第十話 それでも自分じゃ働かない、ニートだもの
このゲームには、パーティの人数制限というものは無かった。
つまり不働は魔王の攻撃で一番の威力を持つ『パンデモニウムストーム』を耐えられるレベルで、最も経験値効率の良いレベル25のキャラクターをできるだけ多く量産して魔王に挑もうというのだ。
その衝撃の発想に・・・一同は絶句するばかりだった。
少ししてやっとリーダーが口を開く。
「いや・・・思わず言葉を失ってしまったが、実際とんでもない策だ。一見無茶で強引なように見えるが、その実綿密な分析と計算によりそれは成り立っている・・・恐れ入ったよ、フドウ君。」
「フッ・・・そうだろうな。さて、そうと決まれば早速行動に移させて貰おう・・・!」
この作戦を実行する為にはまず他のプレイヤーの勧誘が必須となる。
理想は少しでも効率良くレベル25を量産する為に、できるだけ現時点でレベルの高いプレイヤーを勧誘する事だ。
作戦を説明すれば、きっと多くのプレイヤーは協力してくれるだろう。
だが中にはそうではない者もいる。リーダーら攻略最前線組が経験値の独占などを行ったおかげで彼等に不信感を抱いている者も多いだろう。
そこで不働は、ここでもある策を考えていた。
・・・。
「はあ、なるほどな。それで俺達の力を借りたいと?」
武器を弄びながら言う不機嫌そうな男。彼の名はジックー、7人から成る攻略最前線次点のパーティを率いていた。
不働、ヘルメラ・・・それからリーダーの三人は彼らの元を訪れ2-6エリアの洞窟へと来ていた。
攻略最前線次点パーティの平均レベルは17、レベル25キャラクター量産の為には彼らの勧誘は避けては通れないだろう。
だが、リーダーらの行った強硬策の被害を最も被った彼等は・・・攻略最前線組に対して強い嫌悪感を抱いていた。
「いやね、話自体は実に面白そうだ。ラスボスを倒す為の第一パーティに加われるってのも悪くは無い。・・・だがね、問題はそいつだ。」
ジックーは顎でリーダーを指した。
「てめえのゲームクリアの為に他のプレイヤーの妨害も厭わない様な野郎とどうして組めるってんだい?またクリア直前になったら蹴落とそうってんじゃねえのか?・・・生憎俺らはゲームから出る事自体には大した興味は無くてね。だからそうだな・・・そこの攻略最前線組の連中抜きってんならまあ、考えてやってもいいぜ。」
へっへっへとジックー達は嫌みたらしく笑った。
彼等の加入の為にリーダーらを省くというのは、レベル25量産の為には本末転倒である。それを分かっていて彼等はこの意地悪い提案をしているのだ。
・・・だが不働は逆に笑った。
「ああ、お前達の提案も最もだな。だから俺はそんなチャチな事が気にならない位の報酬を持ってきた。・・・リーダー、アレを。」
不働の号令に従いリーダーは前に出ると、何か煌めく物を道具袋からどさどさとジックーの前にぶちまけた。
それは・・・あの最後の町グンドラーゼにて販売されている、最強の装備品の山であった。
「な、なんだこれ・・・見た事ねえ装備だらけだ。しかもこの量は・・・!!」
口をあんぐりと開けて叫ぶジックー達。
不働は満足そうにフッと笑った。
・・・話は少し前に遡る。
攻略最前線組と合流した不働は、彼等を引き連れて自身が最初に訪れた魔王の城直前の町・・・グンドラーゼへと舞い戻った。
そして彼等が真っ先に行ったのは・・・6-1エリアに出現する敵を狩り尽くす事だった。
最後エリアともなれば出現する敵から得られる経験値も莫大である。敵を全て倒す頃には攻略最前線組のレベルも皆25に到達していた。
「わあ、やったな兄しゃ。これで目標の25に到達できたよ。・・・でもこんな効率の良い狩り場の敵をいきなり狩り尽くしちゃって良いのかい?」
和來が不安そうに訊ねる。
しかし不働は不気味にうなづくと、敵のいなくなったフィールドをそっと指差した。
