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第九話 ダークゾンビフェニックスめっちゃかっこよさそう

それからどれだけの時が経ったであろうか。

ゲーム内に取り残され進む術さえ失った人々は絶望の渦に飲まれていた。


精神を狂わせ発狂する者。

勝てるはずもないボスに延々と挑む者。

全てを諦めゲーム内の住民となろうとする者。

ゲームをクリア出来ないリーダー達攻略最前線組を責める者。


当の攻略最前線組は、皆の期待の重圧に押し潰されそうになりながらひたすら3-9のボス『ダークゾンビフェニックス』に挑み続けるしか出来なかった。

勿論、その結果がどうなるかを嫌というほど知った上で・・・。



「クワァァッ!!」

フェニックスの放つ腐食の黒炎で、僧侶のカルオスが倒れる。

格闘家のぱるらんは呻き声を上げた。


「ああ、アカン・・・回復無しでこいつに対抗できるはずは無い。カルオスが倒れてもうたらもう終わりや・・・今回も、やっぱり勝てへんかった。」

「諦めたら駄目だよ・・・私達が諦めたら誰がこのゲームをクリアするって言うの?それにきっと兄しゃもこの先で必死に戦ってるはずだから・・・。」


挫けそうになる仲間を励ましながら和來が一歩踏み出す。ぐっと歯を食いしばる。

本当は誰より折れそうなのは彼女だったのだが・・・。

そんな心の惑いを見切ったのか、フェニックスは和來に狙いを定めた。


「キエエエッ!!」

「・・・うっ!!」


不死鳥の黒炎が迫る。


(ああ、駄目・・・もう避けられない。これでまた私はやられちゃうんだ。・・・嫌、助けて・・・誰かっ・・・!!)


攻撃に、目を瞑ったその時だ。


じゃきん!

ばしっ!


二振りの斬撃・・・それはフェニックスの体をあっという間に切り裂いた。

目を開いた和來の前に居たのは・・・二人の男女だった。


「・・・あ、兄しゃ!!」

「待たせたな・・・お前がいつまでもこっちに来ないから、逆に迎えに来てやったぞ。」




不働の前に残された最後の道は、魔王の城へと通じるもの。

しかしそれは余りに険しく・・・決して進む事が出来ない道だ。

だから彼は逆走を、道を引き返す事を選んだのだ。


・・・。


攻略最前線組の窮地を救った不働とヘルメラは彼等に合流し、近くの町へと移動していた。


「やあフドウ君、通話では話したけどこうして実際に会うのは初めてだね。まさか道を引き返して逆にここまで戻って来るとは恐れ入ったよ。」

「ああ、まあ進むのは厳しいが逆走は簡単だったな。」


リーダーの言葉に不働は胸を張って答えた。

殆どまたヘルメラ頼りだったとは言わなかった。


「それにしてもフドウ君、まさか本当に君のような存在がいるとは・・・。」

「ん?」

「いや、ここまでの冒険で我々はバグに見舞われるような事は一切無かったからね。むしろグラフィックやストーリーの完成度の高さに目を見張るばかりだった。正直バグの存在自体も疑っていたんだが・・・」

「なっ、それは俺のここまでの苦難の旅をも否定するのと同意だぞ!?というより入ったらクリアするまで出られないというのがまずバグみたいなものではないのか!?」

「ハハハ・・・そうだね。」


リーダーは悪かったというように両掌を自身の胸の前で広げ、不働を収めた。

彼は不満気に続ける。


「・・・そもそもあの最後の町に到達しているプレイヤーは皆バグに見舞われた者だという事だろう。普通にやってもあそこまで行けないんだからな。最低でも俺とヘルメラ、それに詐欺冒険者の六人はバグに見舞われているぞ。バグだらけじゃないか」

