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最終話 それでこそ不働という男よ


突如出現した謎の棺桶。

勿論不働は・・・その中身に見当がついていた。


このゲームでは、死んだプレイヤーは仲間に暫く蘇生されなかった場合教会で復活する。

だがNPCの場合は問答無用で教会送りとなり、連れていたプレイヤーがそれを復活させねばならなかったようだ。

不働にとって全くの盲点であった。


・・・そしてそれはつまり、ヘルメラが間違いないNPCであるという事を示していた。

だが関係ない・・・不働はもう一度彼女に会いたかったのだ。


「ヘルメラ・・・!!」


不働は神父にお金を払い彼女を蘇生させた。

ちなみに所持金は無かったので、ひとっ走り換金アイテム探しに出た。


ぎぃぃぃ。

開いた棺桶から現れる・・・仰々しい鎧に身を包んだ女騎士。

間違えようのない、ヘルメラだ。

彼女は身を起こすとゆっくりと目を開けた。


「ああ・・・ああ、ヘルメラ。ずっと・・・会いたかった。」

「・・・。」


しかしヘルメラは何も答えなかった。

不働は知っていた。ゲームをクリアし役目を終えたNPCがどうなるかを。

一切会話できなくなったり、同じセリフしか話さなくなるのだ。


「・・・うう、そんな・・・そんな。やっと・・・会えたのに。」


がっくりと不働は肩を落とした。求め続けた希望の末路が、こんなものであっていいはずはない。

こんなゲームは・・・クソゲーだ。


だがその時、聞き覚えのある笑い声が不働の耳に聞こえてきた。


「フフッ・・・どうした、何を泣いているのだ。」

「・・・?ヘルメラ・・・?」

「全く・・・どれだけ待たせるのだ。約束を果たしに来るのをずっと待っていたというのに。『余りにも遅いからこっちから来ちゃったわよ。』」


ヘルメラは口を開いて・・・喋った。

彼女の言葉で、彼女の声で、彼女の表情で。


・・・だが何か妙だ。

ヘルメラの今のセリフは、途中から何処か別の所から聞こえてきた。

この世界とは別の・・・遠い所から。

不働はゆっくりと、ゲーム用ゴーグルを外して後ろを振り返った。


そこには眼鏡を掛け不敵な笑みを浮かべた少女が一人いた。

その首には、不働と同じゲーム用ゴーグルが掛かっている。


「初めまして、不働。私の名前は『米良 奏麻 (めら そうま)』このゲームを作った者よ。」

彼女はニヤリと歯を見せた。




米良 奏麻。

彼女はずっと独りだった。

生まれてすぐに親を亡くし、その遺産を頼りに孤独に家に引き篭もり続けた。


そんな彼女が唯一外界と接する手段・・・それがオンラインゲームだった。

ゲームの中でだけなら誰かと繋がる事が出来た。

奏麻はひたすらにゲームにのめり込んだ。


・・・だが、周りのプレイヤーは違う。

『学校が』『友達が』『仕事が』『家族が』

そう言って誰しもがゲームから離れていった。

そして彼らは皆それを引き留めようとする奏麻にこう言った。


「たかがゲームだろ。こんな遊びに夢中になってどうすんだよ。」


ショックだった。

自分にとって何より大切なものであったゲームを皆はただの遊びと否定したのだ。

彼女には、それしか無かったというのに。


「・・・と、いう訳で私は決めたのよ。『一度入ったらクリアするまで出られず、かつ永遠にクリア出来ないような無茶苦茶な難易度のゲームを作る』って。ゲームを只の遊びと言い切る人に復讐する為にね。私は外から全てのプレイヤーの動きを観測していた。思った以上に人が集まって大満足だったわ。」


しかし、奏麻はここで得意気だった顔を顰めた。


「でも、そんな時に現れたのが貴方よ・・・不働。このゲームは完璧に作ったつもりだけど、まさか発売二週間後に自分からプレイする人なんていると思ってなかったから・・・そこでバグが起きた。」

「それで俺はいきなり最後の町に飛ばされた訳か。」


不働が言うと、奏麻はうなづいた。


「最初はまあ別にクリアさせる気も無いし、このままでも良いかと思ってたんだけど・・・それだけの逆境に立たされても、知恵と知識を総動員させてゲームをクリアしようと奮闘する貴方を見ていたら考えが変わったわ。こんなにゲームに全力で取り組む人がいるのか・・・と。助け舟を出したくなった、貴方と一緒に冒険したくなった。・・・何より私も一人のゲーマー、絶対クリアできないゲームなんてゲームじゃないってのはずっと思ってたから・・・。」


そして奏麻はゲーム画面のヘルメラを指指した。


「そこで作ったのがこのお助けNPC、女騎士ヘルメラ。彼女を私の分身として貴方と同行させそれを見守る事にしたわ。まさか私自らゲーム内に入る訳にも行かないしね。NPC故の限界を超えた圧倒的なステータス、更にNPCである事を悟らせない為に要所では私自ら操作することも可能にした。どんなに精巧にプログラムしても、会話の様な複雑な行為にはどうしてもボロが出るからね。」


最もそれでも見抜いたリーダーは流石だけど・・・と奏麻は舌を出した。


「勿論ヘルメラと組んだからってゲームは確実にクリア出来るわけじゃない。普通レベル25で止めて人数を増やすなんて発想出てこないからね。」

「俺はすぐに思い付いたぞ。」

「フフッ、そうね。そして貴方は見事ゲームをクリアした。何年も掛けて用意した永遠にゲームに閉じ込める計画は破られてしまったけど・・・不思議と悲しくはならなかった。それはきっと、あの『約束』があったから。貴方が未来を諦めなかったように、私もゲームの先にある未来に進んでみたくなった。」


すっ・・・っと、奏麻は一歩前に出た。


「ヘルメラはNPC・・・ゲームの中のキャラクターだけど、それを作った私と彼女は一心同体。だからその想いも・・・同じ。不働、私はずっと貴方と共に冒険してきたのよ。そして貴方が私を探してくれたように、私も貴方を探してここまで来た。約束を・・・果たす為にね。だからその・・・私と・・・。」


顔を真っ赤にして顔を伏せる奏麻。

姿形は違えども・・・有する思いはゲームの中の女騎士と同じであると、彼女は言うのだ。


すると不働は・・・彼女がその先の言葉を発するよりも前にフッ、と笑った。


「いや・・・断る。」

「えっ!?」

「普通に考えてゲームと現実は違うだろう。俺が好きなのはゲームの中の女騎士ヘルメラであって、現実の眼鏡少女では無い。見た目のイメージも違えば喋り方も違う。NPCだろうと関係ない、ヘルメラがゲーム内に復活した以上もう何の問題もないんだ。では。」


早口でそれだけ言うと不働はゴーグルを付け直した。

後には愕然と口をあんぐり開けた眼鏡少女だけが残ったという。






それから・・・。

リーダーは親が死去。無職である彼は食い扶持に困り餓死した。

和來は不働の為にゲームを探していたらいつの間にか自分がのめり込み、無事ニートと化した。

奏麻はゲーム内に無数の人々を監禁した罪で逮捕され、無期懲役が言い渡された。


そして不働は、今でもゲームの中に入ったままだという。


GAME OVER






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