第十三話 誰もが望む最高のハッピーエンドってやつを
向かう先は魔王の城の地下深く。
そこにある牢獄の中に、ヘルメラは姿勢よく座っていた。
不働が静かにその鉄格子をノックする。
「・・・やあヘルメラ、何だってこんな薄暗い所に。」
「フドウか。フフ、何故だろうな・・・部屋選びとなった時真っ先にここに惹かれた。薄暗い牢獄というのは何か落ち着く。」
「はっ、全く・・・お前は根っからの女騎士体質なんだな。」
いつも通りの取るに足らない会話に自然と笑みがこぼれる。
しかし不働はそれきり言葉を失ってしまった。
ヘルメラが不思議そうな顔をする。
「どうした?何か用があったのではないのか?」
「いや・・・それは。」
またしても不働は思考の渦に飲まれた。
本当は、きちんとした『さよなら』を言うべきなのだろう。
だがその言葉は喉の底から出ては来なかった。
いっそ明日の戦いをやめてしまえば・・・明日負けてしまえば・・・そんなごちゃごちゃした考えが巡るだけだった。
すると・・・ヘルメラは小さく微笑みながら逆に口を開いた。
「フドウ・・・本当によくここまで来たな。」
「えっ・・・?」
「私はここまで共にお前の戦いをずっと見てきた。そして何度も挫けそうな困難や絶対に乗り越えられないような壁にも直面したが・・・お前は決して諦める事は無かった。その姿にどれだけ私は感銘を受けたか・・・一度は断念する事も考えた魔王討伐に再び望む勇気も出た。」
「・・・。」
「私はお前のそんな所を凄く尊敬しているし・・・その・・・凄く好きだぞ。」
柄にもなく慎ましく、彼女は言った。
「・・・!」
その言葉に・・・ごちゃごちゃとしていた不働の頭はクリアになっていった。難しい事は全て消え去って・・・本当に自分が望むものがはっきりしてくる。
そしてすぐに、彼は一つの答えを出した。
「・・・勝とうな、ヘルメラ。そしてそれを成し遂げられたなら・・・一つだけ頼みがある。」
少し溜めて、彼は言った。
「結婚しよう。見事魔王を倒す事が出来たのならば、俺と結婚して欲しいんだ。」
「っ!!?」
どんな結末に終わるかもしれない。
だがそれでも別れの言葉は告げず未来に希望を残す事・・・それが不働の出した答えだった。
それはある意味では逃げかもしれない。
しかしそれでも未来の希望を絶対に諦めない・・・NPCだろうがなんだろうが関係ない、彼女は・・・不働が誰より愛した人はそこが好きだと言ってくれたのだから。
みるみる内に顔を赤面させ、パニックに陥ったような表情で・・・でも僅かに口元を緩めながらヘルメラは言った。
「なっ、突然何を言い出すかと思えば・・・だが、フフフ・・・そうか、それは楽しみだな。フフッ・・・勝とうな、フドウよ。」
翌朝・・・。
いよいよその時は訪れる。
魔王の間の大扉の前に立ち並ぶは38人の戦士達。
「さあ・・・行くぞ・・・!」
誰にでもなくそう呼び掛けると、不働は扉を強く押した。
その表情に一切の迷いはない。
ぎぃぃぃ!
その先に待ち構えていたのは、龍の様な鱗で覆われた肌をした大きな魔人。
実に尊大な面持ちで玉座に掛けている。
間違いない、彼こそが宿命の相手・・・魔王だ。
「旅人達よ、ここまで参った貴様達には敢えて何も問う必要は無いだろう。・・・勝ち取ってみせよ!各々が抱く理想、思い描く世界・・・我を滅ぼしそれを自らの手で掴んでみるがいい・・・!!」
そう言うと魔王は姿を変容させた。
大きな翼と鋭き尻尾を生やし・・・その身を更に龍へと近付けた。
そして真の姿を解放した魔王がまず放つ攻撃は一つだ。
彼は右手に魔力を収束させた。
・・・生半可な力を持つプレイヤーなら一撃で消滅させ、熟練のプレイヤーさえも瀕死の重傷を負わせる・・・魔王が持つ最大最強の一撃。
『パンデモニウムストーム・・・!!』
濃縮された闇の力が巻き起こす・・・瘴気の大爆発。
その圧倒的な威力に全ては吹き飛ばされる。
がごおおおおおおっ!!
・・・。
やがて衝撃は去り、立ち込めた土煙が晴れてくる。
魔王は勝ちを確信した表情を浮かべていた。
・・・しかし次の瞬間、彼の笑みは途絶える。
土煙の中から自身の攻撃を耐えた者の姿が現れたからだ。
それも一つ二つでは無い。
・・・38だ。
満身創痍だが、一人たりともその攻撃で倒れてはいなかった。
レベル25の戦士達は・・・全員がその一撃を耐え切った。
「さあ皆さん、手はず通りに!ここからが・・・反撃開始だ!!」
「うおおおおおおおっ!!」
立ち上がったリーダーが号令の様に剣を翳すと、皆が一斉に飛び出した。
いよいよ、最後の戦いが始まったのだ。
《和來ちゃんのデレナイクエスト・大攻略》
世界観編
『このゲームのストーリーは剣と魔法が平然と存在する中世の様な世界を、突如現れた魔王の魔の手から救うというものだよ。・・・ところでそんな世界にいきなり「現代知識を持つ千万人ものプレイヤー」が入り込んで平気なのかな?文化レベルぶっ壊れちまわない?異世界転生物もびっくりの発展遂げそう。』