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第五章

 エルガロードの街外れ。北東部に位置する病院。ここは帝国でも随一の設備を持つ病院である。

 その裏門に、警護車両が到着した。二台の黒い車から、制服警官が降りてくる。待ち受ける病院側にも、同じ制服の警官が何名も待機していた。

 そして周囲を警官に囲まれながら、白い布を被った人物が車を降りた。顔を隠すための布なのだろうが、その下から、長い黒髪が覗いていることは、およそ百メートル離れた場所からならば、スコープ越しでもはっきりと見て取れた。

 そして、狙撃銃を構えるその人物は、引金を引き切った。大きな音がこだまする。

「襲撃!」

 病院の裏で警官たちがざわめいた。白い布を被った人物は身を屈め、取り囲む警官に押されるようにして病院の中へと駆け込もうとする。

 素早くボルトを操作し、もう一発撃ち込む。目標付近の地面で一瞬何かが爆ぜたように見えた。そこに弾が当たったのだ。

 さらにもう一発。しかし、二度のボルト操作を挟んでの狙撃が上手くいくはずはなかった。目標の後方に位置していた警官が左腕を押さえてうずくまる中、目標は病院の裏口から建物内へ入ることに成功していた。

 ヨハンナ・シェッファー狙撃は失敗に終わった。スコープから目を離し、狙撃銃を引っ込める。すぐにここを離れ、立ち去らなければならない。眩い銀色に輝く髪を持った少女は、事前に教えられていた逃走経路を頭の中で再確認する。この建物から出て南へすぐの所に、日本風の無人の邸宅がある。その家には隠し部屋があり、そこに銃を置く。そして裏口から出て、何食わぬ顔で市街地へ向かう。エルガロード駅で迎えの者と合流し、メートヒエンへ脱出する……それが少女に教えられた経路、託された任務だった。

 すぐに離れなければ。そう思い、窓際を離れようとした瞬間だった。

 銀髪の少女は、外から飛来した一発の銃弾により、頭部を撃ち抜かれ、即死した。


「……」

 レイは鐘楼に陣取っていた。その手には、ミークが用いていた狙撃銃が握られている。

 ヨハンナが懐柔されて困るのは、既に凶悪犯となっているレイではなく、マーリン家の方だ。ネクロフが死んで副首相が昇格した形となった現政府は、マーリン家との癒着を断ち切ろうとしている。マッチポンプ式にマーリン家や魔法テロリストと融通し合っていた政府の罪を、ヨハンナを懐柔して証言させることで全てネクロフ一人に被せようとしているものと考えられる。

 だがマーリン家としてはそんなことは当然迎合できない。ヨハンナの暗殺を謀ることは容易に想像できた。その場合も、現政府は「マーリン家の者が前首相との間にあった癒着の露見を恐れて暗殺に踏み切った」と公表してマーリン家を貶める算段だろう。どちらに転んでも、マーリン家が損をする。

 それならば、とレイは考えた。

 マーリン家の身内で、ランツェの命令には忠実に従い、なおかつマーリン家からも疎まれ、絶縁してもおかしくない人物が暗殺を実行するならば、政府の言葉は妄言、暗殺はその人物の独断専行として一応処理できる。かなり苦しい言い逃れだが、癒着を認めてしまうよりは分が良いと考えるのではないか。そうレイは読んだのだ。

 つまり、ヨハンナ暗殺を実行する人物は一人しかいない。

 イーリス・マーリン。

 行方をくらまして久しいが、実家とはおそらく定期的に連絡を取っているはずであった。あのイーリスがランツェと縁を切るとは考えにくい。

 そしてレイはミゥから入手した情報をもとに、イーリスが現れるであろう場所を徹底的に絞り込んだ。同時に、ミゥもマーリン家へ戻り、ランツェにヨハンナの情報を流して暗殺の場所を誘導した。

 結果、病院の裏口を狙撃できるホテルの一室を、ミゥが予約した。そしてレイは、その部屋の窓を狙える位置……この鐘楼、あの忌々しい惨劇が起こった鐘楼に陣取ったのだ。

 そして作戦は成功した。

 遥か遠方の窓の中で、銀色の長い髪が斃れていったのを、はっきりと見て取った。

 宿敵イーリス・マーリンが、あそこで死んだ。

 レイは狙撃銃を置くと、その場に座り込んだ。

 今でも、あの時ミークがイーリスに撃たれ、自分にもたれ掛かってきた重みを、はっきりと憶えている。

「ミーク……」

 復讐を成し遂げたレイには、亡き恋人の最期の寝顔が見えた。無論幻覚だと判っている。だが、レイはその幻覚に、語り掛けずにはいられなかった。

「殺したよ、この国で最悪の魔法テロリストを」

 幻覚のミークが、うっすらと目を開け、小さく微笑んだような気がした。

「君の仇を、討ったよ」

 そしてレイは、懐からあるものを取り出した。

 それはぼろぼろになった、一冊の本だった。

「待っててくれミーク。この術式が完成すれば、君を蘇生できる。あとはあの極悪魔法工房を掌握してしまえば、ほぼ完成に持っていける。必ず、君にもう一度会うから……な」

 言い終えると同時に、ミークの幻影は消えていた。レイは一つ頷くと、本を懐に仕舞って、そして立ち上がった。あとは簡単だ。監禁しているローゼを餌にすれば、跡取りがいなくなるランツェはレイに協力せざるを得なくなる。ブルーマーリンのノウハウがあれば、彼の目指す究極の魔法は実現できる可能性が高い。勝利を確信したレイが、鐘楼を下りようと振り向いた先に、一人の人物が立っていた。


「あら……お久しぶりね」


 イーリス・マーリンが、そこにいた。

説明ばかりですねぇ。ワッハハハ!

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