「・・・。六人もか。」


腕を組み深々と考え込むリーダー。

一方不働は、ここである事に気付いた。


「・・・そう言えばヘルメラ、お前はどうやってあの町まで来たんだ?」

「ん?私か・・・?そうだな・・・聞きたいのか、私の聞くも涙語るも涙・・・半生にも渡る過酷な冒険譚を。」


彼女はまるで水を得た魚のように得意気に笑った。踏んではいけない地雷を踏み抜いたかもしれない事に不働はここで気付く。


「いや・・・やっぱり長くなりそうだからやめておこう。」

「なっ、何でだ!お前が聞いたのだろう!いやむしろ聞いてくれ!なあ!」

「やめておこう。」


拳を握り泣きそうな顔を浮かべるヘルメラにちょっとした笑いに包まれる一同。

しかしその中でリーダーだけは渋い顔で思考を巡らしていた。


(確かに実例がある以上認めざるを得ない・・・。しかしこれ程の完成度を誇るゲームにそんなにいくつもバグがあるとは思えないのだが・・・。もし私の予想が正しければ・・・。)



・・・。


「さて、今後の事だが・・・君達が戻ってきてくれたことで我々には新たな選択肢が出来た。君達に加えて我々四人のレベルを30まで上げることで、六人のパーティで魔王に挑むんだ。それなら君達二人で挑むよりずっと戦力が上がるだろう。どうかな?」

「・・・。いや、それではダメだな。」


少しの沈黙の内不働はリーダーの提案を否定した。


「ふむ、だが他に手は無いのではないかな?レベルの上限が30である以上君もこれより強くなる事はできない訳だし。」

「ああ・・・だが俺も無策でここまで戻ってきた訳じゃない。まずはこれを見て貰おう。」


すると不働は何かの表を机に広げた。

それはヘルメラのこれまでの数十回の挑戦から手に入れた魔王の攻撃パターンのデータだった。

99%全ての行動のデータを取れているだろう。

皆が身を乗り出してそれを覗く。


「必殺の『パンデモニウムストーム』ね・・・うおっ、全体330ダメージ!?」

「おまけに殆どの攻撃が防御無視か、こらキツイで。」

「1ターン2回行動も実にラスボスって感じですね・・・。」


一同がその凄まじい力に言葉を失うのを待ってから、不働は口を開いた。


「これだけの攻撃力と圧倒的な全体攻撃・・・六人で挑んだ所で恐らくまるで回復が追い付かないだろう。」

「つまり、人数を絞って総ダメージ数を減らすと?」


リーダーが顎をさすりながら言う。

理にかなった彼の問い掛けだが、不働は首を横に振った。

続いて彼はまた別の表を机に広げた。


「これは俺のレベルアップ時のステータスや必要経験値を記したものだ。レベルいくつでどの位のHPになるか、どの位の経験値でレベルが上がるのか纏めてきた。そしてこれを見れば分かる通り、レベルアップに必要な経験値はレベル26から急増する。カンスト直前だからだろうな。・・・ところで和來、魔法使いであるお前の今のレベルとHPを言ってみな。」

「え・・・21レベルで284だけど。」


多少困惑しながら和來が答えると、不働はうんうんと頷いた。


「魔法使いの1レベル辺りのHP上昇値は12、つまりそれを後4レベル上げれば・・・到達するんだよ。魔王の必殺『パンデモニウムストーム』を耐えられるHP331以上にな。HP最低職である魔法使いでもレベル25ならそこまで上がるんだ。」

「回りくどい言い方をするね、つまりどうしようと言うんだい?」


目を丸くする一同。

すると不働はここで立ち上がった。


「レベル30がカンストだからって何も律儀にそこまで上げる必要は無いんだ、敢えて25で止める。そして回復が追い付かないから、追い付くだけの人数を連れてくれば良い。」

「ま、まさか・・・。」

「ああ、そのまさかだな・・・!パンデモニウムストームさえ耐えられれば十分に戦闘において戦力になる。・・・だったらそれを10人でも20人でもこしらえてやれば良い。できるだけ人数を掻き集めて・・・超巨大パーティで魔王に挑むんだ・・・!」




《和來ちゃんのデレナイクエスト・大攻略》

ボス編

『このゲームでは、ボスモンスターは全てのプレイヤーが必ず戦わなければ進めないように設定されているよ。だから一度ボスを倒したプレイヤーでも、未クリアのプレイヤーと一緒ならまたもう一度ボスと戦えちまうんだ。ちなみにボスを倒しても経験値は得られない。骨折り損だね!』

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