そこではあちこちに・・・キラキラと何かが煌めいている。
「わかるか・・・あの光ってるのは換金用の素材アイテムだ。このゲーム、出現する敵の数には限りがあるがどうやらアイテムには限りは無い。」
「・・・っ!それって・・・!?」
「ああ!つまりこうして敵がいなくなった今アイテムは取り放題・・・!即ち金は無限に獲得出来るということだ!」
かくして彼等は無限に資金を獲得する術を得た。
これにより最強の装備も取り放題。25レベルの仲間達を一番いい装備で着飾る事が出来るのだ。
煌めく装備の山に呆気に取られるジックー達。
不働はダメ押しの如く言った。
「勿論これらの装備は先払いでお前達にやる・・・おまけにレベル25まで上げられるサポート付きだ。どうだ?これ以上の好条件はないだろ。」
「くっ、確かにな。・・・だが本当にそれでラスボスを倒せる確証はあるのか?」
「・・・。」
何も答えぬ不働。
・・・その時だ。突然の地響きが彼等の足元を襲った。
「何だ・・・!?」
「来やがった・・・奴だ!!」
洞窟の奥から現れたのは2-6のボス・・・『キングまよいメタル』
その体は超鋼鉄の金属で出来ており、あらゆる魔法も打撃も殆ど受け付けない。
ジックー達がここに待機していたのはこのボスを倒す為だ。
その姿を見て、不働はある事を思い付いた。
「確証はあるのか・・・と言ったな?だったら一つあるものを見せてやる。」
「何・・・?」
すると不働は一歩前に出てこちらへ来る敵を迎撃するような位置についた。
ジックーはその姿に彼の意思を察する。
「なるほど・・・そいつを倒して魔王へと挑むお前達の力を示そうというのか。だがそいつは俺達が何度挑もうと全く手も足も出なかった相手だ。ちょっといい装備を揃えたくらいでたった三人で勝てるかな?」
「ん?何を勘違いしているんだ、やるのはただ一人だぞ。・・・ヘルメラ!」
「ああ、任せてくれ。」
不働の声に呼応しヘルメラは更に前に出た。
既に敵はこちらを踏み潰さんほどの距離に迫っている。
「メタメタ〜!!」
「ははっ、馬鹿か!そんな嬢ちゃん一人で勝てるわきゃねえ、一撃でやられちまうのが終い・・・」
「うおおおおっ!!」
嘲るジックーの声をかき消す程にヘルメラは気合いを入れた。
じゃきん!
魔法さえ受け付けぬ超鋼鉄の体。
それならば、それ以上の威力を持つ物理で打ち砕いてしまえばいい。
一刀両断・・・!
防御力300を誇り殆どの攻撃を1ダメージに軽減してしまうキングまよいメタルの体は・・・それ以上の攻撃力を誇るヘルメラの剣に一撃で切り裂かれた。
「なっ・・・!一撃だと・・・!?」
開いた口が塞がらぬジックー達。
不働は彼等にしたり顔で語る。
「魔王を倒せる確証・・・勿論そんなものは無い。だがそれを限りなく実現に近づけるであろう程の力なら俺達にはある。どうだ?これでもまだ足りないかな・・・」
しかしジックー達は一生懸命語る不働をスルーして横を駆け抜けて行った。
その目的は・・・次元を超えた力を持つ目の前の女騎士だ。
「「すげえ!姉御!!一生ついて行きますぜ!!」」
「お、おい・・・そんな風に慕うのはやめてくれ・・・流石に照れるではないか。」
顔を赤らめ困惑するヘルメラ。周りではジックー達がわーわーと声を上げている。
一方不働は・・・リーダーに可哀想なものを見る目で見られながら、したり顔で硬直していた。
「ま、まあ・・・作戦通りだな。」
彼は言い切った。
《和來ちゃんのデレナイクエスト・大攻略》
換金アイテム編
『野に、森に、海に、岩場にそれらは転がっているよ。キラキラ光るから遠くからでもすぐ分かるね。ちなみにそれらが再出現する瞬間は決して見れる事は無いんだ。ちょっと目を離した瞬間いきなり現れる・・・。地面からニョキニョキ生えてるのかな?たけのこかな?』




