第四章
首相が死んでから、二か月が経った。
メートヒエン郊外の商店で、新聞を買った少女がいた。
普通、こんな年齢の少女は新聞を買ったりはしないものだが、この日ばかりは店主も然程不審には思わなかった。
この日の一面記事は、エルガロードで起こった事件の最終章だからである。
「……」
少女は無言で記事を読む。その記事の内容は、要約すると以下のようなものだ。
二か月前、エルガロードで起こった爆発。それは事故ではなく、やはり魔法テロリストによる仕業だった。しかも、彼らが用いたのは爆弾ではない。魔法ですらない。それは、砲弾だった。このことが判ったのは事件後さほど経っていない頃だったが、果たしてその『砲』がどこにあったのかがわからなかった。その目星がついたのが先日で、今日がそれを引き揚げる日である。
エルガロード港から沖へ出て少し南下すると、小さな島がいくつかある。その島の裏側で見つかった沈没船。それこそが、魔法テロリストが用いた即席砲艦の残骸だとされた。
その引き揚げ調査が今日行なわれる。もっとも、現場は危険であるとして厳重に封鎖されているため、近寄ることはできない。多くの市民は、それがわかるとこの事件から興味を失い、新聞を捲る。
しかし、少女は違った。その記事の端に書かれていた、小さな記述を見逃さなかった。
『魔法テロリストの活動が活発化したことを受け、政府は病院刑務所に収容中のヨハンナ・シェッファーを近日中にも設備の整った施設へ移送、懐柔を図る見通し』
「そんな情報を漏らす政府があるか」
レイ・ルイーネは露骨に訝しんだ。ミゥが持ってきたこの情報は、どう見ても何かの陰謀が絡んでいるとしか思えなかった。
「例えば、移送車両を私たちが狙うと想定して、おびき出すとか?」
「そういうことだ」
ぶっきらぼうに言い、レイは手元の本に目を落とした。ナレッジ魔法図書館に陣取ってからというもの、彼の一日は読書だけで消費されていた。
「一体何をそう熱心に調べてるわけ?」
ミゥの問いに対し、それに答えることすら面倒だとでも言うように鋭い視線を送ると、無機質な声で返事をした。
「蘇生魔法だ。ミークを生き返らせる方法がないか探ってる」
「は?」
ミゥは呆れた。そんなことができるはずはない。だがレイは言葉を重ねる。
「普通は無理だが、ここは世界最高の魔法使いの城だ。そして俺は世界最高のマジックアイテムトレーダーだ。そして、今俺の手の内に、世界最高かつ最低の魔法工房の娘までいる。これなら、何かできないとも限らない」
「……」
ミゥは二の句が継げない。しかし、レイの顔を見るに、どうやら本気らしい。
「じゃあ、とりあえずヨハンナは放置していていいのね?」
「構わない。そもそもあんな女、死のうが生きようが知ったことか」
ページを乱暴に捲りながら言う。冷め切った紅茶を飲み、ミゥが買ってきたパンを食いちぎり、本に没頭する。
「これだ、これは基礎理論に使えるぞ」
ペンを走らせ、汚い字で本の内容を書き写す。傍から見れば、世紀の大発明を目指す異端学者のようにも見える。
だが、間もなく発明王レイは、手をピタリと止めた。
「おい、ミゥ」
「?」
帰り支度をしていたミゥも手を止める。
「ヨハンナの移送先と期日、もしわかったら教えてくれ。いや、よく考えたら……殺さないといけない」
ミゥはレイの意図を悟り、小さく笑みを浮かべた。
そして数日後、その情報をレイに渡した彼女は、メートヒエンへ戻った。今回の休暇を終え、再びマーリン家で仕えるためである。
メートヒエンの駅で列車から降りた彼女は、徒歩でマーリン家へ向かう。当然ながら、メイドに迎えの車など寄越されない。
その姿を、建物の陰からじっと見る者があることに、ミゥは気付かぬふりをした。
OUOSVAVV
D M




