第五章、その五
○月×日(追補分)。そしてとうとう『最後の晩餐』の日がやってきた。
闘いの日々は終わった。俺はこの狂気のサバイバル・ゲームを勝ち抜いたのだ。
館中をくまなく探し回っても、もはや猫の子一匹見つかりはしない。女たちは全員、食糧庫あたりに身を潜めているのだろう。
しかたなく俺は座敷牢へと戻り、期待に胸を膨らませて俺の帰りを待ちわびていた少年に言った。
「すまんな鞠緒。この里の人間どもはすべて狩りつくしたようだ。おまえに『おやつ』を与えることも、どうやらこれまでみたいだ」
しかしその少年は一瞬虚をつかれた顔をしたものの、すぐさま何かに気づいたようにニンマリと笑ってこう言った。
「いや、まだ一人残っておるではないか。──しかも、我のすぐ目の前にな」
そしてその少年は舌なめずりしながら、最後の獲物のほうへとゆっくりと歩き始める。
俺はまるでその黄金色の縦虹彩の瞳に魅入られてしまったかのように、身動き一つできずに立ちつくしていた。
──今まで犯した様々な罪に対する、裁きの瞬間を待つ咎人のように。
◇ ◆ ◇
「──な〜んてね♡」
……すみません。延々と同じような記述ばかり読んでいたら、つい自分でもやってみたくなっちゃって、最後の(追補分)だけは勝手に捏造してみました。しかもブラック仕様で。
でもね実際問題としても、だいたいこんな感じだったかと思いますよ。
まさか本当にこんな、欧米の三流ブラック・ジョークのオチみたいではなかったとしても、大筋としてはあながち外れてはいないことでしょう。
たぶん、このような結末が待っていることに途中で気づくことによって、叔父はあんな支離滅裂に焦りまくった『最後の手記』を残すことになったと思うんだ。
鞠緒と交わるために『エサ』を与えながら、この限られた狭き世界の中で狩るべき獲物がだんだんと少なくなっていくことに気づくたびに、つい思ってしまったわけだ。
──このまま自分以外の人間が完全にいなくなったとき、あの『人喰いの少年』はいったいどうする気であろうかと。
そして一度抱いてしまった疑惑は、どんどんと膨らんでゆくだけだったのだ。
その最たるものが現在も絶賛開催中の、『完全密室サバイバル・ゲーム』そのものに対する疑念であった。
本当にこのままこのゲームを勝ち続けた末に手に入るのは、ただの勝利の栄冠なのだろうかと。そもそもこのゲーム自体、いったい何を目的に催されているのかと。
たとえば、『人魚伝説』だの『不老不死の霊薬の肉』だの『人肉を食べると女性に変わる少年』だのといったものがすべて、まぬけな人間どもをおびき寄せるための『罠』であったとしたら。
つまりはこれらは全部、『人喰いのモンスター』である少年を養っていくために哀れなエサども同士を殺し合わせることを目的とする、『仕組まれたゲーム』であったとしたら。
──すべての辻褄が、ぴたりと合ってしまうのだ。
要するにこの『生き残り』ゲームには、最初から勝者など用意されてはいなかったのだ。
何せ勝とうが負けようが最後には全員鞠緒のエサとなってしまうのだから、文字通り『生き残る者』など一人もいなくなるわけなのである。
ふむ、『クローズド・サークルは全滅が華』とも言うからなあ。ある意味原則通りの優等生的展開ではないか。仮にこれを基にして小説を書けば、立派に『本格推理小説』の名作の一つとして語り継がれていくことになるであろう。
「……なわけないだろ。冗談じゃないぞ、まったく!」
もちろんこのことに関して当の本人である鞠緒には、何の罪も責任もありはしなかった。
彼にとって人肉を食べることは、別に何か特別な理由があるわけでもなく、ただ自分の生命を維持するために捕食活動を行っているだけなのであって、我々人間が鳥や獣を殺して食べていることと何ら変わりはないのだ。つまりは彼自身には非難すべきことも罰すべきことも、何一つ存在してはいないのであった。
すなわちこれらの『謀りごと』はすべて、あくまでも『他の誰かさん』たちの都合に基づくものであるのだ。
──たとえば叔父が女の体の鞠緒と交わるために、盛んに『エサ』を狩りとってきたのと同様に。
おそらくは『遠見』や『女性への変身』等の彼の『巫女姫』としての異能の力は、人肉を食べることによってこそ、その効果を最大限に発揮できるような仕組みになっているのではなかろうか。
だとするとこの目ではまだ実際には見ていないものの、満月の夜でなくとも人肉を食せば女の体になれるという手記の記述が、非常に納得性と信憑性を持つことになるのだ。
この馬鹿げた『ゲーム』を裏から操っている黒幕とやらは、許斐氏の『予知能力講座』や夕霞さんを迎えに来た軍用ヘリのことなどを勘案すれば、日本国政府そのものかそれに比肩する絶大な権力を有する超法規的組織というところではなかろうかと思われた。
いやまあ、そんなことはどうでもいいんだけどね。別に僕は『社会派サスペンス小説』の主人公もどきを、演じる気なぞは無いし。
しかし、たとえどんな国家的な利益が隠されていようとも、この無垢なる少年がいわれなき罪を背負い込む必要なんてどこにも存在しないのである。
そして少なくとも僕自身について言えば、これ以上彼にこの馬鹿げた殺戮ゲームにかかわらさせて、愚かな人間同士が殺し合う姿を見せ続けるつもりは無かった。
──僕は『あの叔父』とは、断じてちがうのだから。
クレージーきわまるサバイバル・ゲームに喜々として参加し、本来仲間である同業者たちを殺しその屍体の一部を切り取って、純真無垢なる少年に無理やり喰わせ続け、ペットのごとく意のままに従わせていたずらに傷つけたり女体化させて欲望のままに嬲ったりするなんて、とても正気の人間のなせる業とは思えなかった。
だから僕は、決意したのである。
──もうこれ以上、この少年が己の身を他者の血で穢すことのないように、彼の『罪深き生』を終わらせてやることを。
なぜなら、この『人喰いの少年』のことを真に愛し言うことをきかせることができるのは、世界中でこの僕だけなのだから。




