プロローグ
「ただいまー!じいちゃん、今日も異世界の話聞かせて!」
玄関を勢いよく開け、靴を放り捨てて駆け出す、黒髪の男の子。小学校から帰ると、縁側に座る祖父の元へ行き、異世界のお話を聞くのが日課だった。
異世界。自分の居る世界とは違う、異なる世界。大見俊太は異世界、特に魔法やモンスターが居る世界に憧れていた。
保育園を卒業する一ヶ月前の事、両親が行方不明になり、母方の祖父の家で預かられた俺は、祖父の英雄譚を聞いて育った。
祖父曰く、二十歳の頃に、森で偶然出会った妖精に異世界へ飛ばされ、異世界を救って来たそうだ。その世界には魔法が存在し、人族、ドワーフ族、猫人族、エルフ族に妖精族等、様々な種族が争っていた。
原因は神を名乗る高位存在。デウスと名乗った彼らは、人族をベースに独自進化させた種族を戦わせ、誰が一番優秀であるかを決める勝負を行っていたらしい。
小さかった俺は、デウスを悪い奴らだー!と騒ぎたて、その様子を祖父は笑いながら続きを話してくれた。
祖父を飛ばした妖精は、保守派のゼウスの元、原住民である人間の保護を目的に、人族と協力関係にあったそうだ。
祖父は、人族と妖精族に協力し、各種族で協力者を募り、仲間と共に、ゼウスを討伐、もしくは封印して周り、ついに戦争を止めることに成功した。
戦争が終わり、ある程度復興が終わったところで、祖父は元の世界に戻る事を告げ、留まって欲しいという願いを断って、皆に送り出して貰ったそうだ。
理由は、結婚する予定だった恋人に会う為だ。自分の事を忘れていても、幸せになった彼女の姿だけでも確認しようと会いに行った所、なんと彼女は十年もの間、祖父を想い待ち続けていた。
祖父の話に一喜一憂し、どこの主人公だと戦慄しながらも、記憶にない、自分が幼い頃に亡くなっている祖母の事を、とても強い女性だと感じたのを今でも覚えている。
その後、母が生まれ結婚し、俺が生まれて、今に至る。
話の真偽はともかく、俺は祖父の話に夢中だった。モンスターとの激闘、初めて見る景色の感動と興奮、出会いと別れの一期一会、すべての話が新鮮で、小さな俺の心臓を躍らせた。
祖父にお願いし、様々な所へ行き武術の訓練や、サバイバル技術を教えて貰った。
中学に上がる頃には、祖父曰く、何でも有りの戦闘では、高校生を含めても、世界で一番強い中学生だろうというお墨付きも貰えた。
ある時、祖父の裏稼業であるエージェントの仕事にも連れていかれ、護衛や暗殺等も行った。血反吐を吐き、人を殺した罪悪感から体調を崩した俺を、祖父はいつも笑って励ました。
『罪悪感があるなら忘れるな、自分の信念を曲げるような行為は絶対するな。何をしても構わん。だが、自分を偽ることなく、胸を張れる誇れる自分で居ろ。』
たまに見せる祖父の真剣な表情が、俺に大切な事を教えているのだと教えてくれた。
唯一、魔法だけは教えて貰うことができなかった。何でも魔素が地球にはないのが原因らしい。残念だ。
様々な技術、心得を教えて貰いながら生活し、中学を卒業する頃、祖父は体調を崩しこの世を去った。亡くなる直前、この家を売り払って良い事、そして・・・・・・異世界へ行く方法を祖父から教わった。