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第十二話 そんな話でしたっけ?

遂に完成した魔王討伐チーム。

彼等はいよいよ魔王城へと乗り込むべくその道を歩んでいた。


その総勢は38人・・・もはやちょっとした軍隊の行進である。

おまけに道中の敵はとうの昔に狩り尽くしている、怖いものなど何も無い。

彼等には談笑する余裕さえあった。


「ふう、いよいよッスね・・・クリアしたらどうすっかなー。」


隊列の最後尾の方。ジックー率いる元攻略最前線組・次点チーム、加えてヘルメラがその辺りにいた。

彼等もまた、たわいない会話に花を咲かせる。


「俺はやはりゲームだな。そろそろRPG以外のゲームが恋しくなってきた。」

「はっはっは、流石ジックーさんは寝ても覚めてもゲームッスね。・・・俺は家族に会いたいかなぁ。普段は口うるさいッスけど、やっぱり心配してるだろうし・・・。ヘルメラの姉御はどうするんスか?心配してる家族とか友達とか・・・。」


するとヘルメラは飛び上がる程ビクっと反応し、必要以上に困惑した。


「えっ!?・・・いや私は・・・その・・・ええと。」

「あっその反応・・・さては彼氏ッスね。いいなー。」

「なっ、何を言うか!私がそんなものに現を抜かすはずが無いだろう!!」


顔を真っ赤にするヘルメラにジックー達は笑い声を上げた。


・・・だがその少し後ろ、つまりは隊の最後尾で浮かない顔をしているものがいた。

リーダーだ。


「・・・。」

彼はじっと、ヘルメラを見つめていた。




そして一行は魔王の城へと到達する。

とはいっても、その中の敵もレベル上げのために全て倒されていた。もはや彼等の足を止めるものは無い。

残す敵はただ一人・・・魔王そのものだけだ。


おどろおどろしい雰囲気の、巨大な扉。

近くに回復ポイントが設置されている。

言われずともわかる・・・この扉の奥こそ魔王が待つ王の間だ。


ここまでのルートを確認すると、リーダーは前に出た。


「よし、突入は明日・・・今日はここまでにしよう。幸いこの城はとても入り組んでいるから部屋には困らないだろう、皆じっくりと明日に備えて休んでくれ。」


彼が宣言すると・・・一同は雲の子を散らす様にそこらじゅうに走り去った。


「うおお!一番でかい部屋貰い!!」

「一度宝物庫で寝てみたかったんだよなぁ!!」

「私あそこ!この世界が見渡せるバルコニーの所!!」


豪華な装飾の施された壁や床。

侵入者を惑わす為に無数にある個室。

おまけに魔物の一体もいないとなれば・・・さしずめここは高級ホテルの様なものだった。


各々が好みの部屋を確保する。

中には一人で、中には元のパーティの仲間達と。

緊張をほぐすリーダーの粋な計らいだったと言えよう。


そして不働もまた、魔王の幹部が陣取っていたであろう豪華な部屋を占拠していた。

・・・ふと、ドアを叩く小さな音。


「ん、誰だ・・・?」

「いやすまないね、お休み中の所・・・。」


部屋へと現れたのはリーダーだった。


「何か明日の事について伝え忘れでもあったのか?」

「そうじゃない・・・いや、ある意味では関係あるとも言えるか。・・・ともかく、大事な話だ。」

「・・・?」


それを言うべきか言わぬべきか・・・リーダーは少しの間迷った末、口に出した。


「フドウ君、心して聞いてくれ。君の連れてきたヘルメラは・・・女騎士ヘルメラは、NPCだ。」

「・・・っ!?」


突然の言葉。

不働の頭はそれを理解出来なかった。


「何だと?今なんて言ったんだ?」

「・・・。ずっと思ってはいたんだ、この精巧に作られた世界に、そういくつもバグがあるものかとね。・・・そしてこの間の盗賊騒ぎで確信したんだ、プレイヤーの装備を奪おうとする妨害NPCがいるならば、プレイヤーの進行を手伝う協力NPCがいてもおかしくはないと。」

「お前の言ってる意味がさっぱり・・・」

「レベル87の女騎士ヘルメラはバグなどではなく、この超高難度ゲームをクリアさせるべく運営が遣わしたNPCだったんだよ。つまりヘルメラなんてプレイヤーは・・・最初からいなかったんだ。」

「・・・!!」


突然の事に全身の血の気が引いていく。

しかし勿論、そんな言葉を信じる不働では無かった。


「何を訳の分からないデタラメを・・・俺はヘルメラとはずっと一緒にいたんだ。いくらなんでも奴が作られたゲームキャラだと言うのならとっくに気づいているさ。・・・そ、そうだお前は確か熟練の勘でNPCの匂いを嗅ぎ分けられると言っていたな。どうなんだ・・・奴からそんなものを少しでも感じたのか?」


