ冒険の道筋。一度も敗れずしてそれを完遂できるとは不働も思わない。
そしていざその際にいきなり希少なアイテムや何かを失うとなれば損失は計り知れないだろう。
ならばむしろ早い内にその内容を確認しておこうというのだ。
どうせ今持っているのはその辺で拾った石とゴミみたいな金額のお金だけ、失っても何のダメージもない。
(恐らくお金などは後できちんとした額がギルドなりから支給されるんだろう、こんな初期費用じゃ何もできないからな。・・・ならばくれてやるさ、金か道具か・・・その両方か。)
その時だ。背後から大きな物音がする。
ガササ!
いよいよ敵のお出ましだ。
「来たか・・・。」
死亡時のペナルティ確認とはいったものの、無論勝てるなら勝っておきたいし、それで無くても出来るだけ敵の行動パターンなどを把握したい。
不働は身構えながら振り返った。
「さあ、最初のお相手は一体どんな・・・うっ!?」
敵を見た彼は、口をあんぐりと開け硬直した。
何せそこにいたのは自身の十倍はあろうかという体を持つ、機械仕掛けの巨人だったからだ。
『メカニカルエンドゴーレム』 レベル???
「何だ・・・こいつは・・・?」
不働は言葉を失った。
最序盤の敵にしては、余りに異形過ぎる。
明らかにおかしい。
がっしゃんがっしゃん・・・ゴゴゴゴゴゴゴ!
巨人は猛烈な機械音を上げながら、こちらに迫り来る。
・・・しかしここで、不働はある答えに達した。
(ああそうか、きっとこのゲームは敵のデザインに凄い力を入れてるんだろうな。最初からこんな強そうなデザインの敵が出てくるって事は、最終的に宇宙規模のデザインの敵になるんじゃなかろうか。ははっ、なかなかに斬新なゲームじゃないか。)
半ば自分に言い聞かせるように、彼は納得した。
つまりこの敵は、見た目が凝ってるだけで強さ的には大したこと無いだろうと・・・。
「そういう事なら相手にとって不足無し!やってやろうじゃないか!うおおおお!!」
飛びかかっていく不働。
それに合わせ巨人はその身に似合わぬ早さで大きな腕を振り上げ、叩き潰しを放った。
ぺちゃ。
実にあっさりとその攻撃は直撃した。
・・・しゃんしゃんしゃんららしゃんしゃ。
何かやたら神聖な感じのBGMが不働の耳に聞こえてくる。真っ暗だ。箱のような物に閉じ込められている。
ごっ!持ち上げようとした頭が何かにぶつかる。
・・・何かの板のようだ。
押したり引いたりしてる内にそれは横にずれ、隙間から眩しい光が不働の目に入る。
・・・どうやらここは・・・教会のようだ。
不働が閉じ込められていたのは棺桶であった。
ふと、禿頭の神父が彼に声を掛ける。
「死んでしまったようですね、次は頑張ってください。」
淡々と告げると神父は去っていった。
(???何がどうなっているんだ・・・?俺は確か・・・。)
訳の分からぬまま不働は立ち上がり、教会から出る。
するとそこは、最初に居たあの町だった。
ハッとなり、不働は道具袋を開く。
すると鉱石はそのままに、お金が0Mに減っていた。
だんだん不働の記憶がハッキリしてくる。
あの巨人の攻撃で・・・自分は死亡したのだ。
『所持金が全て無くなる』
そう、つまりこれがデスペナルティだ。
「そうか俺は死んだのか・・・いや、それにしたって一撃?普通初めの町の近くの敵にワンパンされるか・・・?」
ごにょごにょと漏らす不働。
すると近くの老人がそれに気づき、彼に声を掛けた。
「おお、若者よ・・・よくぞここまで辿り着いた。この魔王に最も近いと言われる町、グンドラーゼにな。」
「・・・え?は?・・・はああああああああああ!?」
不働は目を見開き絶叫した。
魔王の城目前、強敵犇めく最後のエリア。
何のバグか、不働の冒険はいきなりそこで始まったのであった。