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第一章

 エルガロード市街地は今日も五月蠅い。多くの人が行き交い、金や物が動いている。

 それは、つい二年前、この街に悪の砲弾が降り注ぐ一歩手前まで来ていたとは想像もできないほどの、いつも通りの風景だった。

 街中の裏通り。三階建ての古びた建物の中に、僕はいた。

 僕はミーク・マクマスター・ドルイット。その名を騙る男。本名はレイ・ルイーネ。

 主を失ったナレッジ魔法図書館は、すっかり埃の海と化している。そこに僕が侵入したのが、一か月ほど前のことだった。

 亡きシアスの両親が今のこの図書館の持ち主であるが、自慢の娘を失った彼らは現在、仕事も手に付かず荒れた生活をしていると聞く。それが二年も続いているのだから、心身ともにすっかり衰弱してしまい、当然、図書館の管理などできるはずもなかった。傍から見ればだらしないように思えるかもしれないが、彼らはこのエルガロードでおそらく唯一、二年前の事件に涙できる人物ではないかとさえ思う。

 そして、その犯人と目されている脱獄囚が、いま彼らの所有する物件を隠れ家としている。なんという皮肉だろう。

 もっとも、僕はそもそも犯人ではない。僕が人を殺めたのは、あの事件で犯人扱いされたずっと後が初めてだ。

 そう、僕は結局、本当に殺人犯になってしまっている。殺したのは確かに悪党だったが、そんなことで無罪放免になることなどない。

 だからこうして、身を隠しているのだ。おそらく、そうそう見つからないこの場所で。

 加えて言うなら、亡き友人への償いの意味もある。シアスをイーリスと引き合わせたのは僕だ。そしてシアスを守れなかったのも僕である。あの時、もしも僕が、咄嗟にイーリスに飛び掛かって押さえ込んでいれば、あるいはシアスを救えたかもしれなかったのに。

 いや、最初からイーリスの弟子入りなど断っていれば。そうならば、シアスだけでなく、ミークも生きていたはずなのに。

 ミーク。

 すっと背筋の伸びた正しい姿勢。年相応の膨らみを成す胸。大きなリボンで縛られてくびれの強調された腰。年相応の膨らみを成す胸。昔と変わらないふわふわの髪。年相応の膨らみを成す胸……。

 あの美しい幼馴染、あの可憐な友人、あの最愛の恋人を、僕は僕のミスで失った。

 床に積もった埃に、小さな丸い染みができた。それが一つ、また一つと増えていく。ミークを想うと、悲しさと悔しさで涙が止まらなくなる。僕は声を上げて泣く。床にへたれ込み、力の限り泣き続けた。こんなことをもう何度繰り返したかもわからないが、それでもまだ涙は止まらない。苦し紛れに、近くの物に当たったり、自分の身体を傷付けたりもした。しかしそんなことで楽になることなどなかった。

 取り返しのつかないこと。

 もう二度と戻れないこと。

 泣いても喚いても、叫んでも暴れても、もうどうにもならない。

 僕は死ぬまで、こんなことを繰り返す。

 そうまでして何故生きているのか?

 決まっている。

 僕は果たすのだ。

 復讐を。

 殺すのだ、イーリス・マーリンを。ネクロフ・イリアーを。そしてその後に、レイ・ルイーネを殺すのだ。これは僕の復讐ではない。これはミークの復讐だ。だから僕はミークを騙り、彼女のメイド服を着て、殺しを始めた。

 殺す。殺す。殺す。

 殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。

 必ず殺す。必ず殺す。必ず殺す。必ず殺す。必ず殺す。必ず殺す。必ず殺す。必ず殺す。必ず殺す。必ず殺す。必ず殺す。必ず殺す。必ず殺す。必ず殺す。必ず殺す。必ず殺す。必ず殺す。必ず殺す。必ず殺す。必ず殺す。必ず殺す。必ず殺す。必ず殺す。必ず殺す。必ず殺す。必ず殺す。必ず殺す。必ず殺す。必ず殺す。必ず殺す。必ず殺す。必ず殺す。必ず殺す。必ず殺す。必ず殺す。必ず殺す。必ず殺す。必ず殺す。必ず殺す。必ず殺す。必ず殺す。必ず殺す。必ず殺す。必ず殺す。必ず殺す。必ず殺す。必ず殺す。必ず殺す。必ず殺す。必ず殺す。必ず殺す。必ず殺す。必ず殺す。必ず殺す。必ず殺す。必ず殺す。必ず殺す。必ず殺す。必ず殺す。必ず殺す。必ず殺す。必ず殺す。必ず殺す。必ず殺す。必ず殺す。必ず殺す。必ず殺す。必ず殺す。必ず殺す。必ず殺す。必ず殺す。必ず殺す。必ず殺す。必ず殺す。必ず殺す。必ず殺す。必ず殺す。必ず殺す。必ず殺す。必ず殺す。必ず殺す。必ず殺す。必ず殺す。必ず殺す。必ず殺す。必ず殺す。必ず殺す。必ず殺す。必ず殺す。必ず殺す。必ず殺す。必ず殺す。必ず殺す。必ず殺す。必ず殺す。必ず殺す。必ず殺す。必ず殺す。必ず殺す。必ず殺す。必ず殺す。必ず殺す。必ず殺す。必ず殺す。必ず殺す。必ず殺す。必ず殺す。必ず殺す。必ず殺す。必ず殺す。必ず殺す。必ず殺す。必ず殺す。必ず殺す。必ず殺す。必ず殺す。必ず殺す。必ず殺す。必ず殺す。必ず殺す。必ず殺す。必ず殺す。必ず殺す。必ず殺す。必ず殺す。必ず殺す。必ず殺す。必ず殺す。必ず殺す。必ず殺す。必ず殺す。必ず殺す。必ず殺す。必ず殺す。必ず殺す。必ず殺す。必ず殺す。必ず殺す。必ず殺す。必ず殺す。必ず殺す。必ず殺す。必ず殺す。必ず殺す。必ず殺す。必ず殺す。必ず殺す。必ず殺す。必ず殺す。必ず殺す。必ず殺す。必ず殺す。必ず殺す。必ず殺す。必ず殺す。必ず殺す。必ず殺す。必ず殺す。必ず殺す。必ず殺す。必ず殺す。必ず殺す。必ず殺す。必ず殺す。必ず殺す。必ず殺す。必ず殺す。必ず殺す。必ず殺す。必ず殺す。必ず殺す。必ず殺す。必ず殺す。必ず殺す。必ず殺す。必ず殺す。必ず殺す。必ず殺す。必ず殺す。必ず殺す。必ず殺す。必ず殺す。必ず殺す。必ず殺す。必ず殺す。必ず殺す。必ず殺す。必ず殺す。必ず殺す。必ず殺す。必ず殺す。必ず殺す。

 涙と鼻水にまみれた僕が正気に戻ったのは、聞きなれない轟音が突如響いた瞬間だった。

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