するとリーダーはその問い掛けにすぐには答えなかった。


「・・・。それは・・・分からない。NPCにも思えるし、そうで無いようにも思える。このゲームの出来は我々の想像を遥かに超える部分も多い。そんなNPCが居てもおかしくは無い。」

「なっ、じゃあお前の話なんて当てになるかよ。憶測で妙な事を口走るのは・・・」


だがここで、リーダーは何かのアイテムを取り出すとそれを不働に手渡した。

レーダーの様な形状をしている。


「それは『旅人のコンパス』。最初の方のボ スから入手した『同じエリア内にいる他のプレイヤーの数を計測する』というアイテムだ。我々はそれを常に自分達が攻略最前線にいる事を確認する為に使っていたのだが・・・まあ、それを使えば分かるはずだ。NPCはそのレーダーに表示される事はないのだから。」

「そうか、それではっきりするならいくらでも使ってやろう。」


答えが分かっているというように鼻で笑うと、不働はすぐにそれを使用しようとした。

しかしボタンに掛けた指はそこで止まってしまった。

その手は・・・震えている。


「・・・くっ!」


意を決してボタンを押す。

するとあっという間にレーダーの画面にプレイヤーの数が表示された。

・・・その数値は37。この城にいるはずの数には、1足りなかった。


カラン!レーダーは不働の指をすり抜け床に落ちた。

彼は完全に言葉を失った。頭の中は真っ白になっていた。

リーダーがそっと口を開く。


「ゲームをクリアすればNPCにはもう存在理由はない。このゲームのクリア・・・それは恐らく女騎士ヘルメラが君の前から消える事を意味しているだろう。」

「・・・。???」


淡々と告げられた事実は不働の耳をすり抜けた。

一つ一つの音が意味のある言葉として結び付かず、ただの音声として頭の中に入りこんでくる。

しばらくかかって、不働の頭はそれを少しずつ彼に認識させた。


(ヘルメラがNPC・・・?ヘルメラが・・・消える?)

やっと、彼は言葉の意味を理解した。


・・・思い返せば、彼女の破格のレベル87も・・・彼女がわざわざレベル1だった不働に手を貸したのも、彼女がNPCだったからだとすれば納得はいく。

いや、そもそも彼女がNPCであるか否かそれ以前に・・・不働はこれがゲームの中である事などとっくに忘れていた。

精巧に造られたこの世界を現実のものと、ゲームをクリアした後もヘルメラとずっと一緒にいられるものといつの間にか思っていた。


それだけ彼女の事を愛していたのだ。他のどんな現実よりも、どんなキャラよりも・・・。


「君が彼女に対し特別な思いを抱いている事はなんとなく理解している。・・・だから最終準備を名目にしてこの一日を設けたんだ。・・・別れを告げ、心の準備をするためにね。君の気持ちは私にもよく分かるが・・・しっかりと決着をつけるべきだ。」

それだけ告げると、リーダーは不働の部屋を立ち去っていった。




・・・一人残された不働はグルグルと巡る思考の渦に囚われていた。

いきなり突きつけられた現実を飲み込めず、自分はどうしたら良いのか・・・何ができるのか。


(そんな事を言われようと、俺の意思は一つ・・・簡単だ。ヘルメラとずっと一緒にいたい。離れたくは・・・無い。何か方法は他にだってあるはずだ、考えろ・・・。)


不働は無意味に小賢しいその頭をフル動員させて、最高の解決法を考えようとした。

どんなゲームだってクリアしてきたのだ。この程度の問題くらい・・・。


だが時は残酷に過ぎていく。

刻一刻と決戦の時は迫る。


「・・・。」


・・・結局何の答えも出せぬまま、不働はフラフラと部屋を出た。




《和來ちゃんのデレナイクエスト・大攻略》

NPC編

『本当の意味では、NPCはプレイヤーが操作するキャラ以外のキャラ全部の事を言うんだけど、このゲームの場合はその中でもパーティに加入して一緒に戦えるキャラだけの事を言ってるみたいだね。・・・えっ、私はNPCじゃないよ!?だって私には現実で兄しゃと過ごした記憶がちゃんと・・・アレ?無い!?そんな・・・嘘、私は・・・私はっ・・・!うわああああああ!!

・・・あ、違うわ。兄しゃがずっと引き篭もってゲームしかしてないからなんの思い出も無いだけだわ。ふっ、でもそんな兄しゃがすき。』



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